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細田友晴PS追加・変更・女主人公用台詞
6話取り残された旧校舎の補習授業


『2、別に思わない』(女用)
そうは思わないなんて、君の方が変なのか、よっぽどのへそ曲がりかどっちかだね。
そんなに僕の話をまぜっかえしたいなら、勝手にしなよ。
僕は話を続けさせてもらうよ。

そうは思わないなんて、適当に答えたか、僕をからかってるのか、どっちかだね。
ひどいなあ、僕は真剣に話してるんだから。
頼むから雰囲気を壊さないでね。



『2、ない』→『2、やっぱり行かない』



細田さんはそういって、ポケットからナイフを取り出した。
パチンと刃が飛び出す。
小さいけれど、鋭そうな光。

「うまく化けたものだね。
でも、僕の目はごまかせないよ」
近寄ってくる。
ナイフは構えたままで。
「犬や猫は試したけど、エイリアンの体ってどうなっているのかな」
なにいってるの?
この人、気は確かかしら。

私がエイリアン?
トイレに行かないくらいで、そんな風に思われていたなんて。
本当のことをいえば、まるっきり行かないわけじゃない。
体質的に、普通の人よりも回数が少ないだけなのに……。
いや、今はそんなことを議論している場合じゃないわ。

彼は何をするつもりなの!?
私の表情を読んだのか。

細田さんがニッと笑った。
「君を解剖するよ。
大丈夫、すぐ終わるからね」
その目は正気ではなかった。
「だ……誰かっ!」
思わず悲鳴が口をついて出た。
「助け……」

いい終わるより早く腕が伸びて、私は突き倒された。
その上に、細田さんが馬乗りになる。
「大丈夫、大丈夫」

サッと、腹に熱い筋が走った。
遅れて、息が詰まるほどの痛み。
皮膚が引っ張られるような感じ。

熱いのか、痛いのかわからない。
かすむ視界の中で、緑色の返り血を浴びた細田さんが、ニッと笑った。
「やっぱりね」
私は自分を罵った。
任務は失敗だわ。
こんなドジをするなんて……。

遠い異星で果てるのを無念に思いながら、私はゆっくりと目を閉じた。



『2、調べない』(変更)
「どうしたのかい、坂上君。君のために、とっておきの怖い話を用意したのにさ」

でも、不思議そうな細田さんの口から、鼻の穴から、ボロボロと羽虫はこぼれ落ちる。

細田さんは手を伸ばして、時計を壁から外した。
そのとき、時計の影から何かが出てきて、壁づたいに素早く消えた……ように見えた。
気のせいかしら?
細田さんも、何もいわないし。

「ほら、なんの変哲もない普通の時計だろ」
そういって、私に時計を見せてくれる。
「そうですね……」
受け取りかけた私は、それを見て手を引っ込めた。

時計の裏側、つまり文字盤の反対側に、びっしりと黒いかたまりがついている。
しかも、それはもぞもぞと動いている。

あわてて細田さんを見た。
キョトンと私を見ている。
彼には、この黒いものが見えていないの?
少しずつかたまりがほぐれて、指を伝って腕にまで登ってきているというのに?

「どうかしたのかい、倉田さん。
君のために、とっておきの怖い話を用意したのにさ」
そういう胸元にまで、黒いものが登ってきている。
虫だわ。
小さな羽アリのような虫が、何千、何万と集まっている。
「変な人だなあ」

そういった細田さんの口から、ボロボロと黒い羽虫がこぼれた。
私は目を疑った。
でも、不思議そうな細田さんの口から、鼻の穴から、ボロボロと羽虫はこぼれ続ける。
額に、ピッと裂け目が入った。
そして、その裂け目からも、ブワッと虫がこぼれ出す。

今や、細田さんの全身は、動きまわる虫で黒く埋まっていた。
それでもまだ、細田さんはしゃべり続けている。

「嫌だなあ。こっちへおいでよ」
真っ黒な手が、私をつかんだ。
あっという間に、何匹もの虫が私の腕に移ってくる。
ゾッと鳥肌がたった。
振りほどこうとしても、私の力ではどうにもならない。
それどころか、細田さんは私を引き寄せる。

「僕はね、君のことが気に入ったんだ。
僕たちはきっと、いい友達になれると思うよ」
もう片方の手が、私の肩を抱く。

真っ黒な顔が、すぐ近くまで迫ってきた。
何百匹もの虫が、私の体を這いまわった。
チクチクする。
皮膚にかみついているんだわ。
体の中に、もぐり込もうとして!?
私は暴れて、細田さんも虫も払い除けようとした。

けれど、ひざから力が抜ける。
しまった!
虫がかみついたのは、私の体をマヒさせるためだったのね……。
私はゆっくり倒れた。
耳元にザワザワと、たくさんの羽根のこすれる音がする。
虫は私の体に入り込んできた。

中身を食い荒らし、仲間を増やして、私の皮をかぶった黒いかたまりになるのだろう。
そう、細田さんのように。
旧校舎の謎は、結局わからなかったわ。
死ぬ寸前まで、こんなことを考えている自分が、おかしかった。

笑い声のようなため息をもらし、私は意識を失った。



『1、女の子を犠牲にして、自分は逃げる』(変更)
すると、目玉が盛り上がった。
まぶたから半分以上飛び出している。
よく見ると、人間の目玉じゃない。
義眼とか……そういう物だ。
コン、コンと固い音を立てて、二つの義眼が床に落ちて転がった。

細田さんが話を締めくくった。
さっきより、少し暗くなってきたみたい。

私は思わず、周囲を見回した。
あまり、ここには長居したくないわ。
「ありがとうございました。
じゃあ、これで部室に戻りましょうか」
私がまとめようとするのを、細田さんがさえぎった。

「待ってよ。
まだ、話は終わってないんだ。
どうしてわざわざ、ここまで来たと思うんだい?」
「知りませんよ、そんなこと。
もう遅いし、そろそろ解散した方が……」
「ここの闇はね、まだ生きているんだよ」

唐突に、細田さんがささやいた。
「生きていて、まだ食べ物を欲しがっているんだ……ほら」
教室の隅を指さす。

気のせいか、古い床板の上で、闇がうごめいたように見えた。
口の中が、一瞬で乾く。
まさかそんな……気のせいよね。
つい、見えたような気がしただけよ。

……細田さんは、にこにこと笑っている。
「信じたくないんだね。
無理もないけどさ、僕がこんな話を知っているわけを考えてごらんよ」
おどけたように、両目をくるりと回す。

すると、目玉が盛り上がった。
まぶたから半分以上飛び出している。
よく見ると、本物の目玉じゃない。
にごった色の、丸くて不透明なガラス……まるでビー玉みたいな。

コン、コンと固い音を立てて、二つのビー玉が床に落ちて転がった。
そしてその奥から、どこまでも広がる無限の闇がのぞいた。
「闇の中は、とても広いんだ。
仲間を増やさないと、寂しくてしかたないんだよ……」
闇の目をした細田さんが、近づいてくる。

私も闇を見つめながら、こうやって仲間を求め歩くことになるの……?
手足から闇に飲み込まれながら、私はボウッとそんなことを考え続けた。



『1、三階の女子トイレに行く』



……その時。
「きゃっ!」
私たちが席を立とうとしたとき、まばゆいばかりの強烈な光を浴びせられた。
眩しい!
いったい、なんなのこの光は?

