どっちかがケガでもしたら大変だわ。
私は止めることにした。
「やめてください!」
他の人の助けも借りて、なんとか二人を離すことができた。
風間さんは、肩で息をしながらジロリと荒井さんをにらんでいる。
「殴られたいというから、リクエストに応えようとしたんだ。
悪いのは荒井じゃないか」
「お願いですからやめてください。
そんなことをするために集まったんじゃないでしょう!?」
風間さんは馬鹿にしたように荒井さんの方を見た。
「こんな話、そんなにムキになることないだろ」
私は荒井さんの方に振り向いた。
荒井さんは真剣な顔をして私達を見ている。
「荒井さんも、ほら仲直りしましょうよ。」
そういうと、風間さんが鼻で笑った。
「ふん。荒井は怖い話なんて知らないんだろ?
話せないから、僕に喧嘩を売ってごまかそうとしたんだ。
白状しろよ」
荒井さんは答えない。
しかし、今までのやりとりを見ていると、確かに荒井さんは風間さんをわざと怒らせているように見えた。
なぜ、荒井さんは風間さんを挑発するようなことを……?
沈黙がしばらく続いた。
まさか、図星だったんじゃ?
私がそんなことを考えていると、荒井さんは口を開いた。
「……それならば説明しましょう。
本当はそれどころではないのだけど」
さっきまでとは雰囲気が違っていた。
新たに何か決心したような顔つきをしている。
その顔を見て、私は荒井さんに後を任せようと考えた。
「お願いします」
私がいうと、風間さんが不満そうに口を出した。
「日野がどうしてもっていうからきたんだ。
僕は帰らせてもらうよ。
いつまでもここにいて馬鹿がうつったら大変だ」
風間さんは席を立つとドアの方へ歩いていった。
「しかし、日野の奴、ここまでおめでたい連中をよくも集められたもんだよ。
じゃーな、企画の成功を祈っているよ」
風間さんは馬鹿にするような笑いを浮かべた。
「じゃーな」
そういって彼はドアのノブに手をかけた。
突然、部屋に風間さんの悲鳴が轟いた。
ドアのノブから風間さんの手に黒い影が伝わって来たようだった。
「大変です。
この部屋に張ってあった結界を、霊が風間さんを媒体にして破ろうとしているんですよ」
荒井さんは、今までの暗く内向的な性格から一変して、精気をみなぎらせている。
「僕の力では、この部屋に結界を張るので精一杯でした。
だから、みんなが話をしている間に、少しでも退散させようとしたんですが、あんなことになってしまい……。
もう戦うしかないようです」
荒井さんが手をかざすと、風間さんの手元の黒い影が、空気にとけるように消滅した。
「このままでは、我々の命に関わります。
どうやら結界が破られつつあります。
この企画を聞きつけ、何とかこんな事態を未然に防ごうと思って来たんですが駄目でした。
残念ですが誰かが犠牲になるしかないかもしれません……」
「誰か一人が犠牲になれば助かるんですか」
「どんな人でも、命が消滅するときに放出されるエネルギーは膨大です」
私はみんなを見渡した。
どうやって選んだらいいの……。
この会の責任は私が取るべきなの……?
私は自問自答していた。
みんなも他の人たちを見渡している。
きっと犠牲者について考えているに違いないわ。
私は迷った。
「もう時間がありません」
荒井さんがそう呟く。
私は床を見つめながら考えていた。
やっぱり、私が犠牲になるべきなのかもしれない……。
私は決心した。
……犠牲になろう。
そのことをいい出そうと、顔を上げてみんなを見た。
すると、彼らは一点を凝視していた。
その視線を追ってみると、風間さんに向かっていた。
「なんだよ!」
風間さんは私達の視線に気付いたのか、怒ったような口調でいった。
「何でそんな目で僕を見るのかな。
まさか僕を犠牲にしようってわけじゃないよね。
この企画をはじめたのはそもそも恵美ちゃん達なんだから」
彼は精一杯、みんなを説得しているような口調だった。
しかし、みんなの視線は風間さんから離れようとはしなかった。
「恵美ちゃん、そうだろ」
風間さんは私のところに来てささやいた。
「君を犠牲にしようなんていわないからさ。
ほら、みんなを集めた日野に責任をとらせればいいじゃないか」
私は何も言葉を発しなかった。
犠牲にならなくても済むかもしれないという気持ちが、何も喋るなと警告している気がした。
「ねえ荒井君、これから、恵美ちゃんに日野を呼んできてもらおうと思ってるんだけど」
「彼を犠牲にするんですか。
それなら呼ばなくても結構です、彼のもとに霊を送り込みますから」
