4話傘が取り持つ縁(男)『1、好き』【PS追加END奇妙な少女】 | ナノ
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そう、雨が好きなのね。
そういえば私、あなたみたいに雨が好きな人の話を知っているわ。
彼の名前は、畑君っていったかしら。
畑君は、この学校の生徒だったわ。

真面目で優しくて、成績もまあまあ、中の上ってところだった。
でも、女の子にはもてなかったわ。
なぜっかというと……ちょっといいにくいんだけれど。

彼って、決してハンサムではなかったのよね。
女の子って、どうしても外見で判断してしまうじゃない?
私には、愚かな行為としか思えないけれど。
でも、内面のすばらしさを見抜けない女の子たちは、畑君を気にも留めなかったの。

ところで坂上君は、女の子に興味ある?


1、興味ある
2、興味なんてない



『1、興味ある』



そうよね。
……ないっていったら、嘘よね。
多かれ少なかれ、女の子に興味があるっていう方が普通だわ。



『2、興味なんてない』



まあ、ないの?
坂上君って、奥手なのね。
それとも…………男の子の方が好きとかいうんじゃないでしょうね?
……まあ、いいわ。
とにかく、ほとんどの男子高校生は、女の子に興味があるものよね。



※以下同文※



畑君もそうだった。
でも、彼には友達がいたから。
女の子が相手にしてくれないっていっても、そんなに焦ったりはしなかったわ。
彼には、ほかに好きなこともあったしね。
そして、たくさんの好きなものの中に、坂上君と同じような雨があったの。

彼は雨が大好きだった。
どしゃぶりの日に、傘がなくても平気なほどね。
ある日のことだったわ。
その日は、朝から霧雨が降っていたの。
彼にとっては、そんなの雨のうちにも入らない。

家の人に、無理矢理持たされた傘はあったけど、面倒だったからささずに、濡れて歩いていたわ。

すると、店の軒先に雨宿りしている女の子がいるのよ。
途方に暮れたような、泣きそうな顔で、空を見上げている。
頼りなさげな表情がかわいくて、畑君は思わず近寄ったわ。
気づいた女の子は、ビクッと後ずさりをしたの。
畑君はあわてて、傘を女の子の手に押しつけたわ。

「これ、使ってください」
女の子は、驚いたように彼を見た。
大きくてつややかな瞳に、彼が映っている。
畑君は赤くなったわ。
でも、今さら傘を引っ込めるのも変でしょう。

投げ出すようにして、傘を渡すと、畑君は走り出したのよ。
女の子は、いつまでも彼の背中を見守っていたわ。

次の日も、雨だった。
畑君が傘もささずに学校から帰る途中、また彼女に会ったのよ。

彼女は、昨日と同じ店の軒先にいたわ。
畑君を見つけて手を振ってきた。
その笑顔にひかれて、畑君はふらふらっと近寄っていったの。

彼女はにこにこ笑いながら、畑君に借りた傘を差し出してきた。
「も、もういいんですか?」
畑君の声は、うわずっていたわ。
彼女は微笑みながらうなづいた。

その笑顔が、暖かくて優しくて、好意にあふれた笑顔だったのね。
この人は、僕を気に入ってくれたんだ。
……畑君は、そう思ったのね。

傘を返してもらって家に帰る時、彼は彼女が一言も話さなかったのに気づいたの。
でも、引っ込み思案な子だな、くらいにしか思わなかったのよ。
それから、その少女は畑君の帰りを待っているようになったわ。

不思議なことに、雨の日だけだったけど。

それに、彼女がいるのは、いつも決まって同じ店の前。
そこで立ち話をして……といっても、話すのは彼だけだけどね。
一通り話が終わると、彼女に見送られて家に帰る、というのが何度か続いたの。
それでも畑君は幸せだった。

彼女の笑顔を見ると、心の底から幸せになれたのよ。
けれど、人間って贅沢なものよね。
畑君は、一度でいいからデートというものがしてみたかったの。
だからある日、彼女を誘ったわ。

「僕とデートしてくれませんか?」
……ってね。
彼女は黙ったまま、うつむいたわ。
どうしたのかと聞いても、返事をしないの。
困ったような顔で、くちびるを噛んでいるのよ。

受け入れてくれるものと信じていた畑君は、ショックを受けたのね。
彼女はいつも、彼の話を楽しそうに聞いてくれた。
だから、畑君は自分が好かれていると思っていたの。
でも、考えてみれば、彼女の口からちゃんと聞いたわけではないわ。

畑君は、恥ずかしさとショックで、カーッとなってしまったの。
「ぼ、僕をからかっていたのか?」
畑君は、彼女をどんと突き飛ばした。
そんなに強くではなかったわ。
でも、彼女は小柄だったから。

ヨロヨロと、軒先に出てしまったの。
降りしきる雨粒が、彼女の体を濡らした。
その瞬間、ものすごい悲鳴があがったの。

濡れた彼女の体が、どろどろと溶けていくのよ。
かわいらしかった表情は、もう面影もなかった。
まるで、お湯をかけられた水のように、何の抵抗もなく溶けていく。
畑君の見ている前で、彼女は跡形もなく消えてしまったの。

何が起こったのか、わからなかった。
でも、彼女は人間ではなかったんだ。
畑君は悲鳴をあげて、逃げ帰ったわ。

次の日も雨だった。
昨日のことを考えると不気味だったけど、畑君はいつもの店の前を通ることにしたの。
かなりの近道だったしね。

ところが……彼女がいたの。
いつものように、おとなしい微笑みを浮かべてね。

畑君は逃げ出した。
誰だって、そうするわよね。
畑君は走って走って、大通りまで出たわ。

そして一息ついて、顔を上げたの。
目の前に小さな店があった。
そして、その軒先に彼女が……いた。
先回りされた?
畑君は、頭に血が上ってしまった。
そして、彼女から逃げ出そうと車道に飛び出したの。

……車にはねられた畑君は、必死にもがいていたそうよ。
まるで、何かから必死に逃げようとしているかのように。
目撃者たちは、彼が急に飛び出したのだといったけれど。
……そうなの。
不思議なことに、畑君以外の人には、彼女の姿は見えなかったらしいのよ。

彼女の正体は、何だったのかしら。
どうして、畑君がつきまとわれたのかしら?
私にはわからないけど……。
雨の日には、奇妙なものが出て来るってことかしらね。

坂上君も気をつけることね。
雨が好きだなんて、うろついていると、変なものに好かれてしまうかもよ。
うふふ……。
私の話は、これで終わりよ。
さあ、次は誰かしら?


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