Secret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜 | ナノ













Secret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜







「もういいから出て行ってよ、お願いだから」
「何か準備するものはありますか。あぁ、そうだ。蝋燭をお持ちしましょうか?」
「蝋燭っ? 何に使うんだよ」
「加虐趣味のある方が被虐趣味のある方の肌に垂らして遊ぶのです」
「それ、拷問じゃないかっ」
 蝋燭の蝋を垂らして罪人を尋問することがあるのだ。肌についた蝋はとても熱いため、火傷をしてしまう。
「異国より取り寄せた低温タイプの木蝋なので、火傷の心配はありません。ですから、安心して行為に集中していただけますよ」
「どうしてそんなものがこの屋敷にあるんだよ」
「こんな日がくるかも、と老婆心ながらお取り寄せをしておきました」
 僕は眩暈がした。
 というか、ハンス、お前はブルーベルにどんな想像をしているんだ。その蝋燭を使って僕がブルーベルを虐めるわけないだろ! ただでさえ虐待を受けていて傷ついているのに。僕のブルーベルにいかがわしい想像をするのはやめろ!
 そう心の中で怒鳴ってから、僕は『違う』と強く否定した。
 同時に、先ほどの状況を思い出す。
 ハンスが部屋へ入ってきた時。
 ブルーベルは僕の背中に乗って、僕のお尻を叩いていたのだ。
 罵りながら。
 ここから推察するならば、ハンスはこの僕が蝋燭の蝋をブルーベルに垂らされて喜ぶと思っているのだ!
 その考えに行き当たった瞬間、血の気が引いた。
 そんな性癖は持ちあわせていない、と。
 もちろん、ブルーベルがそういうプレイをしたいって言い出したらチャレンジしないでもない。そうでない限りは、熱いのとか痛いのはできれば遠慮する!
「蝋燭なんていらないよ。そういう、火を使う遊びはよくないと思うし」
「そうですね! 危険ですものね!」
 危険なのはハンス、お前の思考だよ。
 お前、普段、いったいどういう目で僕のことを見ているんだよ。僕の純粋な子供心は深く傷ついたよ!
「とりあえず、僕達に気を遣わなくていいから」
 ブルーベルが不満そうにしていた。僕の手をとって、塞がれている耳を取ろうとする。僕はブルーベルの耳をがっしりと押さえつけた。こんな会話、絶対に聞かせるものか、と。
「ウォルドー、何も聞こえないよ。手、いい加減にはずしてよ」
「うん、うん! ごめんね、ブルーベル! ハンスを追い出したらはずしてあげるから、もうちょっとだけ我慢してね? いい子だから」
 ハンスが部屋へと何かを運んできた。
「お坊ちゃま! お坊ちゃまが内密に取り寄せた、異国の織物で作られたスケスケのネグリジェをお持ちしましたよ! 見えそうで見えないのがそそられるという、男心を擽らずにはいられない、究極のネグリジェ! これで是非ともお楽しみくださいませ!」
 僕は完全に混乱状態に陥った。
「うわあああああああああ! ブルーベル、見ちゃ駄目だ! 見ないで、見ないでっ、ブルーベル!」
 僕は勢い余ってブルーベルを押し倒してしまった。ハンスは両手で顔を押さえて今にも叫びそうな顔。
「ふふふ。ではでは、お坊ちゃま、ごゆっくりお楽しみください。ファイトですよ。あとは前進あるのみです」
 ハンスが部屋の扉をパタンと閉めた。ブルーベルは僕の体を強引に押しのける。
「もうっ、ウォルド、酷い! 急に転がすなんて!」
 ご機嫌が斜めすぎる程に斜めになったブルーベルがそこにいた。
「ごめんよ、ブルーベル。ちょっと眩暈がして」
「そ、そうなの? 大変。じゃあ、ベッドでお休みする?」
「ううん、そこまでではないから」
 ブルーベルはハンスが床に落としていったものへ着目していた。僕より機敏に動くと、床に落ちていたものを拾ってしまう。
「これ…何かしら」
 ぺらん、と生地が透けているネグリジェに、僕は体が震えてしまった。
「そ、そそそそそそ、それはね? それは、えっと」
「可愛いね、このシュミーズ。どうしたの?」
「ブルーベルにあげようと思って」
「え? いいの?」
「うん、いいんだ! 君の為に作らせたものだから」
 そしてそれはシュミーズじゃなくてネグリジェだけれど。
「有り難う、ウォルド。でも、本当に貰ってもいいの?」
「いいんだよ。受け取って。女の子用の服なんて、僕は着ることができないし」
 ブルーベルは、異国の珍しい織物で作られた服を気に入ったようだった。ネグリジェの予定だったけれど、シュミーズのほうがいいかもしれない。
 だって、僕がブルーベルの服を脱がせた時に見れるし。
 あ、いや、ブルーベルが虐待を受ければいいとか、そういう意味じゃないよ。
 ほら。
 お庭って、蚊がいっぱいいるから。
 蚊に刺されたら、薬を塗らないといけないからね。
 薬を塗らないといけないということは、服を脱がせなければいけないということで……。
 よし。
 毎日ブルーベルを庭へ連れて行こう。
 そうすれば、あの服を下着として身に着けているブルーベルの姿をいつか拝めるかもしれない。
 うふふふふふふふ。
 僕は顔がにやけてしまい、笑いが止まらなかった。





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