そう、わかった、話してあげるよ。
そのトイレは、誰も使う人がいなくなったんだ。
先生も含めてね。
それで、取り壊すことになったんだけど、工事をする人がみんな、何かにとりつかれてしまうんだよ。
もちろん、工事に取りかかる前にお祓いもしたんだよ。
でも、効果はなかったんだ。
学校側も、生徒がそのトイレを使わないようにってね、入口をふさいだりしたんだけど、いつの間にか、壊されているんだよ。
入口のついたてがね。
それで、もう放っておくことにしたんだ。
黙ってても、そのトイレを使う人なんかいなかったし。
それで、事件が起きてしまったわけさ。
僕の友達にね、津田圭一って奴がいるんだ。
そいつが体験した話さ。
彼ね、体育の授業の途中で、トイレに行きたくなったんだよ。
彼もあのトイレの噂、知ってるじゃない。
だから、我慢していたんだ。
だけど、とうとう我慢できなくなった。
それでしょうがなく、先生に断って、あのトイレに行ったんだ。
しばらくして。
トイレの方から、悲鳴が聞こえたんだ。
その声は、津田君の声だった。
僕は、津田君から何かあったら、助けに来てっていわれていたから、あわててトイレに走っていったよ。
「どうしたんだい、津田君!」
僕があわててトイレに駆け込むと、津田君は何事もなかったように、立っていたんだ。
彼は、ちょうどトイレから出てくるところだった。
「どうしたの、細田君。
血相を変えて……」
「どうしたって、今トイレの中から、悲鳴が聞こえたから……」
「僕は、悲鳴なんかあげていないよ。
夢でも見たんじゃないの?
ははははは」
彼は、そういって体育館に戻っていった。
僕も、変だなぁと思いつつも、体育館に戻ったんだ。
そのときは、全く気がつかなかった。
彼が変わってしまっていたことに。
津田君は、そのときまで、とてもおとなしい性格で、自分から行動する方じゃなかったんだ。
それなのにね、急に積極的な性格になってしまっていたんだよ。
はじめは気がつかなかった。
でもね、日がたつにつれ、だんだんと人が変わっていくんだよ。
女の子にも、もてたことはなかったのに、急に人気者になったりしてね。
とにかく、まるで別人のようになってしまったんだよ。
それでね、聞いてみたんだ。
何があったのかって。
彼は、にやりと笑い、答えた。
「いい話があるんだよ。
細田君にのら教えてもいいな」
津田君は、一緒に来てほしいといって、歩き始めたんだ。
僕は、あわててついていった。
彼は、体育館に向かって歩いていった。
そして、体育館に着くと、まっすぐにあのトイレまで歩いていくんだ。
僕は、びっくりしたよ。
少し前まで、津田君もあのトイレに行くのをいやがっていたのに、自分から進んで入っていくんだもの。
正直いって、僕は、あのトイレには入りたくはなかったんだけどね。
津田君がついて来いっていうから、仕方なくついていったんだ。
中に入ると、彼は話し始めた。
「細田君、君は僕が変わってしまったって、心配してくれているみたいだね。
別に心配しなくったっていいんだよ。
はじめは、嫌だったけど……じきになれるよ。
ククククク……」
とても気味が悪い笑い声だったよ。
妙に耳につく笑いだった。
倉田さん、変身願望って言葉知ってる?
自分とは違う自分になってみたいっていう、願望なんだけど……。
倉田さんにもあるだろ?
そういう願望。
僕も、あのトイレで、津田君に聞かれたんだ。
そして、違う自分になってみたいと思うことがあるって答えたんだ。
津田君は、うれしそうに笑った。
僕は、自分の目を疑いそうになったよ。
津田君の目の縁には、黒い隈ができていた。
まるで、狸のようにね。
僕は、あの噂を思い出した。
このトイレには、狸が出るっていう噂をね。
僕は、あまり信じていなかったんだけど、本当だったんだ。
そして、津田君は、その狸にとりつかれているらしい。
きっと、あの悲鳴が聞こえたときにとりつかれたに違いない。
急に怖くなってね。
津田君と二人っきりでいることが。
なにされるかわかったもんじゃない。
僕は、津田君に断って、足早にトイレから出ていこうとしたんだ。
その時。
津田君が、不気味な笑い声をあげたんだ。
「ククククク……」
ってね。
僕は、背中にものすごい悪寒を感じて、振り返ったんだ。
「うわぁっ!」
巨大な狸が、僕に向かって飛びかかってきているところだった。
こんな感じでね。
細田さんは、私に覆い被さるような格好をして見せた。
「わっ!」
私は、うかつにも驚いてしまった。
だって、細田さんの顔が、狸のように見えたんだもの。
ははははは、そんなに驚いてどうしたんだい?
まるで、あのときの僕と同じ格好をしているよ。
僕も、ちょうどそんな感じに、手で頭を覆って、しゃがみ込んだんだ。
……………………………。
静寂がしばらく続いた。
僕は、おそるおそる顔を上げてみた。
すると、そこには、気が抜けたような顔をしている、津田君だけが立っていたんだ。
「津田君……」
僕は、いつまで立っても動かない津田君が心配になって、話しかけた。
それでも、津田君はピクリともしない。
僕は、嫌な予感がした。
すぐに駆け寄って、彼の両肩を揺らしてみたんだ。
「!!」
津田君は、つっかえがなくなったように倒れてしまった。
僕は、あわてて先生に知らせた。
そして彼は、入院してしまったんだ。
彼は、意識はあるんだけど、自我というものをなくしてしまっていた。
何が起きても、無反応なんだ。
どうしてそうなったのかな。
もしかしたら、とりついた狸が津田君の自我を食いつぶしたのかもしれない。
きっと、津田君は、自我が弱かったのかも知れないね。
そして、その狸が彼から出ていったから、抜け殻になってしまったんだ。
僕はそう思っているよ。
彼はとりつかれると、嫌な気分になるけど、しばらくすると慣れるっていっていた。
はじめは、気がつかないものさ。
とりつかれたなんて……。
時間がたつにつれわかってくるんだよ。
頭の中に今までと違う自分がいるってことに。
すると、なんだか嫌な気分になってくるんだ。
今までとは、違う自分になってしまうんじゃないかって。
でも、すぐに慣れるって、彼はいったんだ。
今は僕にもわかるよ、彼のいったことが……。
倉田さんにも、そのうちわかるんじゃないのかな……。
ククククク……。
……やだ、細田さんは、何をいっているのかしら。
とりつかれた人の気持ちなんて、私にわかるはずないのに……。
困惑した私に、細田さんはいった。
……どうしたんだい?
豆鉄砲でも食らったような顔をして。
僕のいっている意味は、今はわからなくても、そのうちにわかってくるよ。
ククククク……。
さあ、僕の話は終わったよ。
ついに後一人になったね。
もう、七人目は、来ないと思っていいかもね。
今になっても、来ないんだもの。
でも、その方がよかったのかもしれないよ。
無理に七不思議を完成させることなんてないんだもの。
それこそ、完成させて、大変なことになってしまってからじゃ、遅いしね。
おっと、話を延ばしちゃったね。
ごめん、ごめん。
じゃあ、次の人、どうぞ……。
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