2、誰かの視線を感じる 【PS追加ENDスランプ克服】 | ナノ
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それはね、泳いでいると誰かに見られてるような気がする。
……というものだったの。
ほかの部員達が来たのかと思って、辺りを見回しても誰もいないのよ。
プールの中には林さん一人だけ……。

「なんだ、気のせいか」
大会が近いから、ちょっと神経が過敏になってるだけ。
彼女はそう自分に言い聞かせて、再び泳ぎ始めたの。

でもやっぱり、泳いでいると他人の視線を感じるのよ。
だめよ、大会が近いっていうのに……。
もっと集中しなきゃ。
林さんは、そう自分にいい聞かせながら泳ぎ続けた。
……人間の心理って不思議だね。
集中しなきゃ!

って思うと、よけいにいろんな事を考えちゃったりしない?
精神集中ってなかなか難しいよね。
習字とか、武道とかやってる人なら違うんだろうけど……。
林さんも普段の調子なら、こんな事で気を乱したりしなかったんだろうけど、タイムの事で悩んでたからね。

もう、頭の中を次の大会の事がぐるぐる回ってた。
勝てなかったらどうしよう……?
瀬戸さんにも勝てなかった私が、一位になんてなれるのかしら?
もしも負けたりしたら……!?
皆、がっかりするわ。

後輩も、先生も、お父さんやお母さんも……。
悲観的な考えって、なかなか止まらないんだよね。
終わりが見えないっていうのかなぁ。

彼女もとうとう立ち止まって、プールの中央で泣き始めてしまったの。
泣くのは、本当に大会で負けた後にすればいいのにね。
その時の彼女には、自分がものすごくつまらない存在のように思えて、しょうがなかったのよ。

どれくらい泣いていたのかなぁ……?
そんなに長い時間じゃないと思うけど……。
人の話し声が聞こえてきたの。

「ねぇ、あの人泣いてるよ」
「やだ、みっともない」
林さんはあせったわ。
こんな惨めな姿を見られたくないと思ったのよ。
急いで涙を手でふいて、にっこり笑ってみせたの。
すこし引きつった、それでも精一杯の笑顔だった。

でもね、そこには誰もいなかったの。
プールの中にも、プールサイドにも人の姿はなかったのよ。
幻聴だったのかしら……?
だけど、その考えを否定するかのように、また声が聞こえてきたの。

「負けたのかしら」
「そうよ。
また勝てなかったのよ」
「しょせん、エースの器じゃないのよねぇ」
その声は、口々に林さんを中傷していたの。
さすがに林さんも、カッとなったみたい。
大声で叫んだのよ。

「誰よ!
勝手な事ばっかり……。
隠れてないで出てきたらどうなの!」
すると、あんなに騒がしかった声が、急に静まりかえったんだって。
そして次の瞬間……!

林さんの周りに、たくさんの人影が現れたの!
大人も、子供も、女の人も、男の人もいたわ。
プールの中も、プールサイドも、とにかく人であふれているのよ。
どの人も目だけがギラギラ輝いていて、じーっと林さんを見ているの。

林さんはその視線に耐えられなくなって、水の中に潜っちゃった。
目をつぶって息の続く限り、水中にいたの。
息の続く限り……だから、せいぜい二、三分じゃないのかな。

林さんが恐る恐る顔をあげた時、人の姿は消えていたんだって。
もう声も聞こえなかったみたい。
……でもね、やっぱり視線を感じるの。
どこからだろう?
上の方……。

プールサイドじゃない……。
もっと上。
もっと上の……。
そう思った彼女は、自分の真上を見上げたの。
そこには……。

巨大な目玉が一つ、じっと林さんを見下ろしていたわ。
それが消えるまで、彼女は身動きできなかったって。

ほかの水泳部員達が集まった時には、目玉は消えていて、林さんがプールの中央に立っていただけだったそうよ。
ほかの部員達はね、林さんの話を本気にしなかったんだ。

でもだんだんと、例の声を聞いたり、たくさんの人に囲まれたりっていう部員が増えてきて、信じないわけにはいかなくなってきたのよ。
皆、決まって四コースで泳いでた子が体験してるのよ。
それで、四コースは使用禁止になったのよ。

瀬戸さんの事もあったからね。

……えっ、林さん?
彼女はこの事件の後、見事にスランプから脱出して、いろんな大会で記録を更新させて卒業してったよ。
そうそう、卒業する時にね、後輩達にこんな事を言っていたんだって。

「四コースで体験した事が何なのか、はっきりとはわからないけれど、プレッシャーが形を持つとああなるのかもしれないわ。
瀬戸さんも、あれを見たのかしら……?」
って。

プレッシャーかぁ、確かにどんな優秀な選手でも一度は感じるものじゃない?
「プレッシャーに負けた……」
なんて言葉もよく耳にするし、逆に、
「相手により多くのプレッシャーをかけた者の勝ちだ」
ともいうよね。

いつからかはわからないけれど、プレッシャーって呼ばれるものが、あの四コースに憑いてしまったんじゃないの?
なんてったって、四コースはトップの証しだからね。
それだけ、たくさんの人がプレッシャーを与えてたのよ。

………うふふふ。
恵美ちゃんのクラスって、明日の体育はプール掃除でしょ。
こっそり四コースに入ってごらんよ。
大丈夫、水もはってないし、泳ぐわけじゃないんだから何も起こんないよ。

……そうね、せいぜい皆が恵美ちゃんに注目するぐらいかな。
それで、プレッシャー感じたりはしないでしょ?
ま、余裕が大事よ。
私の話は終わりだけど……七人目はまだ来ないね。
次の人で最後になるのかなぁ……。

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