いやっ!
何が起きたの!?



『2、左』→『1、調べてみる』



「ドクロの染み!?」
私はあわてて口を挟んだ。
ドクロのように見える染みって……?
それは、さっきトイレで見たものと同じじゃない。
あの時計の後ろに、あの染みがあるというの?
なんとなく、胸騒ぎがした。

うまく伝えられなくて黙っている私を、細田さんは不思議そうに見た。
そして、話が続けられた。


『1、なりたくない』



細田さんが、恨めしそうに私を見た。
……しょうがないわ。
私はうなずいた。
「すいませんでした。
友達になりましょう」


『2、廊下を調べる』



細田さんは話を終えた。
私は思わず、口を開いた。
「そんな話を、わざわざここでするなんて。
悪趣味ですよ」

そして立ち上がった。

「私は部室へ戻りますから」
本気だった。
ドアを開けて廊下に出る。

後ろで細田さんが何かいっているようだけど、知らないわ。
廊下の端まで歩いて、角を曲がる。
……目の前には、長い廊下が続いていた。

振り返ると、同じような長い廊下が続いている。
どういうこと?
細田さんの話が、本当になったの?
だけど話では、後ろには教室のドアがあったはずよ。
それなのに……。
私はあわてて、元来た方へ駆け出した。

走っても走っても、教室のドアは現れない。
こんな馬鹿な!
さっき見たときは、ほんの十メートルくらいの廊下だったのに。
私も、歪んだ空間に入り込んでしまったというの?
そんなこと、認めたくなかった。

私は走り続けた。
いつかはドアを見つけられるかもしれない。
だから走る。
走る。
走る。
走る。
気づくと、いつの間にか走る私の横を、併走する影があった。

振り向く。
半ば白骨化した男が、歯をむき出して走っていた。
その目が私を見る。
それが誰だか、私は知っていた。
さっきの話の彼だわ。
長い年月を、死んで骨になってまで走り続けてきたのね。
彼の目は、なんとなく嬉しそうだった。

私という仲間ができたのだから、当然かな。

私と彼は、永久に続く廊下を、ひたすら走り続けるのだろう。
歪んだ世界の中を。


『2、自分を犠牲にして、女の子を逃がす』



話が終わった。
私はうつむいていた顔を上げて、細田さんを見た。

……そこにいたのは細田さんじゃなかった。
いや、人間ですらなかった。
まばらに生えた毛からのぞく、複眼のような六つの目。
乱杭歯がギラリと光った。

「ば……化け物!?」
私は飛びのいた。
化け物は何かいいながら、こっちに向かってくる。
何かないの?
ヤツに対抗できる武器か何か。
ポケットを探ると、指先に何か固い物が触れた。
カッターナイフだわ。

部活で、記事のスクラップをしたときに使ったもの。
私はそれを構えた。
化け物の腕が、カッターナイフに伸びる。
そうはさせない!
振り回したカッターの刃が、化け物の目を傷つけた!

緑色の血を吹き出して、化け物はゆっくりと倒れ込んだ。
肩で息をしながら、私は周囲を見回した。
さっきまで、誰かといっしょだったような気がする。
……そうだっけ?
私は、もともと一人だったような気がする。
そうよ。

私は一人きりなの。
化け物を倒したんだから、この世界の王は私よ。
……それにしても疲れたわ。
私はあくびをして、化け物の死体の横にうずくまった。
少し眠ろう。
もう、私を脅かすものはいないんだから。

足元に忍び寄っていた闇が、そのとき笑い声をあげた気がした。
7話旧校舎の壁に隠された秘密



まばゆい光の向こうで、太い男の声が響いた。
誰?
「あ、黒木先生!」
そういったのは細田さんだった。

私の顔を照らしていた閃光は、床を照らし、おかげで私は眩しさから解放された。
でも、まだ目がチカチカする。
「……なんだ、細田じゃないか。
何をやってんだ、こんな時間に」
「……すいません」
……先生だったのね。

雰囲気からすると、細田さんとは顔見知りみたい。
残念ながら、黒木という名前の先生は、私は覚えていない。
なんせ、この学校は広いから。
知らない先生がたくさんいる。
黒木と呼ばれた先生は、手に懐中電灯を持っていた。
……ということは、今日の宿直の先生なのかしら。

じゃあ、もう宿直の先生が見回りをするくらい遅い時間ということになるわね。
「……君は?」

もう一度、懐中電灯の光が私の顔に向けられた。
眩しさに、私はちょっと目を細める。

「……あ、はい。倉田といいます」
黒木先生は、私たちにゆっくりと近づいて来た。
「……お前たちなあ。
ここが立ち入り禁止なのは知っているだろう。
こんなところで何をしてたんだ?」

そして、私たちの顔を見比べた。
細田さんが、頼りなさそうな目で私を見る。
……とりあえず、私が責任者ということになるのよね。

やっぱり、私が説明をするべきなのかしら。



『2、なんとか話をごまかす』



「いえ、実はですね……えーとですね、私たちは……うーんと」
私は必死にいいわけを考えた。
でも、とっさには浮かばない。
黒木先生が、ジロリと私をにらんだ。
「先生をごまかそうとしても無駄だぞ。
そんな卑怯なことをするな!」

大きな声で怒鳴られた。
私は思わずちぢみあがった。
「す、すみません……」
「何をしていたか、話してくれるな?」
この先生には嘘はつけそうにない。
私は正直に話すことにした。



『1、きちんと説明する』



「あの……実は新聞部で学校の七不思議の特集をすることになって。
それで、私が皆さんの話を聞くことになったんです。
旧校舎にいる花子さんを確かめたくて、立ち入り禁止と知って、入ってきてしまいました」
私は、申しわけなさそうに頭を下げた。

確かに、怒られても仕方のないことだわ。
黒木先生は、私に一歩近づいてきた。

「なんだ。お前、新聞部か。
学校の七不思議の特集をするのは、先生も知ってるぞ」
そういい、私の肩に手を乗せた。
大きな、グローブのような手。
改めて見ると、とても体格がいいわね。
体育の先生なのかしら。

「まあ、先生としては勉強だけっていう教育方針は嫌いだからな。
部活を一生懸命やるのもいいだろう。
でもな、限度ってものがある。
この旧校舎は、何で立ち入り禁止になっているのか知っているか? 危ないからだよ。
もう古くなってところどころ朽ち果てている。
床だって腐っているから、下手をすると足を踏み外すぞ。
もし事故でも起こしたら、大変だろう。
二度とこんなことしちゃだめだからな」

