02 消えた泡のような思いと







朝から雪が降っていた。今年初めての雪だ。雪が降っているせいか、いつにもまして今日は寒い。パジャマの上からカーディガンを羽織、窓の外を見つめていた。入院して数ヶ月。この時期になると、もう、お見舞いに来てくれる友人は少なく、一人でいることが多かった。




「杏ちゃん」




私の名前を呼んだのは隣のベッドに入院している小学四年生の女の子。名前は美紀ちゃん。いつも美紀ちゃんの笑顔で何度も助けられたことがあり、私にとっての天使である。すごく可愛いのだ。




「なあに、美紀ちゃん」




あのね、あのね、と言う美紀ちゃん。私は美紀ちゃんの話を聞くために自分のベッドスペースにあるパイプ椅子を美紀ちゃんのベッドの隣に置き座って話を聞いた。




「みきね、かずくんのことがすきなの」




小学生と恋バナするとは思ってもいなかった。やっぱり女の子なのである。好きな人ができて当然だ。美紀ちゃんは恥ずかしそうに手で顔を隠している。かずくんとは隣の病室に入院している美紀ちゃんと同い年の男の子である。彼は足を骨折していて美紀ちゃんが言うには今週いっぱいで退院してしまうらしい。




「で、どうしたいの?」
「あのね、みき、かずくんに告白したいんだけどね、どうすればいいかわかんないの。杏ちゃんならわかるかなと思って。杏ちゃん可愛いし、経験豊富そうだから、美紀に教えてください」




小学四年生でませたこと言うな、なんて思ったけれど本人は必死に私にお願いしてきて本当に好きなんだな、とわかる。美紀ちゃんを手伝ってやりたい気持ちはあるけれど、第一、私は可愛くもないし、ましてや告白したことなんて無い。いつも相手から告白されて断る理由も無く、付き合うというパターンなのだから。




「んー、私ね、告白したことないんだよね。いっつも相手から言われるって感じだったから」
「そっか、杏ちゃんだったら何かいい考えが見つかると思ったんだけどな・・・」




しょんぼりしている美紀ちゃんを見て、どうにかしてあげたいとは思ったけれどなかなかいい案が見つからない。んー、と考えていると一つの案が浮かび上がった。




「手紙なんてどうかな?」




私の一言にぱああっと表情が明るくなり、何度もうなずく。私は自分の引き出しからレターセットを取り出してペンと一緒に美紀ちゃんに手渡した。




「これ、使っていいよ」
「ありがとう!杏ちゃん!」




ピンク色のペンで手紙を書き始めた美紀ちゃんを見て安心し、安堵の息を吐き、自分のベッドへと戻る。すると孝介がベッドに腰かをかけて待っていた。美紀ちゃんのベッドスペースも、私のベッドスペースもカーテンで仕切られていたので気が付かなかったらしい。ずいぶんと待たせてしまったみたいで少し怒っているような顔をしていた。




「杏さあ、彼氏いたんだ」




野球の雑誌を見ながらそっけなく孝介が言った。やはり聞かれていたか。孝介にだけは知られたくなかったのに。私はベッドにのぼり、孝介は私が持ち帰ってきたパイプ椅子に座った。




「うん、いたよ。気になる?」
「・・・別に。あ、やっぱ気になるかも」
「なんだその曖昧加減」
「うっせー」
「んとね、今までにね、四人ほどの人と付き合いまして、相手から告られたけど、相手から振られちゃった」




明るく言ったが、内心ではとても傷ついていた。毎回のように「誰見てるの?おれのこと好きじゃないのに付き合ってもらっても困る」と言われて振られてしまう。だってどんな人よりも孝介が一番かっこよく見えるのだから仕方が無い。兄妹だと分かっていても好きで、好きで、たまらなくて、この気持ちを忘れるために何人ものの人と付き合ってきたけれど、どれも長続きしなかった。




「ふーん」




雑誌のページをめくりながらそっけない返事をするだけでそれ以上話に首を突っ込んでくるようなことはしなかった。私が一番好きなのは孝介なんだよ。この気持ちを孝介に知られたくなかった。知られたらたぶん、もう今のような関係には戻れない。知られないようにするのが精一杯で、すごく辛いことだった。




「杏、退院したらいい人紹介しようか」
「誰・・・?」
「・・・浜田とか?」
「えー・・・浜田さんは嫌ー。てか、今は誰とも付き合う気ないし」
「それは残念。もったいねーぞ、杏は顔だけは可愛いんだからさ」




私はどきっとした。心臓が高く跳ね上がり顔が赤くなるのが分かった。今、付き合った手も、相手を悲しませるだけである。だって、私は死ぬ運命なのだから。死を待つことしかできないのだから。孝介、私が好きなのは孝介なんだよ。気づいて欲しくないのに、気づいて欲しいと思ってしまう私はとても我侭である。





2010.08.4








- 2 -


[*前] | [次#]
ページ:




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -