……後悔するなよ。
よし、開けるぞ。
なんだか、よく見えないな。
誰か電気つけろよ。
……お、ついた。
あれ?
なんだよ、他の奴等はどうしたんだ?
「えっ、あの……」
私は、周りを見回した。
体育館には、新堂さんと私の二人っきりしかいなかった。
あっ。
みんな、入口の外にいる。
怖がってるのかしら。
「……倉田。
電気をつけたのはお前か?」
新堂さんが、顔をしかめている。
私は電気なんてつけてない。
首を振ると、新堂さんは声をひそめた。
「俺だってつけてないぞ。
じゃあ、誰がつけたんだ」
入口の外で、みんながこっちを見ている。
あそこからじゃ、電気はつけられないはずよ。
じゃあ、誰がつけたの?
その時、突然入口の扉が閉まった。
「きゃああっ!」
「落ち着け、倉田!!」
新堂さんが、私の腕を掴んだ。
「何だかまずいことになっちまったな……」
体育館には、他に人の気配はない。
でも、本当にそうなのかしら。
誰かが隠れていたずらしてるんじゃ……。
……なんだろう。
足音が聞こえてきた。
体育館の床を踏む、キュッキュッっていう足音。
段々近付いて来る。
やだ。
だって、他には誰もいないのに……。
足音は、私達の側でピタリと止まった。
「田所?」
新堂さんが、そんなことをいいだした。
まさか。
新堂さんには見えるの?
田所さんって人と話してるの?
「なんだ、それは……えっ、俺にくれるのか?」
新堂さんは、手を差し出した。
何か、受け取ってるみたい。
でも私には、田所さんも、新堂さんが受け取ったものも見えない。
「あの、新堂さん……」
「しっ」
新堂さんは、受け取った何かを、一心に見ている。
再び、近くで足音が響く。
私達の側にいた田所さんが歩き始めたらしい。
やがて、足音が遠退いていった。
「おい、どうしたんだ?」
声とともに、突然入口の扉が開いた。
夢からさめたように、一気に緊張がほぐれる。
外にいたみんなが、中に入ってきた。
「びっくりしちゃった。
突然扉が閉まっちゃって!
ねえ、大丈夫だった?」
「まったく、危ないなあ。
駄目だよ、女の子が体育館なんかで男と二人きりになっちゃ。
僕は、心臓が止まるかと思ったよ。
恵美ちゃんは可愛いからさ」
「うふふ……。
田所とかって人に会えたの?
嫌ね、あなた、汗びっしょりよ」
みんな、口々にいろんなことをいう。
「部室に戻りましょう……」
私は、それだけいうのが精一杯だった。
「ちょっと待って。
あの人を置いてくの?」
岩下さんが、指をさす。
あっ、そうだった。
新堂さんがまだ体育館の中だったわ。
「あの、新堂さ……」
新堂さんは、何かを見ながらぶつぶついっている。
……やだ、どうしちゃったんだろう。
声をかけにくい雰囲気だわ。
「まあ、いいんじゃない。
置いてきましょうよ」
岩下さんが、ひどく冷たいことをいった。
「でも……」
「彼の話は終わったんだから。
あなたは他に仕事があるでしょ」
……どうしよう。
新堂さんは、手元を見ながら、まだぶつぶついっている。
1.置いて行く
2.呼びに行く
【PS追加END一人残る新堂さん】
『1、置いて行く』
置いて行くしかないかも知れない。
私は、みんなと一緒に体育館から離れた。
『2、呼びに行く』
「私、呼んできます」
そういって、新堂さんのところに行く。
「新堂さん」
話しかけても、やっぱり返事がない。
どうしよう……。
「先に行ってるわよ」
一人がいい、みんながその場を去ろうとした。
やだ、こんなところ、ずっといられないわ。
「待ってください!」
私は、みんなの後を追った。
後ろめたさを感じながら……。
※以下同文※
部室に戻って一息つくと、新堂さんが戻ってきた。
……よかった。
それにしても、さっきのは何だったのかしら。
新堂さん、大丈夫なのかしら。
ちょっと見たところ、あまり変わったところはないようだけど……。
さっきみたいに、ぼうっとした目付きをしていることもないし。
まあ、考えていてもしょうがないわ。
次の話を聞かなくちゃ。
さあ、次は誰の話を聞こうかしら……。
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