Secret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜 | ナノ













Secret Garden 〜黒狼侯爵の甘い罠〜







 僕はいつになく気持ちが昂揚していた。
 ブルーベルが泊りに来たからだ。
 僕の脳内では、ブルーベルとイチャイチャしたりツンツンしたりする、という計画ができあがっている。
 だというのに。
「じゃあ、おやすみなさい、ウォルド」
 ブルーベルは客室の扉をぱたん、と閉めてしまった。
 僕は廊下でぽつん、と立ち尽くす。
 え。
 何?
 おかしくない?
 なんで泊りに来たのに、別々の部屋で寝るの?
 普通は僕と一緒のベッドで寝るよね?
 この状況に僕は納得できなかった。
 もうとっくに日付が変わって、今日はクリスマスだ。
 なのに、どうして一緒にいられないのだろう?
 クリスマスって恋人同士のイベントじゃなかったっけ?
 恋人同士が何をしても許される日だよね?
 僕はそこまで考えてハッとした。
「あ…、ブルーベルとはまだ、友達以上恋人未満の関係だっけ」
 キスはしたけれど、関係は曖昧のままだ。
 いや、ブルーベルからすれば、僕はただの友達かもしれない。
 だって、ブルーベル、僕のことを意識してるって感じがしないし……。
 僕はがくん、と頭を前へ倒した。
 もう今日は寝よう。僕は自分の部屋へ戻ろうと方向転換をする。だがそれとほぼ同時に、客室の扉が開いた。中から顔を出したのはブルーベル。
「あ…、ウォルド」
「どうかしたの? ブルーベル」
 ブルーベルは部屋から出てくると、僕へ抱きついてきた。僕は体が硬直してしまう。
 もしかして。
 もしかして。
 もしかして、この展開はっ。
「心細くて眠れないの。一緒に寝てもいい?」
 これは、いわゆるお誘いというものではないのか。
 僕はムラムラしてしまう。
 あぁ、ブルーベル。君がそんなにも積極的だったなんて、僕は知らなかったよ!
 そうしてブルーベルを抱きしめたのだけれど。
 彼女は震えていた。
 僕はそこでようやく、冷静になる。彼女は、本当に心細いのだ。目じりに涙を浮かべてしまうほどに。
「うん、いいよ。一緒に寝よう」
「ウォルドの部屋で?」
「そうだね。僕の部屋のほうが、お互い慣れているものね。一緒に行こう」
 僕はブルーベルの肩を抱いて、部屋まで歩き出した。ブルーベルは嬉しそうにしている。
「ウォルドと一緒に寝るの、好き」
「僕もだよ」
 正直ちょっと拷問だ、と思ったのは伏せておく。大好きな女の子が隣にいるのに何もできないなんて、苦行だもの。
 そうして、僕の部屋へ到着した。ブルーベルを先にベッドへ寝かせて、僕も隣に寝転ぶ。そして、二人で一枚の毛布を体にかける。
「ウォルド、くっついてもいい?」
「いいよ」
 ブルーベルが僕の体に密着してきた。それだけで、僕の心臓は壊れてしまいそうなほどにドキドキしてしまう。
「えへへ。ウォルドと一緒に寝ると、あったかい」
 もういっそのこと、本気で襲ってやろうか、って思えるほどに穢れのない笑みを浮かべているブルーベル。
 でも、僕は知っている。
 彼女がこんな笑みを浮かべてくれるのは、僕が酷いことをしないと信じてくれているからだと。
 だから、その期待に僕も応えなくてはならない。
「僕も、ブルーベルと一緒に寝ているとあったかいよ」
 今宵僕は聖人になる。
 全ての性欲を封印するんだ。
 心の内に巣食う悪魔よ、立ち去れ!
「ウォルドの手、貸して」
「え?」
 ブルーベルは僕の方へ体を横に向けると、僕の左手を胸の前で抱きしめた。
「おやすみ、ウォルド」
「う、うん、おやすみ」
 僕は声がひっくり返ってしまった。
 おっぱいが。
 ブルーベルのおっぱいが。
 当たってる!
 小さいけど…。
 なんだか、僕の胸とあんまり変わらないような気がして、感動が薄い。
 そこで、僕は少し前にブルーベルに頭突きをくらったことを思い出してしまった。
 同時に、ブルーベルの恐ろしい笑顔も思い出してしまう。
 あの後、巨大な木のスプーンを持つブルーベルの夢を見て魘されたのだ。
 人の体など簡単に潰せそうなほどに、巨大なスプーン。
僕はひたすらごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいと謝り続けた。
 ブルーベルに木のスプーンで潰されたくなくて。
 僕は改めてブルーベルの胸に目を向けて、この小ささがいいんだと自分に言い聞かせるように三度頷いた。
 ブルーベルの小さな胸。まだ、実をつけたばかりの青い果実。
 そう考えればこの小さな胸もなかなか……。
「……」
 立ち去れと命じた悪魔が、僕の心の中へと戻ってきてしまった。
 僕はブルーベルの控えめなおっぱいに向かって、大きくなーれ、大きくなーれ、と軽く揉んでおく。
「…ブルーベル」
 目の前にはブルーベルの顔がある。少し顔を寄せればキスができる距離。
 僕はブルーベルの方へ体を横に向けると、顔を寄せた。
 彼女の唇へ、キスがしたくて。
 僕はもう、彼女の唇がどれだけ柔らかいのかを知っている。
 とても甘くて、優しくて。
 僕の気持ちを掴んで離さない。
 でも、そこで思い出してしまった。
『ウォルドが健康になりますように、ウォルドが健康になりますように、ウォルドが健康になりますように』
 流れ星に向かって、何度も僕の為に祈りを捧げてくれた彼女。自分の為ではなく、こんな僕の為に願ってくれたのだ。
 なんて、愛しい。
 僕はブルーベルの髪の毛を一房手に取ると、毛先へ口づけをそっと落とした。
「ブルーベル。君が、大好きだよ」
 彼女は眠っている。流れ星を見る為に夜更かしをして、疲れていたのだろう。
 僕はもう少しだけ、ブルーベルの寝顔を見ていることにした。
「夫婦になったら、ブルーベルと毎日一緒に眠ることができるのに…」
 もしもブルーベルがお嫁さんになったら、彼女に毎日キスをして、毎日愛を囁いて、毎日笑わせてあげるんだ。
 彼女を泣かせたりしない。
 彼女を守ってあげるんだ。
 僕は、今も継母から体罰を受けているブルーベルを思って、辛くなってしまった。一番辛いのは彼女だというのに。
「う…ん…」
 ブルーベルの体が動いた。僕の体へとより一層近づいてきて、僕に抱き着いてくる。
「ブルーベル?」
 寝ていると見せかけて、実は起きているのだろうか。
 僕はブルーベルの様子を観察した。だが彼女は眠っている。
「すー、すー」
 寝息まで天使だった。
 ちょっと、腹が立ってしまう。僕はこんなにも君を意識して、君に触りたいのを我慢しているのに。
 どうして君は、僕を抱きしめているの。
 しかも、凄く心地よさそうに寝ているし。
 酷いよ、あんまりだよ。
「はぁ…」
 僕は、今夜は眠れないのを覚悟した。



