「落ち着いて、ウォルド」 「君を愛しているんだ……っ」 泣きじゃくっている僕の頭を、ブルーベルが優しく撫で付けた。 「どうしたの、ウォルド。これは遊びじゃないの?」 「え?」 「恋人ができちゃったごっこ」 「ごっこ?」 ブルーベルは、何を言っているのだろう。僕は混乱した。 「お婆ちゃんがね。言っていたの。男の人は女性の気持ちを試す為に、嘘をつくことがあるって。恋人ができた、とか、浮気した、とか」 「……」 「お婆ちゃんが対処法を教えてくれたの。そういう時は相手に合わせて自分も恋人ができた、って言うといいわよって。これは、そういう遊びなのでしょう? ウォルド」 「う、うん、そう。そうだよ」 ブルーベルは僕の頭を包むように抱きしめた。 「よかった……。ウォルドの嘘で」 「……ブルーベル?」 何かが僕の頬に当たった。 生暖かい液体。 それがブルーベルの涙だとわかったのは、すぐ。 「もう、こんな嘘はつかないでね。嘘じゃなかったらどうしようって、すごく考えた。もしも嘘じゃなかったら、恋人ができたあなたを祝福してあげなきゃって……」 ブルーベルが泣いていた。僕はそこで、酷いことをしてしまったと後悔する。 僕が浅はかなことをしてしまったせいで、ブルーベルを傷つけてしまったのだ。 「ごめんね、ブルーベル。こんなこと、もう二度としないから。君を泣かせてしまって、ごめん」 「ウォルド……」 「君の気持を試そうだなんて、もうしないよ」 「うん」 「ブルーベル、ブルーベル。君が、大好きだ。君だけが大好きだよ」 「私も、あなたが大好きよ。あなたともう会えなくなるって想像しただけで、悲しくて悲しくてたまらなかった」 「ブルーベル……」 「あなたが許してくれる限り、私をあなたの傍にいさせてね」 「当然だよ! 僕の隣は、ブルーベルだけの特等席だよ!」 「有り難う、ウォルド」 ブルーベルが僕の頭を抱きしめるようにして体を丸めているのだけれど。 ブルーベルの胸が僕の頭に当たっていた。 こんな状況なのに、ブルーベルが泣いているのに、僕の頭の中はブルーベルのおっぱいでいっぱいだ。 なんて最低なんだ。 でも、ブルーベルのおっぱいが頭に当たっている。 幸せ。 いやいや、違う。しっかりしろ。こんな時に、なんで変なことを考えるんだ。 でも、おっぱいがいっぱい、おっぱいがいっぱい、おっぱいがいっぱい。 僕は無意識の内にブルーベルの体を押し返すと、三人掛けの椅子の上へブルーベルをそっと倒した。三人掛けの椅子へ仰向けで倒されたブルーベルは、きょとん、としている。 「ウォルド?」 僕はブルーベルの体の上へと覆いかぶさった。 「ブルーベル……、僕……」 息が荒くなっているのが自分でもわかった。 頭の中は、ブルーベル一色だ。 これは、もしかするといい雰囲気、というやつではないだろうか。 このまま顔を落とせば、ブルーベルとキスができる。 「ねぇ、ウォルド」 「な、なに、ブルーベル……」 「さっき、なんでもしてくれるって言ったでしょう?」 「うん、言ったよ」 「じゃあ、お姫様ごっこをしよう?」 「え? それ、どういう遊び?」 少しだけ想像がついたけれど、問わずにはいられなかった。 ブルーベルが、僕のことをキラキラした目で見ていた。お願いだから、そんな顔をするのはやめてほしい。 「ウォルド、よく似合っているわよ。とっても可愛い!」 さっき、僕はブルーベルを押し倒した。 でもブルーベルはあっさりと僕の腕の中から抜け出し、家へ戻ってしまったのだ。 そうして再び僕の所へ戻ってきた時。 以前僕がブルーベルへプレゼントをした、青いひらひらのワンピースがあった。 そしてそのワンピースを、今僕が着ている。 ブルーベルの服を僕が着ているのだ。 女装している、ってことだけでも悲しいのに、興奮している自分がいることに余計に悲しくなってくる。だってブルーベルのいい匂いが服からしてくるんだもの。僕は悪くないよ。 「そ、そうかなぁ……?」 「ウォルドは肩が細くて華奢だから、どこからどう見ても女の子よ! 色白だし、本当にお姫様みたい!」 ブルーベル。 僕の愛を試しているの? 安心して、これぐらいじゃ僕の君への愛は揺らがないから。 女装ぐらい、いくらでもしてあげるよ。 「じゃあ、ウォルドちゃんって呼んでくれるかしら」 女言葉で喋ってみた。するとブルーベルが、ブハッと口から息を漏らす。 「あはははははははっ」 「……」 「ご、ごめ、ふふ、ウォルド……っ、女の子の言葉、使うから……ふふ、あははははは」 ブルーベルの笑いのツボに入ったらしい。 「いやん、ブルーベル。笑っちゃだーめ。私、泣いちゃうわー」 再び僕がくねくねしながらそう言うと、ブルーベルはお腹を抱えてくの字に体を曲げた。 「い、息が、できな……」 「ねぇ、ブルーベル。一緒にお茶をしましょうよ」 「あははははは。ウォルド、女の子にしか見えない。あははは」 「もう、ウォルドちゃんって呼んで、って言ったじゃなぁい」 ブルーベルが笑いすぎて咳き込みながら軽い呼吸困難に陥っていた。よほど僕の女装姿が面白いらしい。ちょっぴり複雑な気分だ。 でも、ブルーベルが喜んでくれているし、まぁいいか。 |