必須条件 【2/2】
…
……
………
一体何処に向かってるんでしょうか。
「てか、もうすぐ試合始まる…、」
「じゃあ、この辺でいいや。」
人通りがない場所でやっと足を止めた。
試合開始まであと10分もない。
「ねぇ、なに?」
「今言うことじゃねぇけど、言っとく。
俺、名前のことが好きだ。」
いつになく真面目な顔。
それはそう。
試合中を思い出させる表情だった。
「いつも可愛い子を探してたのだって
お前に少しでも妬いてもらいたいと思ったからだ。」
「何言って…、」
「だから。」
生暖かい夏の風が2人の髪をなでる。
「俺のこと、ちゃんと見てて欲しい。
今日は、名前だけのために戦うから。」
それだけ告げると、満足したように踵を返した。
ちゃんと見てて欲しい?
ふざけるな。
私は…。
「由孝!!」
ちょっと遠くなった背中に思い切り叫んだ。
吃驚したように足を止めて、私を見る。
それを確認すると
深く息を吸い込んで告げる。
「今日に試合に勝ったら…。」
(次は私がちゃんと気持ちを伝える番)
(でも、試合に勝つことが)
(そのための必須条件)
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