そういい、先生は軽くゲンコツを作ると、とりあえず形だけ私の頭を小突いた。

「お前たちもだ」
そういい、みんなの頭を一人ずつたたいた。

……よかった、話のわかる先生で。
正直に話して正解だったわ。
「……ということで、先生にめんじて今回のことは許してやろう。
実をいうと、先生もな、怖い話は嫌いじゃないんだよ」

そういい、自分のあごに懐中電灯を当てて顔を照らすと、私たちの前にニュッと顔を突き出した。
「……どうだ? もしよければ、これから先生につきあわないか?」
私には、一瞬、先生のいっている言葉の意味がわからなかった。

「つきあうって……。
ひょっとして、先生が一緒に花子さんを確かめに行ってくれるんですか?」
と、細田さん。

先生は嬉しそうに笑った。
「……いや。
花子さんの話なんて、ありゃあ、根も葉もない噂だろ。
それより、先生はな、この旧校舎にまつわるもっと恐ろしい話を知ってるぞ。
どうだ? もしよければ、そこに行ってみないか?」

先生は、まるでいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
なんてノリのいい先生なのかしら。
まさか、先生まで話に参加してくれるとは思わなかった。
七人目が来なかったために、正直いうと困っていたところだし。

どうしよう?
先生の誘いに乗ってみようか?



『2、怖そうだから遠慮する』



「いえ……遠慮します」
私は首を横に振った。
話がわかるといっても、相手は先生だもの。
私たちを怒ることはあっても、仲間に入ってくれるなんて。
ちょっと悪ノリしすぎじゃない?
それに、なんだか胸騒ぎもするわ。

今日はもう、いろいろなことがあったし。
一日分の体験としては、おつりが来るくらいじゃないかしら。
もう、たくさんよ。
「すみませんでした……私たち帰ります」

そういって頭を下げる私を、先生は残念そうに見た。
「そうか……おもしろい話なんだがな」

「花子さんより、おもしろいんですか?」
細田さんが聞いた。
よっぽど、こういう話が好きなのね。
目が期待で、キラキラ輝いている。
「おもしろいさ。
何といっても、本当にあった話だからな」

先生がうなずいた。

「聞きたいなあ。
ねえ倉田さん、先生の話を聞かないかい?
せっかくの機会なんだし」
「え……」
私は迷った。

どうしよう?



『1、聞きたくない』



「でも、もう遅いし。やっぱり、明日にしましょう」

「何だよ、しらけるなあ」
細田さんはむくれた。
「それなら、倉田さんは一人で帰りなよ。
話してください、先生」
「ああ、いいとも」
先生が気軽にうなずいた。
細田さんは、私に振り向いた。

「じゃあね、倉田さん。 バイバイ」
そんなこといわれても……。

一人で帰っていいのかしら?



『1、いいといわれたんだから帰る』



私は帰ることにした。

話を聞けないのは残念だけど、その方がいいという気がしたから。

家に帰ると、その予感はどんどん確かなものになっていった。
何か悪いことが起きる。
あの学校には、何か悪いものが潜んでいる。
馬鹿馬鹿しいかな。
今日はいろんなことがあったわ。

だから、神経が過敏になっているのよ。
そう思っても、不安は収まらない。
どうしたのかしら?

原因不明のモヤモヤを抱えたまま私は一睡もせずに朝を迎えた。
自分で起き出してきた私に、驚いている家族に目もくれず、家を飛び出す。
朝日を浴びても、不安は消えなかった。
何かがあったに違いない。
私にはわかっていた。

……学校は、拍子抜けするくらい、いつも通りだった。
騒いでいる生徒も、警察の車もいない。
それを見て、私はなんとなく恥ずかしくなった。
何が起きると思っていたのかしら?
長い長い夢から、今やっとさめたような気分だった。

自分で思っていたより、昨日はショックを受けていたのかも。
だから、何でもないことを大げさに騒いでしまった。
細田さんたちに謝らなくちゃ。

私は二年生の教室に行った。
でも、細田さんは来ていなかった。
そのことを教えてくれた二年の先輩は、首をかしげていた。
「あいつ、無遅刻無欠席が自慢だったのになあ」
夕べ遅くまで旧校舎にいて、寝不足になったのかしら。

黒木先生も、かなりノリのよさそうな人だったし。
私がそういうと、先輩は眉をひそめた。
「黒木? 誰だそれ、ここの先生じゃないだろう」
「えっ、でも……宿直だったんじゃあ?」
「知らないな。
黒木なんて先生は、うちの学校にはいないはずだぜ」
私には、何がなんだかわからなかった。

……結局、細田さんは来なかった。
こうなると、黒木先生の存在が気になってくる。
私は思い切って、放課後、担任の先生を捜しに行った。

先生は渡り廊下にいた。
「黒木先生?」
私の話を聞いた先生の、表情がくもった。
「夕べから、細田さんの姿も見えないし……何か、悪いことが起きているような気がするんです」
私の訴えに、先生は口を開いた。

「忘れることだ……」
一瞬、耳を疑った。

「倉田は、霊感が強いのかな。
普通の生徒なら気づかないことを、知ってしまったのか。
悪いことはいわないから、忘れろ」

先生は何をいっているの?
忘れろ?
細田さんが、何か事件に巻き込まれたかもしれないのに?

細田さんだけじゃない。
いなくなった人のこともある。
それなのに……。
先生は、少しも驚いていないようだった。

呆然とする私に、先生はさらに続けた。
「この学校には、黒木という教師はいない。
しかし、黒木先生というのは、確実に存在するんだ」
「……どういう意味ですか?」
「黒木先生は……この学校に、昔から棲みついている''モノ''なんだ」

そういって、先生は説明してくれた。

新校舎ができるずっと前から、この学校には怪しげな事件が起きていたこと。
そして、その事件には必ず、「黒木先生」という人物が絡んでいたこと。
しかし、黒木先生はヒトではない。

生徒や教師を、どこへともなく連れ去ってしまう……謎の存在なのだと。

「この学校に巣くう何かか、学校自体の意識か……先生は、そんなものじゃないかと思っているんだがな」
先生は、ポンと私の肩を叩いた。
「そんなこと……」
信じられなかった。
でも、ある意味で、奇妙に納得することもできた。

この学校に伝わる七不思議は、語り手によって、何十種類もあるという。
いくら古い学校だといっても、数が多すぎるんじゃないかと思っていた。
でも、そういうことなら理解できる。

たくさんの事件は、すべて黒木先生のやったことだったのね。
バラバラな数十件ものできごと、といわれるよりも、関連しあった一繋がりの事件だったといわれた方がしっくりくる。

でも……。
ちょっと待ってて。
私は、あることに気がついた。

「先生……それじゃあ、学校側は黒木先生のことを、知っているんですか?」
「いや、ほとんどの先生方は知らないだろうな。
先生は、この学校の卒業生でな。
在学中に、黒木先生のことを知ったのさ。
だから、教師になって戻ってきたんだ」

先生の説明には、納得できなかった。
だって、いくらなんでも事件が多すぎるもの。
他の先生たちが気づかないなんて、信じられないわ。
だから、私は聞いた。

「校長先生も、気づいていないんですか?」
すると、先生はくちびるに指を当てた。
黙れ、ということね。
ささやくような、小さな声。

「年に何件も事件が起こるのに、新入生の数が減らないだろう。
黒木先生が、何人か連れ去るのを黙認すれば、その何百倍の生徒が入学してくるらしいんだ」
「だから……黒木先生を放っておいているというんですか?」
先生はうなずいた。
家を栄えさせるという、座敷わらしのようなものなの?

