後ろから来るものに対する恐怖もあったんだろうけど、彼女には水泳部のホープという意地もあったのね。
ピッチを上げて、影を一気に引き離そうとしたのよ。
そして、それは成功したように思えた。
影はどんどん引き離されていったの。
でも、林さんは少しもスピードを落とさなかったわ。
まだ不安が残っていたからね。
でも、いつまで逃げても不安は消えないのよ。
どこまで泳げばいいんだろう……?
そろそろ壁があるはずなのに……。
彼女がそう思った瞬間!!
自分の肩の辺りに、さっきの人影が見えたのよ。
それは、瀬戸さんだった。
生前と同じように、華麗な瀬戸さんのフォーム。
また、瀬戸さんに負けるの?
それだけは嫌よ!
そう、思った瞬間。
「痛いっ!!」
林さんはプールの壁に思いっきりぶつかってしまったの。
水をかいていた右腕を、勢いよくぶつけてしまったのよ。
痛みで頭の中が真っ白になった林さんの耳に、瀬戸さんの声が響いていたわ。
「あら、残念。
お魚に逃げられちゃった……」
って。
林さんの腕は、骨にひびが入っていただけで、完治すれば水泳には全然影響ないだろうって事だったんだけど、彼女すっかり脅えちゃって。
結局、水泳部辞めちゃったんだって。
今は結婚して普通の主婦してるんだってさ。
林さんの後、あのプールで三人行方不明者が出てるんだよ。
どの子も、四コースで練習してた子ばっかり。
それを思うと、林さんの選択は正しかったのかもね。
せっかくの才能が、もったいなかったけど。
行方不明の子達、どうなっちゃったのかな?
手掛かりは、
「お魚に逃げられちゃった……」
っていう、瀬戸さんの言葉だけ。
瀬戸さんに食べられちゃったのか、水槽の中で飼われているのか……。
どれにしても、この世の人じゃないと思うな。
うふふふ。
恵美ちゃんのクラスって、明日の体育、水泳でしょ?
間違っても、四コースで泳いじゃだめだよ。
とーっても自信があるっていうんなら止めないけどね。
さあ、私の話はここまでよ。
七人目が来ないと、次の人が最後になるんだね。
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