「実は……。
僕もそうじゃないかと思っていたんです……」
僕は素直に打ち明けた。
荒井さんの顔を見た時から、奇妙な懐かしさを感じていた……。
それは、前世の記憶だったんだ!
前世で、僕は荒井さんと兄弟だった……。
この胸に沸き上がってくる暖かい感情……。
これが真の兄弟愛というものに違いない!
ああ……。
今日は、なんて素晴らしい日だろう……。
僕は感動にうち奮えていた。
……と、その時。
「ちょっと待って!」
ふいに、メンバーの一人が声を上げた。
「ちょっと待ってよ。
それじゃあ、まるで坂上君が荒井さんのお兄さんだったみたいじゃない!」
「えっ? 違うんですか?」
「ぜーんぜん違ってるわ。
だって、荒井さんと前世で兄弟だったのは、この私なんだもん!」
……ええっ!?
荒井さんのお兄さんが、この女の子だって……!?
「話を聞いてるうちに、はっきりと思いだしたんだ。
私の前世の名は、宗一郎……。
当時の家族は、父と母と、二つ年下の弟が一人……。
弟の名前は……」
「もういいんです!」
遮ったのは、他の誰でもない荒井さん本人だった。
「もういいんです……。
あなたが兄さんだってことが、今、はっきりとわかりました。
その左手に並んだ三つのホクロが何よりの証拠……。
間違いありません!
あなたこそ、僕の大事な、大事な兄さんの生まれ変わりです。
……ああ、兄さん」
「弟よ!」
二人は、互いの手を握り締めて感動の涙を流してる……。
本当に仲の良い兄弟のようだ。
……ああ。
以前にも、こんな光景を見たことがあるような気がする。
ずーっと昔……。
……そうか。
僕も、その時代に生きていた誰かの生まれ変わりなんだ。
きっと、そうに違いない。
前世での兄弟が感動の再会……。
これは素晴らしい記事になるぞ。
荒井さんの話を元にして……。
そうだ、二人のインタビューも載せよう。
僕が、そんなことを考えてうっとりとしていると……。
「じゃあ、坂上君はまったくの他人だったわけですね」
それまで再会の喜びに涙を流していた荒井さんが、急に感情のない声で呟いた。
「そうよ。
前世での私たちの仲を羨んで、あんな嘘をついたんだわ」
僕を見つめる二人の目には、どこか冷たい光が宿っている。
ついさっきまで、僕を兄と信じていた荒井さんとは大違いだ……。
「ひどい人ですね。
僕を騙すなんて……」
「わかった!
あなた、私から弟を奪うつもりだったんでしょ。
自分が前世の兄だって嘘までついて……」
「僕たちの間に割り込もうなんて、絶対に許せませんね」
二人はイスから立ち上がり、ゆっくり僕の方へと歩いてくる。
瞳に、憎悪の炎を燃やしながら……。
このままでは危険だ!
そうは思うものの、二人に挟まれて逃げようにも逃げられない……。
そしてついに、僕は、窓へと追い詰められてしまった。
不気味に口を歪めた二人が追ってくる。
そして……。
「さよなら」
荒井さんは僕の肩を掴むと、その手に力を込める。
次の瞬間……!
僕の身体は窓ガラスを突き破って、大きく宙へ放り出された。
……ああ。
以前にも、こんなことがなかったか……?
ずーっと昔……。
……そうだ!
僕は、やっぱり荒井さんのお兄さんの生まれ変わりだったんだ。
間違いない。
この一瞬の浮遊感には覚えがある。
あの時の僕も、誰かに突き落とされたんだ。
あれが誰だったのか……。
もしかすると、そいつが僕のフリをして荒井さんを騙しているのかもしれない。
僕は、眼前に迫ってくる地面を見つめながらそんなことを考えていた。
せっかく会えたのに……。
あんなに仲のいい兄弟だったのに、弟には、僕がわからなかったのか……。
左手のホクロなら、僕にもあったんだ……。
鋭い衝撃が走り、急激に気が遠くなっていく。
その薄れて行く意識の中で僕が最後に聞いたのは、最愛の弟と、その弟が兄と信じる者のけたたましい笑い声だった…………。
そしてすべてが終わった…
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