でも、生け贄を欲しがる座敷わらしなんて、聞いたことがないわ。
本当に、警察にいわなくていいのかしら。
気づくと、先生がすぐ近くにいた。
私の考えを読んだように、そっと首を振る。

「この学校に逆らってはいけない。
消えた人間がどうなったかは、わからないが……そんな事件くらい、平気でもみ消せる相手だぞ」

その言葉と同時に、傍らの窓ガラスがビシッと鳴った。

見ると、ひびが入っている。
なんてタイミングなの。
まるで、学校が私を脅したようだった。

「倉田、もう、つまらない詮索はよせ」
先生はあわてて、私の肩をつかんだ。
その顔は青ざめていた。
「で、でも……」
「死にたいのか!?」

ビシビシッ!
ひびが大きくなった。
一枚ガラスの全面に、細かいひびが走っている。
粉々に崩れない方が、不思議なくらいに。
白く不透明になったガラスに、西日が乱反射する。
一瞬、射すくめる強い視線を連想した。

そして、わかった。
先生のいうことは正しいわ。

私はゆっくりとうなずいた。
「わかりました……このことは忘れます」
「そうか」
先生は、ホッとしたように笑った。

次の瞬間、ガラスは砕けて、滝のように地面に散った。
高く澄んだ破壊音が、私に降り注ぐ。
凍りついていた時間が、不意に動き出したように。
それを聞きながら、私は敗北感でいっぱいになっていた。
私は負けたんだわ。
この学校に。

あの闇に潜む黒木先生……いや、もっと邪悪な何かに。
でも、細田さんのように、闇に飲み込まれなかっただけでも、よかったのかも。
無理にそう思い込んで、私と先生は歩き出した。
……背中に、誰かがあざ笑う声が聞こえた。



『1、先生の話を聞いてみる』



「先生、いいんですか?」
私としては願ったりかなったりだわ。

先生は、いっそう嬉しそうに顔をほころばした。
「ああ、先生が許してんだ。
大船に乗ったつもりでいろ。
……ただ、一つだけ約束してくれよ」
「何でしょうか?」

「……先生が旧校舎に連れていったなんて内緒だからな。先生が怒られちまう」
そういい、照れ臭そうに笑った。
黒木先生って、いい先生みたい。
私たちは、大きく頷いた。



『2、聞いてもいい&2、やっぱり話を聞く』



「わかりましたよ。聞きましょう」
私はうなずいてみせた。

「さすが、倉田さん」
細田さんは嬉しそう。

「そうか、聞きたいか……それなら、話してあげようかな」
そういった黒木先生の目が、一瞬暗く光ったように見えた。
でも、それを確認する前に、先生はくるりと背中を向けた。



※以下同文※



「よし。じゃあ、先生についてこい」

頼りになるのは、懐中電灯のぼんやりとした明かり一つだけ。
先生は、先頭になって足元を照らしながら歩き始めた。
そして、ゆっくりと歩きながら、ぽつりぽつりと話し始めた。

「……君たちは、戦時中のことを知っているか?」
「いえ、知りません」
「戦時中はこの辺も大変でな。
もっとも、先生もまだそのころは生まれていなかったから、詳しいことは知らないよ。
でもな、先生はこの学校の出身でね。
先生がここの学生だったころは、まだ旧校舎で授業を行っていたんだ。
その時、みんなの間で噂になった話なんだけどな。
……ここだよ」
そういうと、先生は、ふと足を止めた。

そして、何やら壁に向かって懐中電灯を照らしている。
「……やっぱり昔のままだ」
懐中電灯を壁の一点で止め、先生は懐かしそうに壁をさすり始めた。
「ここの壁の色だけ、ほかと色が違うの、わかるか?」
そういうと、先生は懐中電灯を少し振って見せた。

そういわれると、確かに少しだけ壁の色が違うように思える。
そして、先生はゆっくりと話し始めた。



『3、トイレ』



「トイレですよね!」
私が答える前に、細田さんが口を挟んだ。

黒木先生は、ニヤッと笑った。
「細田らしいな。残念ながら外れだよ。
この向こうにあったのは、もっと別の物だ」
そういって、先生は話を始めた。



『5、倉庫』(削除)




「ぐうっ」
苦しげな悲鳴があがって、兵隊が倒れた。
腹を押さえた手が、血で真っ赤に染まっている。
いつの間にか、少年の手に握られている包丁も、血まみれだ。
あわてて取り押さえようとする兵隊に、少年は包丁を振り回す。

銃で撃たれるまで、少年は何人もの兵隊に、怪我を負わせたらしい。
もちろん、彼がなぜ、そんなことをしたのかは謎のままだった。



『2、もう十分です』



「いいえ、もう結構です」
私は、首を横に振った。
「倉田さん?」
今日はもう、たくさんの話を聞いたもの。
これ以上は聞きたくないわ。
今までの話だって、七話目にしようと思えばできるんだし。
それに、なんだか胸騒ぎがしていた。

このままここにいたら、何か悪いことが起こるような気がする。
黒木先生は、ちょっと拍子抜けしたようだった。
「そうか。まあ、それならいいけどな。
おもしろいのは、実はここからだぞ?」

何といわれても、もうたくさんよ。
黒木先生は、肩をすくめた。
「じゃあ、もう帰れ。気をつけるんだぞ」
「はい……ありがとうございました」
私は頭を下げた。

細田さんは不満そうにむくれていたけれど、何もいわなかった。

これでよかったのよ……。
……私は、カバンを抱え、学校を後にした。



『(教室)3、避難訓練だった』(追加)



先生たちのクラスはどうしても、あの廊下を通らなければならなくってね。
正直いって、嫌だったよ。
けれど、仕方ないだろ。
まさか、あそこは怖いから行きたくありませんなんて、カッコ悪くていえないよな。

それで、避難訓練が始まった。

(変更)
ひょっとしたら、死んだ生徒や、あの時代を生きていた他の兵隊や人々が、先生に何かを訴えたかったのかもしれないな。

とても悲しい目をしていたよ……。

なぜか、それ以来、あの兵隊の姿は見ていない。
彼らはとても悲しそうな目をしていたな。
もしかしたら、彼らが味わった気持ちを、何不自由なく暮らしている今の時代の人間たちに、少しでも味わってほしかったのかもしれない。



