「おや、やめたいんですね?」
占い師は、やっぱりにやにや笑っていた。
だけどその笑みがすーっと消えて、
「覚悟はできているといったのに。
いけませんね。
うそをついては!」
そういうと、占い師は平井さんの手からナイフを取り上げたの。
「あなたのためにとっておきの儀式を用意しておいたのに!」
「ごめんなさい。
本当にごめんなさい」
平井さんは一生懸命謝ったわ。
でも彼女が許される事はなかったの。
儀式は止められなかったのよ。
「遅すぎましたね。
あなたは迷うべきでなかった。
今、このナイフはあなたの憎しみを必要としているのです。
相手の女性に対する負の感情を……。
正と負。 陰と陽。
相反する両極のパワーを一つの物にこめる事によって、呪いをかけるというのが私の呪術なんです。
もうすでに、あなたの負に対する正……、つまり、相手の女性に対する愛は、このナイフにこめられてるんですよ」
占い師の言葉に、平井さんはハッとなったわ。
愛って……まさか!!
「もうおわかりでしょう。
そうですよ。
このナイフは田中君の血を吸っているんですよ。
あなたの憎しみなら、ほんの二、三滴で呪いは成就できたんですが、彼の愛はそこまで深くなかったので、体中の血を使わせていただきましたよ」
「ひどい。
ひどいわ、田中君を殺すなんて」
「なにをいってるんですか。
すべてあなたの望んだ事でしょう?
私は田中君の新しい彼女を呪いたいという依頼しか、受けていませんからね」
占い師は、にこりともせずにきっぱりといい切ったの。
平井さんは、がっくりとその場に膝をついてしまったわ。
いったい自分が何をしたかったのか、すっかりわからなくなってた。
「おやおや、話はまだ途中なんですよ。
困った事にこのナイフが非常に怒ってるんです。
この怒りを静めるために、あなたの血をどうしても頂かないといけません。
それは御了承下さい。
ええ、さっきは二、三滴と申しましたが事情が変わりましたので、こちらにも変更が生じました」
そして、占い師は手にしたナイフを大きく振り上げて……。
「あなたの体中の血を使わせて頂きます」
平井さんの目に最後に映ったのは、振り下ろされるナイフと、占師のにやにやと笑う顔だった……。
ねぇ、坂上君。
ナイフが怒るなんてことあるのかな?
たとえこの占い師がそういっていても、他の人にそれがわからなかったら確かめようがないじゃない?
もし、うそやでたらめだったら……。
この占い師ね、この事件の後、詐欺で捕まっちゃったんだ。
テントの裏からは、若い女性の死体がごろごろ出てきたんだって。
平井さんも、悲しい事にその中の一人だったのよ。
何故か全員、体中の血を抜かれてて、その多量の血はどこに消えたんだか、跡すら見つからなかったんだって。
占い師は、その血で何をしようとしてたんだろうね。
そうそう田中君の事だけど、彼は殺されてなかったの。
殺されるどころか、怪我一つしてなかったのよ。
もうすぐ、結婚するって聞いたよ。
ね、こんな話を聞いちゃうと、簡単に占いとか信じられなくなるでしょ?
信じてる方が幸せって人なら何もいわないけど。
さ、これで、私の話は終わり。
どうしようか。
まだ七人目は来ないね。
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