1、岩下を引き止め、自分でドアを開ける 【ゲームオーバー・企画中止】 | ナノ
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「ちょっと、待って下さい。
もしかすると、ドアの外にいるのは七人目の方なのかもしれません。
ここは、私がドアを開けます。
この会の責任と権限は、私にありますからね。
岩下さんは、席に戻ってて下さい。
……いいですね」

じっと岩下さんの目を見つめ返す……。
すると……。
「……わかったわ」
何度か瞬きをして、岩下さんは目を伏せた。

岩下さんが席に着くのを待ってから、私はドアへ近づいた。
恐る恐る腕を伸ばし、しっかりとノブを握る。
そして、ゆっくりと回して……。
……カチャッ。
小さな音をたてて、ドアが開いた。
「どなたですか……?」

ドアの向こうに立っていたのは、背の高い綺麗な顔立ちの男の人……。
「……ここ、新聞部ですよね。
七不思議の会場の……。
二年D組の五十嵐ですが……」
七不思議を知ってるということは、やっぱり七人目……?
……でも、ちょっと待って。

今、この人『五十嵐』って名乗った。
五十嵐……!?
岩下さんの死んだ婚約者の名字も確か五十嵐……。
……と、いうことは幽霊なの!?
「遅くなってすみません。
まだ慣れていないもので……」

そういうと、五十嵐さんはバタンとドアを閉じた。

私たちは、息を殺して彼の挙動を見守る。
……幽霊にしては、存在感があるような気がする。
でも、生きてる人間にしては線が細すぎる……。
みんな、口には出さないけれど、興味と不安の入り交じった視線にそれが伺える。

そんな雰囲気に気づいたのか、五十嵐さんは怪訝そうな顔で私たちを見回した。
「あの……。
みなさん、どうかされたんですか?」
その言葉に慌てたように、みんなは五十嵐さんから目を逸らした。

そして、チラリチラリと私を見る。
……私が、喋らなきゃいけないみたいね。
そうだわ!
「一つ質問してもいいですか?」
……質問の答えで、この人が何者なのか判断すればいいのよ。

私って冴えてるーっ!
「別にかまいませんよ」

さーて、何を聞こう……?


1、岩下さんのこと
2、事故のこと
3、死後の世界のこと
4、なぜここに来たのか



『1、岩下さんのこと』



「あの……。
岩下明美さんを知っていますか?」
「ええ、知っていますよ。
僕の最愛の恋人ですから……」
……やっぱり幽霊に違いない。
「あの……。
あなたは、事故でお亡くなりになったはずなんですが……」



『2、事故のこと』



「あの……。
以前、大事故に遭いませんでしたか?」
「よく知ってますね。
その通りですよ」
……やっぱり幽霊なのかしら?
「その時に、お亡くなりになったと聞いていたんですが……」



『3、死後の世界のこと』



「あの……。
死後の世界を知っていますか?」
「はあ……?」
五十嵐さんは怪訝な顔をしている。
……この質問はちょっとまずかったかな。
「あの……。
あなたは事故でお亡くなりになったと、お聞きしたんですが……」



『4、なぜここに来たのか』



「あの……。
なぜここへ来たんですか?」
「なぜって……。
……呼ばれたからですよ」
……呼ばれた?
日野先輩に……?
それとも岩下さんに……?
……うーん、分からない。
「あの……。
あなたは事故でお亡くなりになったと、お聞きしたんですが……」



※以下同文※



「ええっ!?
そんなこと、誰がいったんですか?」
「誰って……。
岩下さんですよ。
……あなたの婚約者の」
「そうですか、明美が……」
そういって、五十嵐さんは目を伏せた。
「三年前……。
僕は確かに事故に遭いましたが、奇跡的に助かったんです。
ただ、大怪我をしていたので、入院が思ったより長引いてしまい、やむなく留学は取り止めになってしまいましたがね」
……なんだ、そうだったの。
幽霊じゃなかったんだ。

岩下さんたら、なんで嘘をついたりしたのかしら。
そう思って振り返ると……。

……岩下さんがいない!
さっきまで、イスに座っていたのに……。
どこへ行ったのかしら?
「あの、岩下さんは……?」
「あれ……?
そういえばいないね」
「さっきまでいたのになぁ……」
誰も見ていないの?

『恋人が死んだ』
……なんて嘘をついたから、恥ずかしくて隠れてしまったのかもしれない。
うーん。
せっかくだけど、嘘の話は使えないなぁ。
……そんなことを考えていると。

「明美が、そこの席に座っていたんですね……」
五十嵐さんが、ポツリと呟いた。

「僕が事故に遭った時……。
彼女は、ショックのあまり寝込んでしまいました。
もともと身体が弱っていたせいもあって、あっという間に死んでしまったんです」
……ええっ!
「ちょ、ちょっと待って下さい。
岩下さんは、三年も前に死んだっていうんですか?」
「そうですよ。
さっき墓参りに行ってきたばかりですから……。
……そうですか、僕が死んだといっていましたか。
明美は、僕が助かったことを知らなかったんですね……」

そういうと、五十嵐さんの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。
男の人の涙なんて、めったに見るものじゃないけれど、なんだか映画のワン・シーンのように綺麗……。
「五十嵐さん……」
私は、そっとハンカチを差し出した。
その瞬間……!

<佑也さん……>
窓の外に、岩下さんの姿がぼんやりと浮かび上がった。
悲しげな目は、
「彼に触らないで……!」
そういっているみたい。
驚いて私が後ろへ下がると、彼女は天使のような微笑みを浮かべ……。
<佑也さん……>

鈴を転がすような声で、彼の名を呼ぶ。

その声が聞こえているのか、いないのか……。
五十嵐さんは顔を上げ、呆然とした眼差しで窓の外を見つめてる。
何かに憑かれたような目。
<佑也さん……>
その目がキラリと輝いて、五十嵐さんはフラフラと歩き始めた。

「明美は寂しいんだ。
独りぼっちで……。
……僕が行ってやらなきゃ」
彼は、一歩ずつ確実に窓へと近づいて行く。

闇の中には、微笑む岩下さんの姿がぼんやりと揺れている……。
ガラッ……。
手も触れていないのに、窓ガラスが音をたてて開いた。
<佑也さん……>
岩下さんが両腕を広げたような気がした。
その瞬間……!!

「今から行くよ。
君のいる所へ」
そう呟くと、五十嵐さんは窓枠に足を掛け、一気に闇の中へ身を躍らせた。
その背中はあっという間に小さくなり……。

真っ赤な血飛沫を散らせて動かなくなった。
……ほんの数秒間の出来事だった。

「大変だ!
人が飛び降りたぞ!」
五十嵐さんの周りには、すぐに人が集まってきた。
そのうちの何人かが、こっちを指差してる。
「あの窓からです!」
……そんなことをいってるんだろうな。
すぐに警察がやって来る。

私たちが、犯人として疑われたりするのかしら?
…………まさかね。
でも、こんな騒ぎになっちゃった以上、この企画は中止かな。

<やっと来てくれたのね、佑也さん……>
<これからはずっと一緒だよ……>
近づいて来るサイレンの鳴り響く中、そんな会話が聞こえたような気がした……。


そしてすべてが終わった…

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