『(教室・階段&トイレ・倉庫・死体置き場)3、壁にいくつもの人の顔が出る(倉庫)1、壁の向こうから声が聞こえてくる』



「……はい」
うなずくしかなかった。
黒木先生は、満足そうに笑った。
「ならば、よし。じゃあ帰るんだな」

……私たちは、学校を出た。
それにしても、ひどいわ。
確かに悪趣味かもしれないけど、私は真剣にこの企画に取り組んでいたのに。



『(教室)2、友達と賭をした&3、非難訓練だった(階段&トイレ)1、壁の向こうから声が聞こえてくる(階段&トイレ・倉庫)2、兵隊の霊が現れる』



……私たちは、黒木先生に見送られて、学校をあとにした。
……それにしても、何とかなったわ。
ケガの功名というものね。
七人目は来なかったけれど、代わりに黒木先生の怖い話を聞けたから、先生が七人目ってことになるのかな。



『(教室)1、先生に頼まれごとをされた』



一瞬、空耳かと思った。
先生の声に合わせて、壁からか細い声が聞こえた。
ぞくっと背筋が震えた。
本当に声が聞こえるなんて!

私たちが見守る前で、壁にゆっくりと顔が浮かび上がった。
彫刻のように浮き上がった、真っ白な顔。
「どうして……どうして……」
悲しそうに、つぶやき続けている。
細田さんが、ついつられたように、フラフラと近づいた。
「ねえ、君……」

話しかけられた壁の顔は、その瞬間、カッと目を見開いた。

「どうして私たちが死ななきゃいけなかったのーーーーっ!?」

叫んだその口から、ゴウッと渦を巻いて、炎が吐き出された。
「うわああっ」
細田さんは避ける間もなく、真っ正面から炎を浴びてしまった。

「ぎゃああーーーーっ!」
人間とは思えないような悲鳴をあげて、ゴロゴロと転げまわる。
全身火だるまだわ。

駆け寄ろうとしても、炎の勢いが強くて近づけない。
「細田さんっ!」
叫ぶ私の肩を、黒木先生がつかんだ。

「見ろっ!!」
気がつくと、周囲は一面、火の海だった。
壁が崩れ、柱は折れて、校舎はボロボロだった。
その時、頭の上で飛行機の爆音が聞こえた。
まさか!?
私の感じた恐怖を、黒木先生が口にした。

「これは、戦争中の学校だ!!」

やっぱり、そうなの!?
壁の顔が何かしたんだろうか。
でもいったい、どうやって?
いや、今はそんなことを考えている場合じゃないわ。
一刻も早く、ここから逃げなくちゃ。
駆け出そうとしたその時、私の足を誰かがつかんだ。

黒こげになった細田さんだった。

皮がめくれ、下の皮膚がのぞいた顔で、私を見上げている。
「置いていかないで……」
これが同じ人かと思うほど、声がしゃがれてしまっている。
でも、もう彼が助からないのは見てわかる。
私は、細田さんの腕を振り払った。
「倉田さん!」

意外そうな、悲痛な声。

私は耳をふさぎ、逃げ道を探した。
燃える柱の向こうで、黒木先生が私を呼んでいる。
「こっちだ!」
私は迷わず、先生の方へ走った。
もう少しで、先生が伸ばしている手に届く。
あと二十センチ。

あと十センチ。
そして、やっと届くかと思った瞬間、私の上に天井が崩れて落ちて来た。
とっさに飛びのく。
何とか避けたが、道はふさがれてしまった。
「もう逃げられない。あんたも死ぬのよ」

壁の顔が、冷たくいい放った。
「私たちと同じようにね」
足元で、低く笑う声が聞こえた。

「よかったよ……君が残ってくれて……」
ニヤニヤしている細田さんの目は、もう正気ではない。

ガラガラと、ガレキの崩れる音がした。
舞い上がる火の粉が、顔を打つ。
私は、ここで死ぬんだわ。
先生から聞いた、あの空襲の日の学校で。
数人、死体が増えたところで、誰も気にはしないわね。

黒木先生も、無事に逃げられたか怪しいものだわ。
だけど……どうして私が!?
答えるものは、何もなかった。
私はゆっくりと倒れ、炎が体にまといつくのにまかせた。



『(死体置き場)2、全然興味ない』



黒木先生はうなずいた。
「それじゃあ、おまえたちはここで帰れ。先生は、ちょっと試してみるよ」
「本気ですか?」
私は、びっくりして聞いた。
先生は真顔で首を振る。

「当たり前だ。ずっと知りたかったことなんだからな」
そこで、ニヤッと笑って見せた。
「でも、他のヤツらには内緒だぞ。
おまえたちのことも、黙っていてやるからな」
私は笑いそうになった。

黒木先生って、全然先生らしくない。
二年生になったら、こんな人が担任になるといいな。
そう思いながら、私は答えた。

「はい、わかりました」

……私たちは、黒木先生に見送られて、校門を出た。

家につくと、家族はとっくに食事をすませていた。
私は怒られながら、さっさと食事を終えて、自分の部屋に飛び込んだ。
ベッドに寝転がり、今日のできごとを思い出そうとする。
本当に、いろんなことがあったわ……。



『(死体置き場)1、少しはある』



「……あります」
私は正直にうなずいた。

黒木先生は、嬉しそうに笑った。
「そうだよな。
よし、試してみようか」
私たちは、壁に耳を当てた。
本当に何か聞こえるのかしら?
……別に聞こえない。
変だわ。
私は、もう片方の耳を、壁に当ててみようとした。

振り向くと、同じように壁に張りついている黒木先生が見えた。
首をかしげているところを見ると、やっぱり何も聞こえないみたい。

その時、先生の背中側の壁が、グニョッと動いた。
ゴムのように伸びて腕の形になる。

「先生……!」
私の声に、黒木先生が顔を上げた瞬間。
壁の腕が、先生の頭をつかんだ。
抱き寄せるように、壁にたたきつける!
あんな勢いでぶつかったら、頭蓋骨にひびが入るかもしれない。

私は息を飲んだ。
……予想したような鈍い音はしなかった。
その代わり、先生の頭は、音もなく壁に吸い込まれた。
壁が、ポタージュのような粘りけのある液体に変わったみたいだった。

「黒木先生っ!」
細田さんが、あわてて先生を捕まえた。

私も腕をつかみ、思いっきり引っ張る。
でも、ピクリともしない。
先生の手が、私の腕を握りしめた。
苦しんでいるんだわ。
息ができないのかしら!?
私は壁を殴ってみた。

ガツンと、こぶしに重い衝撃。
痛い。
普通の壁だわ。
人なんか飲み込むはずがない、ただの固い壁なのに。
「先生をどうする気!?」
正体の分からない何者かに、私は叫んだ。
その時、小さな声が聞こえた。
「オニイチャン……」