そういうと荒井さんは一同を見渡した。
「荒井君、早く終わらしてよ。
僕はちょっとこの後に用があるんだよね。
それに恵美ちゃんが怖がってるみたいだし」
そのとき部屋の外で激しい音がなった。
「外の霊はかなり強力な様ですね。
もしかすると我々はもう駄目かもしれません」
荒井さんは、部屋の外を透かして見るように、壁を凝視している。
「どういうことだよ、荒井。
さっき、日野を犠牲にするっていったじゃないか」
風間さんは怒ったような口調でそういった。
「もう、一人が犠牲になれば済むという問題じゃなくなったということです」
風間さんは顔面の筋肉を引きつらせている。
「僕はまっぴらごめんだね。
こんな茶番はおしまいだ。
君達だけで勝手に続ければいいんだ。
そんな手品で僕をだまそうったって無駄だね。
僕はもう帰らせてもらうから」
風間さんはそう一気にまくしたてた。
彼は正気を失っている。
そして、ドアの方へぶつぶついいながら歩いて行く。
彼はドアを開けると、おもむろに部屋を出た。
ドアの向こうは青白い光で満ちている。
そして、風間さんは光の中に消えていった。
しばらくして、彼の悲鳴が轟いた。
青白い光は、風間さんの悲鳴と共に、徐々にその強さを弱めていく。
「終わったようです」
荒井さんはそう呟くと部屋を出ていった。
残された私達は、しばらくの間たがいに顔を見合わせ、おろおろしていた。
そして、落ち着きを取り戻した後、静かに部屋の外へ出た。
部屋の外にはいつもの学校があった。
「風間さん?
あそこに倒れているのは風間さんじゃ……」
廊下には誰かが倒れている。
私は駆け寄った。
やっぱり、風間さんだった。
「風間さん、風間さん……、ん、生きている、生きていますよ」
みんなが駆け寄り、風間さんを抱え起こした。
彼はゆっくり目をあけた。
「ん、どうしたんだ。
あっ、恵美ちゃん、みんな」
不思議と穏やかな風間さんがそこにいた。
荒井さんと喧嘩した頃からの記憶はないようだった。
そして、私達は一息ついた。
私達が取り戻した平穏を噛みしめていると、私のうしろから声がした。
「みなさん、七不思議のメンバーですよね」
いつの間にか荒井さんが背後にいた。
「どうもすいません。
ちょっと用があって遅れました」
「………………………」
七不思議の企画は中止になった。
日野先輩の話によると、あれから風間さんは穏やかな性格になり、くだらないことをいうこともなくなったということだった。
あのときの荒井さんは、後から来た本物の荒井さんとは別人らしい。
昨日の出来事はなんだったのかしら。
もしかしたら、風間さんがあの不思議なパワーを放出したことにより、霊が退散したのかも……。
分からないことだらけだわ。
私は、新聞部をやめた。
一時でも、日野先輩を犠牲にしようとした自分が嫌で……。
もう、七不思議なんてたくさんだわ。
そしてすべてが終わった…
(男主人公)
「何でそんな目で僕を見るのかな。
まさか僕を犠牲にしようってわけじゃないよね。
この企画をはじめたのはそもそも坂上達なんだから」
彼は精一杯、みんなを説得しているような口調だ。
しかし、みんなの視線は風間さんから離れようとはしなかった。
「坂上、そうだろ」
風間さんは僕のところに来てつかみかかった。
「おまえはどう思っているんだ。
まさか、自分の責任を僕に押し付けようって訳じゃないよね」
僕は何も言葉を発しなかった。
犠牲にならなくても済むかもしれないという気持ちが、何も喋るなと警告している気がした。
「ねえ荒井君、さっきいってた犠牲者って、坂上君でいいかな」
「僕は構いませんよ。
みなさん、いいですか」
そういうと荒井さんは一同を見渡した。
「荒井君、早く終わらしてよ。
僕はちょっとこの後に用があるんだよね。
それに坂上君も覚悟が鈍ると思うからさ」
そのとき部屋の外で激しい音がなった。
「外の霊はかなり強力な様ですね。
もしかすると我々はもう駄目かもしれません」
荒井さんは、部屋の外を透かして見るように、壁を凝視している。
「どういうことだよ、荒井。
さっき、誰かが犠牲になれば助かるっていったじゃないか」
(2)
もしかしたら、風間さんがあの不思議なパワーを放出したことにより、霊が退散したのかも……。
この学校は、たくさんの謎に満ちている。
僕は、その謎には触れないほうがいいと、肌で感じ取っていた。
もう、七不思議なんてたくさんだった。
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