「え? 感じたのかい?
そうか、やっぱり君は、僕より凄い霊感の持ち主なんだね。
僕には、感じられないんだけど、ここには、変な噂があるからね。
さあ、中に入ってみよう」
細田さんは、私を押し込むようにトイレに入った。
「先輩達には悪いんですけど、倉田さんと二人だけにして下さい。
僕と倉田さんだけになった方が、霊感が強まると思うんです。
僕たちは、似たようなオーラを持っているように感じるんです。
申し訳ございませんが、よろしくお願いします」
みんな、何かいいたげな表情で、トイレから出ていった。
「さあ、倉田さん。どの付近から、霊気を感じるんだい?」
細田さんが、必要以上に私に近づき、聞いてくる。
「……あの辺から」
私は、トイレの奥の方の隅を指さした。
本当に何か嫌な感じがする。
「ふうん。
確かに何かいるみたいな感じがするね」
細田さんは、あまり信じていないように答えた。
でも、私には感じられる。
このトイレに入った瞬間から、誰かに見られているような感じを受けていたし。
私は、トイレの中を見回してみた。
トイレの個室、小便器、洗面所……。
入口の扉の左側の隅を見たときだった。
視界を何かが横切った気がした。
えっ?
私は目を凝らして、もう一度見てみた。
……何もない。
でも、確かに黒い何かが横切ったのが、見えた気がした。
「どうしたんだい?
何かいたの?」
私は、反対側の隅を見てみた。
「あっ……」
まただわ。
何かが視界を横切った。
今度は、はっきり見えた。
確かに、さっきの扉の横の隅へ、移動していったわ。
すぐに振り返ってみる。
………………。
絶対に何かがいる。
私は、急に恐ろしくなり、体中に鳥肌が立った。
「細田さん。
さっきから、トイレの隅を何かが行ったり来たりしていませんか?」
細田さんが、あわてて周りを見渡している。
「……別に何も見えないけど」
全く、この人、本当に霊感があるのかなぁ。
あれが見えないなんて。
この人は、霊感があると思い込んでいるだけじゃないのかしら?
「ねぇ、倉田さん、何かいるの?
ねぇ、僕には見えないんだけど、君には見えているんだね?
ねぇ……ねぇ……」
細田さんは、不安そうに私に寄り掛かり、私の腕をしっかりとつかんでいる。
ちょっと、待ってよ。
やめてほしいなあ。
あの黒い影は、私がトイレの隅を見ると、逃げるように動いているように感じる。
それならば、細田さんと一緒に両方の隅を一度に見てみたら、どうなるのかしら。
私は、トイレの隅にいる何かのことを、細田さんに話してみた。
「ええ!?
なんだって!
やっぱり、あの噂は本当だったんだ……。
どうしよう、倉田さん。
僕、怖いよ。
ねぇ、倉田さん……、ねぇ、どうしよう」
そういって細田さんは、おろおろしている。
うーん、どうしようかなあ。
「細田さん、落ちついて下さい。
どうも、隅を見ようとすると、黒い影は、逃げてしまっているみたいなんです。
私と、細田さんが一度に両方の隅を見れば、きっと、どちらかに見えるはずです。
私は、こっちの隅を見ますから、細田さんは、反対の方をお願いします」
私は、細田さんにそう伝えて、カウントダウンを始めた。
「三……二……一……今です」
私と細田さんは、一斉にそれぞれの隅を見た。
「きゃぁっ!!」
トイレの隅には、生首が転がっていた。
「どうしたんだい?
って、うわぁっ!!」
細田さんも、気づいたみたい。
若い女の生首。
額のところが、鈍器で殴られたようにへこんでいて、右目が飛び出している。
細田さんが、私にしがみついて、身動きがとれない。
私は、腰が抜けてしまって、逃げ出すこともできなかった。
全身から汗が噴き出し、かみ合わない歯がガチガチなっている。
心臓の鼓動がどんどん早くなる。
私は、恐怖のあまりどうしていいのか、わからない。
そうだ、トイレの外には、先輩達がいるはずよ。
とりあえず助けを呼ぼう。
「………………………………」
こ、声が出ない!
金縛り?
いや、そうじゃないわ。
恐怖のあまりに体がいうことを聞かないのよ。
その時、頭の中に別の声が聞こえてきた。
それが細田さんの声だったら、どれだけ幸せだったことか。
その声の持ち主は、向こうに転がっている生首のようだった。
半分砕けてゆがんでいる顎を、もぞもぞと動かして、必死に何かを訴えているみたい。
「助けて……助けて……いたい、頭がいたい……」
「いやあああああああーーーーー!!」
あれだけ出そうと思って、出せなかった声が、無意識のうちに発せられる。
「クスクス……クスクス……」
「……いたい……助けて……助けて……」
「おーい、ここだ、僕はここにいるよぉー」
周囲から、男の声、女の声が聞こえる。
その声が、頭の中でぐるぐると回る。
心臓の鼓動がさらに早くなった。
「やめて、やめてーーーーっ!!」
私は上を向いて、叫んだ。
「……………………っ!!」
やだ、天井一面に首がぶら下がって、こっちを見ているじゃない!
天井一面の首は、もぞもぞと動いて、必死に何かを訴え続けている。
天井の首が、床の上に落下して、つぶれている。
それは、床一面に並ぶほど落ちてきた。
それでも、まだ天井一面に首はぶら下がっている。
床に落ちた首は私と細田さんに向かって、ずずずっ、ずずずっ、とにじり寄ってくる。
私の体にはいあがった首は、それでも私の顔に向かって、どんどん上ってくる。
心臓は、もう破裂寸前。
「きゃああああああーーーーー!!」
…………………………………。
…………………………………。
…………………………………。
…………………………………。
そう、ここまでが、私の生前の記憶だわ。
まさかこの若さで、心臓麻痺で死ぬなんて、思ってもみなかった。
私はこの後、どこに行くのかしら。
天国かな、地獄かな。
いや、地獄なんて事はないわよね。
………………………………。
………………………………。
……もしかしたら、このトイレにいつまでも、いつづけるのかもしれない……。
そしてすべてが終わった…
(男主人公)
細田さんは、不安そうに僕に寄り掛かり、僕の腕をしっかりとつかんでいる。
なんだよ、この人。
気持ちが悪いなあ。
「ええ!?
なんだって!
やっぱり、あの噂は本当だったんだ……。
どうしよう、坂上君。
僕、怖いよ。
ねぇ、坂上君……、ねぇ、どうしよう」
そういって細田さんは、僕に体を密着させてくる。
腰の辺りに何かが当たって、気持ちが悪い。
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