小さな、女の子の声。
寂しそうな、か細い声だった。
私は、さっきの先生の話を思い出した。
死んだ妹の方なの!?
彼女の霊が、未だに死に別れた兄を捜しているというの!?
先生の動きが、弱々しくなってきた。
考えている時間はない。

私は、落ちている懐中電灯を拾い上げ、壁に向かって叫んだ。
「あなたの兄さんは、もう死んだわ!!
黒木先生を、連れていかないで!!」
懐中電灯を、壁にたたきつける。

もちろん、それくらいで、どうにかなるとは思わなかった。
ただ、彼女をひるませることくらいはできるかもしれなかった。
けれど。

ビシビシッと、壁にひびが入った。
呆気にとられる私達の目の前で、ボロボロと壁が崩れ始める。
そして、長い間隠されていた、死体置き場の扉が、とうとう姿を現した。
解放された黒木先生は、床に倒れた。

その首には、半透明の女の子がしがみついている。
黒い空洞のような目。
表情がはっきりしないが、これが妹の霊なのかしら。
音もなく、扉が開いた。
やせこけた少年が一人、そこに立っていた。
彼の口が、わずかに動いた。
''オイデ……''

声は聞こえなかったけれど、そういったのはわかった。
半透明の少女が振り向いた。
「オニイチャン」
黒木先生を離し、少年の元へ駆け寄る。
ああ、彼は兄の方なんだわ。
やっと巡り会えたのね。
二人は、なんだか嬉しそうに見えた。

手を取り合い、ふわりと闇に紛れ込む。

よかった……。
これで、もう声が聞こえることも、なくなるわよね。

ホッとした私の背後で、細田さんの鋭い声が聞こえた。
「黒木先生が!」

先生は、床に倒れたままだった。
顔色は青を通り越して、紙のように白い。
体に触れてみる。

「……脈がない」
先生が死んだ!?
女の子の霊がやったというの?
お兄さんにはぐれた、無害な霊だと思ったのは、気のせいだったのかしら。
初めから、先生の生気を抜くつもりだったのかしら。
それなのに、私はのんきにも、彼らの再会を喜んでいたんだ。

一歩間違えば、死んでいたのは私かもしれないのに……。

私は身震いした。
帰らなくちゃ。
ここにいるのは、単なる霊なんかじゃない。
何か、とても邪悪な、悪いものだわ。
ここにはいられない。
懐中電灯は壊れてしまった。
でも、手探りでも帰らなくちゃ。

座り込んだ細田さんにも構わず、私はヨロヨロと歩き出した。
闇にまぎれて、甲高い笑い声が響いた。
これから始まる何かに、期待するように。
そう……。
夜はまだ、終わりそうにない。



『(死体置き場)2、兵隊の霊が現れた』



その時、暗闇の中で、何かがうごめいた。

「うわあっ!?」
情けない声を上げて、細田さんが私にしがみついてきた。

しかし、黒木先生は笑い出した。
「驚いたか。先生の友達だよ」
懐中電灯の明かりが、その人影を照らした。

地味なスーツ姿の男の人だった。
ペコリと頭を下げると、かけていた眼鏡が光を反射した。

「なんだあ。びっくりしましたよ」
細田さんが、恨めしげな声をあげる。
でも私は、話の続きが気になっていた。
「先生、でも先生は、殺されなかったんですよね?
こうして、私たちと話をしているんだから」

先生はうなずいた。
「そうだ。でもまあ、順番に話そうか」

先生はヤツを見て、その正体にピンときたんだ。
こいつは幽霊じゃない。
もちろん人間でもない。
死神だ……ってな。
それなら、たくさんの人が死んだ場所にいても、不思議じゃない。

でもそれなら、先生を殺すというのも本当なんだろうか?
震えだした先生に、ヤツは奇妙な笑みを浮かべたよ。
そして、再び口を開いたんだ。
「一度だけチャンスをやろう……X年後、我に、おまえの代わりの魂をよこせ。
もし、できなくば……」

死神は口をつぐんだけれど、先生にはわかった。
もし持ってこなければ、改めて魂を奪う……そういうことなんだろう。
だから、必死に答えた。
「わかった。必ず持ってくる」

……しょうがないだろう。
まだ高校生だったんだ。
やりたいことは、たくさんあった。
死ぬには早すぎるよ。
そして先生は、死神と契約をしたんだ。

そこまでいって、先生は友達だという男の人を見た。
意味ありげな笑みをかわす。
なんだか、嫌な感じだわ。
「あの……先生、それで……」
「X年後というのは今年なんだよ」
先生は、嬉しそうに笑っている。
そして男の人にいった。

「約束通り魂を持ってきましたよ。
これで助けてください」

男は顔色も変えず、黙ってうなずいた。
私たちは、キョトンと二人を見比べた。
「もう、軍服は着ていないんですね」
何気ないその一言が、私を凍りつかせた。
この人が死神なの!?

今年が、死神との契約の年ということは。

「先生! 僕たちの魂を、そいつにやるっていうことですか!?」
私より先に、細田さんが叫んだ。

「そうさ。
まだまだ、俺にはやりたいことがあるんでな」
黒木先生は、ずるそうに笑っている。
「そんな!!」
「うるさい! さあ、どうぞ」
先生にうながされ、男が近づいてきた。

「う……うわああっ!」
細田さんが、どこから出したのか、カッターナイフをかざした。
男に飛びかかる。

しかし、指一本触れないうちに、細田さんは吹き飛ばされた。
巨体が壁にぶつかる。
ナイフが跳ねて、私の足元に落ちた。
男は、細田さんに手を伸ばす。

どうしよう?



『1、様子を見る』



私は様子を見ることにした。
男は、細田さんの胸に手をかざした。
その瞬間、細田さんがビクンと飛び跳ねた。
白目をむいて、床に崩れ落ちる。
だらしなく放り出された手足は、まるでぬいぐるみのようだった。

あるいは、脱ぎ捨てられた服のような。
「ほ……細田さん……」
私はささやいた。
細田さんは動かない。
死んでしまったの?
この男……いや、死神に命を吸い取られれてしまったとか……。

私はあわてて、駆け出そうとした。

しかし、一瞬早く、死神が振り向いた。
目があった途端、体が動かなくなる。
黒木先生が笑い声をあげた。

「残念だったな。おまえも死ぬのさ」
男が、手を伸ばしてくる。
七不思議なんて、企画するんじゃなかった。
私が思っていたよりずっと、この学校の闇は深かったのね。
こうして、この私まで命を落とすなんて。

気を失う瞬間、黒木先生の声が聞こえた。
「七不思議を全部知ってしまうと悪いことが起こるんだぜ……」



『2、カッターを拾う』



私はカッターナイフを拾った。

「こいつ!?」
黒木先生が気づき、飛びかかってきた。
体格のいい先生に、ナイフを奪われてはいけない。

私たちは必死にもみ合った。
そして。

「ぎゃあああっ!!」
黒木先生が悲鳴をあげた。

その胸を真っ赤に染めて、ナイフが突き立っている。
「そんな……馬鹿な……!」
先生は血を吹き出しながら、ゆっくりと床に倒れた。
男……いや、死神が、その上に手をかざす。
フワッと浮き上がった光の玉が、死神の手に吸い込まれた。
今のが、黒木先生の魂?

