03 突きつけられた真実







2日後、美紀ちゃんがニコニコ笑いながら私の部屋にやってきた。どうしたの?と聞くと、美紀ちゃんは嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうにかずくんと付き合うことになったと伝えた。私は、美紀ちゃんのふわふわした頭を撫でる。




「よかったね、美紀ちゃん」
「うん!杏ちゃんのおかげ」




それから美紀ちゃんは、かずくんから貰った手紙を見せてくれたり、かずくんと話したことや遊んだことを事細かに話してくれた。嬉しそうに笑っている美紀ちゃんを見ていると、なんだか私まで幸せな気分になってしまう。恋というものはすごくきついけれど、それを乗り越えたらとてつもない幸せが現れるのだと私は初めて知った。
だけど、この幸せは長くは続かなかった。











―二週間後、美紀ちゃんが死んだ。
美紀ちゃんは私と同じ病気で、入院していた。私はもう、末期で手術はできなかったけれど、美紀ちゃんは早期発見で手術をして、来週、退院予定だった。いきなりすぎて私はどうすればいいのか分からなかった。昨晩、急に苦しみ始めた美紀ちゃんのためにナースコールを押して看護士さんを呼んだのは私だった。看護士さんが来るまでずっと、手を握り締めていたが、だんだん手が冷たくなってきているのが分かった。看護士さんと先生が来て、私は自分のベッドに戻されたが、隣からは人工呼吸器の音が聞こえてきて私の頭の中はパニックだった。そして、ピーと甲高い電子音が永遠に室内に響き渡る。美紀ちゃんが死んだ、彼女はまだ10歳だった。




私は荒くなっている呼吸を整えることができずに、過呼吸状態になってしまっていた。涙なんて水溜りができてしまいそうなくらいだ。もつれる足で、近くの公衆電話まで行き、ボタンを押して電話をかける。3コールで彼がでた。




「・・・杏?」
「こ、・・・っ、すけ」
「どうした!?泣いてんの?」
「助け、て。怖いよ、孝介・・・」
「今、行くから部屋で待っとけ」




私が部屋に帰ると、ベッドから美紀ちゃんはいなくなっていた。私は震えが止まらなかった。自宅から病院までは自転車で十分ほどの距離である。孝介が来るまで、10分間がとても長いように感じた。恐怖、恐怖、恐怖・・・私もあんな風に消えてしまう日がくるのだ。今日、改めて私はこの運命から逃れられないのだと知った。身近に感じていなかった死を、私は目の当たりにした。ベッドの上で小さくなって座っていると、彼が息を荒くして現れた。




「杏!何があった・・・?」
「こ、すけ・・・。美紀ちゃんが、・・・っ死んじゃった」




私はぎゅ、っと彼に抱きついた。お風呂に入ったばかりなのだろう、頭が水で濡れている。怖いよ、怖いよ、と泣きながら呟く。彼はそっと私の頭を撫でて、布団を私のひざにかけてくれた。




「何がそんなに怖いんだよ」
「死ぬのが、死ぬのが怖いの・・・!」
「どうして、お前が死ぬんだよ。もうすぐ退院だろ・・・?」
「死んじゃうよ、私」
「は?」
「死んじゃうんだよ!私、余命1ヶ月って言われたんだ、先生に」
「うそ、だろ?」
「嘘じゃないよ!入院したときに余命一ヶ月って言われたんだよ!!」




私は10月の上旬にこの病院へと来た。急に頭痛や吐き気が私を襲い、家で倒れてしまった。救急車で病院に運ばれたときに、自分の病気のことを知った。もう、手術の施しようもないと。




「ああ、言っちゃった・・・。孝介には言わないって決めてたのに」




彼は私の頭を優しく撫でて、「大丈夫だから、」と言った。でも、その声は震えていて、彼も私と同じように動揺していることがわかった。ああ、一番悲しませたくない人を悲しませてしまった。もう、私には悲しませることしかできないのだろうか。死を待つことしかできないの私は、どうすればいいのだろう。





2010.08.8








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