なりふり構わず
「ははは…。
やっぱりそうなんだね、翔一。」
険悪な空気の中、
体育館に笑い声が響いた。
「紗枝…。」
「紗枝#先輩!
なんで、ここに…、」
「ごめん、翔一。
別れてもらう。」
つかつかと主将に歩み寄ると、言い放たれた言葉。
そこに渡り廊下で見た、
あの儚さはなく。
変わりに、凛々しさと気高さのようなものがあった。
「はは、若松に何か影響されたん?
…奴隷の癖に、ちょお生意気やで?」
「奴隷?そうだよね。
アンタからしたら、ね。
でも、私だってちゃんと意志を持ってるの。
奴隷、あんまりナメてると噛みつかれるよ?」
真正面から、睨みあう。
「面白い冗談言うな、紗枝。
それで?
ワシと別れて、若松にでも乗り換えるつもりか?」
「別に?
ただ、若松君に背中を押されたのは事実。
いつまでもアンタから離れないでいたら
私が壊れるって改めて思ったもん。」
「奴隷なんてそんなもんやん。」
「だから、奴隷辞める。
私は“東雲紗枝”になるよ。
そのためには、アンタと別れないと何も始まらない。」
なりふり構わず自分がどうなるか後のことなんか考えずに、
ただ、なりふり構わず主将に逆らう紗枝先輩は
今までとは違って
キラキラと輝いて見えた。
そんな気がした。