死神は私たちを見た。
「契約は果たされた……」
そして、ボウッと姿を消した。
まるで体が、煙に変わってしまったように。

助かったのね……。
私はホッとして、細田さんを助け起こそうとした。
しかし、その手は弾かれた。

「触るな、人殺し!!」
「細田さん!?」
細田さんはぶるぶると震えている。
もう少しで死ぬところだったんだから、無理もないわね。
でも、私を人殺しというなんて。

黒木先生が死ななければ、私たちは二人とも死神の生け贄にされていたというのに。
「落ち着いてください、細田さん……」
私が近寄ると、細田さんは太い腕を振り回した。
「く……来るな! 人殺し!!
誰か助けてくれぇっ!!」

その悲鳴に答えるように、廊下の向こうから光がさし込んだ。

誰かが、懐中電灯を持って走って来る。

「誰だ? ここは立入禁止だぞ!?」
聞き覚えのある声。
きっと先生だわ。
そういえば、契約の日に、ちょうど黒木先生の宿直の日だなんて、できすぎている。
黒木先生は、勝手に旧校舎に来たんだわ。

そして、私たちを見つけたのよ。
今、走ってきているのが、本当の宿直の先生なのね。
細田さんが嬉しそうに手を振っている。
「先生! 先生!
助けてください、人殺しなんです!!」

私は、倒れている黒木先生の亡骸を見た。
その胸に刺さったままのカッターナイフを。
そして、血まみれの自分の手を。
人殺し……。
そう、私は人殺しよ。

どんなに話したって、この事件を理解してくれる人なんていやしない。
私は、立入禁止の旧校舎に入り込んで、教師を襲った殺人犯なのよ。

私を照らす懐中電灯の光は、まるで私を捕らえる虫取り網のようだった。



『帰宅』



それにしても、もうだいぶ遅いわ。
帰り道に、ふと店先の時計を見ると、もうすぐ九時になろうとしていた。
私は家に帰ると、今日の出来事を思い起こしていた。
……それにしても、ずいぶんと怖い話があるもんだわ。

まあ、風間さんが一人だけ訳のわからない話をしていたけれど、あれはあれで我慢しよう。
明日、日野先輩にどうして風間さんなんて呼んだのか聞いてみればいいことよね。
結構ドキドキしたけれど、おもしろい体験だったわ。

その時。
突然、電話のベルが鳴った。

今頃、誰かしら?
時計を見ると、もう十一時を回っていた。

どうしよう?
電話に出ようか?



『2、出ないで放っておく』



かちゃり、と音がした。
切れたのね。
私は電話の方を見た。

すると、受話器が外れている。
何で?
この部屋には、私しかいない。
ということは、受話器が勝手に外れたというの?
そんな馬鹿な。
私は、受話器を手に取った。
すると、耳に近づけてもいないのにしゃがれた声が聞こえた。

「おまえは知りすぎた……」
男か女か、若いか年を取っているかもわからない声だ。
「もしもし、どなたですか?」
受話器に話しかけてみた。
「知らずにいればいいものを、なぜ調べてまわるのだ……」
調べてまわる?
私が、何を調べたっていうの?

私がした取材といえば……。
「ひょっとして、学校の七不思議のことですか?
でも、それがいったい……」
私の言葉をさえぎって、重々しい宣告が下された。

「七不思議をすべて知った者には、死を!
それが昔からのことわり」
同時に、ヒュッと風を切る音が聞こえた。

次の瞬間、耳に激痛が走った。
「うぐっ!?」
ビリビリッと、感電した時のようなしびれが走る。
受話器を放り出して、耳を押さえた。
熱い。
どろどろと、熱い液体が流れ出してくる。
血だわ!

床に転がった受話器から、笑いを含んだ声が聞こえる。
「呪い針を打ち込んだ。
脳にまで食い込み、絶対外れることのない針だ……」
呪い針?

激痛で視界がかすむ。
どうして私が、こんな目に……?
私の心の声が聞こえたように、声は再び笑った。
「いったはず、おまえは知りすぎた……生かしておくわけにはいかぬ」
たかが、学校の七不思議で!?

叫ぼうとしたけれど、もう声が出なかった。
知ってはいけないことだったのかしら。
そういえば、受話器を通じて攻撃するなんて相手は普通の人間とも思えない。

頭の中で、どくどくと音がする。
私の体から、血が流れ出る音かしら。
目の前がぼうっとする。
もう、ちゃんと考えることもできない。
細田さんたちは、大丈夫なの?

そんなことを考えながら、私は血だまりの中に倒れ込んだ。
七不思議には、もっと重要な意味が隠されていたのかもしれない。
でも、もう遅かった。
私は、力なくまぶたを閉じた。



『1、電話に出る』



私は、受話器を取った。
「……もしもし、倉田です」
「あ、倉田さん? 僕だよ」
「は?」
やけに馴れ馴れしい声だった。
いったい誰かしら。
「やだなあ、もう忘れちゃったのかい。
さっきまで一緒だったじゃないか」

「あ! 細田さん」
「いやあ、覚えていてくれたんだね。嬉しいよ。
実はちょっと相談があるんだよ。聞いてくれるかい?」
「え、ええ……」
「ありがとう。君なら、絶対に聞いてくれると思ったよ。
さっきの黒木先生の話、覚えてるだろ?」
「はい」
「僕さあ、家に帰ってもあの壁のことが気になってしょうがないんだ。
先生の話は、本当だったのかなあ」

……わざわざ、細田さんはそんなことをいうために電話をかけてきたのかしら。
それに、どうして私の電話番号を知っているの。
私は教えてないはずよ。
「……もしもし? もしもし? どうしたの? 聞いてる?」
「え、あ、はい」

「それでね、こんなこと頼みづらいんだけれど、どうかな?
これから一緒に、あの壁の向こうを確かめに行かないかい?」
「え! これからですか?」
いったい、この人は何をいっているのかしら。

もうすぐ十一時だというのに、これから学校に行くなんて……。

どうしよう。
なんて答えよう?



『1、明日にしましょう』



「……あのう、今日はもう遅いですから、明日にしませんか?」

それで私は逃げたつもりだった。
明日にするつもりも毛頭なかったし、ていよく断ったつもりだった。

けれど、細田さんは電話の向こうで興奮して声を荒だてた。
「何いってるんだよ、倉田さん!
明日じゃ遅いんだよ。
昼間、あんなところに行って、どうやって壁の向こう側を見るっていうんだ?
夜しかないんだよ! チャンスは今しかないんだよ!」



『2、悪いけれど、私は興味ありません』



「ちょっと悪ノリしすぎじゃないですか。
私はいい考えだとは思えないんですけど」
私の言葉に、細田さんは怒ったようだった。
「君ねえ、それでも新聞部員かい!?
現場に飛び込んで、スクープを取るくらいの根性がなくって、つとまるわけ!?」
かなり興奮している。



※以下同文※



細田さんの声は、やけに荒々しかった。
鼻息まではっきりと聞こえてくる。

……どうしよう。



『2、いい加減にしてください。私は眠いんです!』



「もう、いい加減にしてください。
こんな遅くに、常識がなさすぎますよ!」
私は、思わず叫んでしまった。
細田さんは、一瞬絶句した。
「倉田さん……きみ、よくも先輩の僕に、そんなことを」

「先輩なら、先輩らしくしたらどうなんですか!?
私は眠いんです。失礼します」

一方的にまくしたてて、私は電話を切った。
ちょっと、いいすぎたかもしれない。
でも今日は、あんな大変な体験をしたばかりなのよ。
少しくらい、気が立っていてもしょうがないわ。

私はそう自分を納得させ、ベッドにもぐり込んだ。
……神経が高ぶって、とても眠れそうにないと思っていた。

でも、いつの間にかウトウトしたようだ。
ぱたぱたという音で、目がさめた。
何?
カーテンがはためいている。
私は、窓を閉めるのを忘れてしまったのかしら。

起き上がろうとした時、部屋の中に誰かがいることに気づいた。

「お目覚めだね」
その声は、細田さん!?
「ど、どうして……?」
「君の住所を、名簿で調べたのさ。
鍵をかけ忘れるなんて、うっかり者だな君は」
細田さんはクスクス笑いながら、ポケットに手を入れた。

取り出したのは、果物ナイフだった。
夜目にも、きらりと光る刃が見える。

「倉田さんは、僕のことを馬鹿にしたよね。
僕はね、馬鹿にされるのが大っ嫌いなんだ」
昼間と変わらない口調だった。
だから余計、握りしめたナイフが不自然だった。
この人は、何をするつもりなの!?

「悪いけど、死んでもらうよ。
僕は僕を馬鹿にするヤツを許さない」

細田さんは笑顔のままで、ナイフを振り上げた。

私はいちかばちか、上がけを投げつけた。
バサッと細田さんにかぶさる。
「うわっ!?」
今だわ!
私は彼の横をすり抜け、部屋から飛び出そうとした。

しかしその時、首に熱い衝撃が走った。

目だけで見下ろす。
私の首に突き立っている、果物ナイフ。

「危ないところだったよ。
でも、僕の勝ちだね……」
嬉しそうな細田さんの声が聞こえる。
私は血をまき散らし、冷たい床に転がった。



『3、一人で行ってくださいといって電話を切る』



「今日は疲れたので、勘弁してください。
行くなら、一人で行ってくれませんか」
私は、そう断った。
「そうか……」
細田さんは、しゅんとしたようだった。
これで、気を変えてくれるかしら?

でも、そう思ったのも束の間。
「わかった。じゃあ一人で行くよ」
細田さんはそういって、電話を切った。

本気なの?
大丈夫なのかしら。
でも、私は行かないといったんだし……。
細田さんが気にはなったけど、私はベッドにもぐり込んだ。
疲れているのは本当だもの。
少しでも眠りたかった。

次の日、学校に行くと、妙に騒がしかった。
何があったの?
クラスメイトを見つけて、私は声をかけてみた。
「あ、おはよう倉田。
二年の細田先輩が、旧校舎で黒こげになって死んでたんだってよ」
細田さんが!?

私は駆け出した。

旧校舎の前にはロープが張ってあった。
そしてその前に、黒木先生がいた。

先生は私を見つけて、表情を曇らせた。
「細田が……」
「聞きました。何があったんですか?」
「わからない。でもきっと、旧校舎に潜む何かの怒りをかったんだろう」
先生は、そういった。

そうかもしれない。
細田さんは、昨日の話に執着していた。
私にいった通り、あの壁の向こうを確かめようとしたんじゃないかしら。
ただでさえ、魔物の時間である真夜中に。

「旧校舎の管理は、これから厳しくなるぞ。
取り壊しが始まるまで、もう誰も中に入れないようにな」
黒木先生がいった。
先生も、昨日のことを後悔しているのかもしれない。
これでおしまいだわ。

もう二度と、旧校舎の謎が解き明かされることはないのよ。
残念な気はしたけれど、ホッとした気分も大きかった。
人生にミステリーは必要だけど、命あってのものだねだもの。
私はこれ以上、七不思議の件には突っ込むまいと、固く心に決めた。



『わかりました。今から行きます』



「……わかりました。今から行きますよ」
ここで断っても、きっと細田さんはしつこく私を誘うわ。
仕方なく、私はそう答えた。

「ありがとう!
ありがとう、倉田さん!
君なら、絶対にそういってくれると思っていたよ!
それじゃあ、今から一時間後に学校の校門で待ってるから。
よろしくね!」
「あ、ちょっと待ってく……」

細田さんは、いいたいことだけいい終わると、すぐに電話を切ってしまった。

「……まいったわ」

私はため息をつき、受話器を置いた。
私も、つくづくお人好しね。

まさか、こんな時間に学校に呼び出されてそれを受けてしまうなんて。
しかも、こんなことがあった日に……。

私の神経はマヒしていたのかしら。
普通なら、怖くてたまらないんじゃないの?
それとも、あれだけ怖い話を聞かされたから、おかしくなってしまったの?
私は、そんなことを考えながら学校に向かった。

時間に遅れたつもりはなかったけれど、すでに細田さんは校門のところで待っていた。
「倉田さん!」
細田さんは、私を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。
肩には大きなバッグを下げていた。
いったい、何が入っているのかしら。

「さあ、旧校舎へ行こう。
そして、あの壁の向こうを確かめるんだよ!」
細田さんの目は、らんらんと輝いていた。
なぜ、そこまでして、そんなことにこだわるのか、私には理解できない。

私たちは、旧校舎に向かった。
もう、黒木先生は寝ているのかしら。

真夜中の旧校舎は、まるで悪魔でも住んでいるような不気味さだわ。
細田さんは、用意のいいことに懐中電灯まで持ってきていた。
懐中電灯が薄汚れた壁を照らす。
「……確か、この辺だったけれど。……あった!」

確かに、壁の色が違う。
この辺りだったかもしれない。
「よし」
細田さんは、肩から重そうな大きなバッグを下ろし床に置いた。
床のきしみからして、相当重そうだった。

チャックを開けると、中から金属の固まりが姿を現した。
「細田さん、これ……!」
私は、思わず叫んでしまった。
細田さんは嬉しそうに微笑むと、その固まりを取り出した。

「うふふ……、僕のお父さんは日曜大工が趣味でね。
電動ノコギリを借りてきたんだ」
私は開いた口がふさがらなかった。
まさか、電動ノコギリで、この壁を切り刻もうというの?

どうしよう?