【さーて、次回のシークレットガーデンSSは?】

紳士淑女の皆様、お疲れ様でございました。
今週も次回予告を任された、執事のハンスです。
どうぞよろしくお願い致します。
さてさて、今週のお坊ちゃまですが。
いくらお二人ともまだ幼いといっても、未婚の男女が一緒の寝台で夜を明かすだなんて。
お坊ちゃま、ハンスは、ハンスはとても悲しゅうございます。
涙が出てきて止まりません。
一体いつからお坊ちゃまはそのような破廉恥になってしまわれたのですか。
朝に起こしに行った際、二人が一緒の寝台にいるのを見て、私は眩暈を起こしてしまいましたよ。


【シークレットガーデン SS11 次回予告】

ウォルドは枯れていた。
人間としても、男としても。
彼に残されている時間は、もうあまりない。
そう。
彼がこうなってしまったのは、ブルーベルが風邪をひいてから。
ブルーベルと会えないウォルドは、その恋しさから徐々に人ならざるモノへと変化しつつあったのだ。
全身にキノコと苔を生やした、おぞましい怪人に。
そうとは知らず、ブルーベルがウォルドの元へと訪れる。
「アァ、ぶるゥーベるゥゥゥウウうッ、アイたかッたヨォォオオッ!」
既に人ではなくなってしまったウォルドが、ブルーベルへと襲い掛かる。
次回、シークレットガーデンSS11
「ウォルド、ブルーベルに木のスプーンで潰される」
来週も読んでね!



次回予告とは全く関係のないここだけのお話なのですが。
ブルーベルお嬢様と一緒に寝られたお坊ちゃまは、左手が筋肉痛になったのです。
お坊ちゃまいわく、サンタクロースが部屋へ入ってくるのを待っていた、と仰っていたのですが。
それと筋肉痛と一体どう関係があるのでしょうか。
お坊ちゃまの目の下にクマができていたので、朝方まで起きていたことは事実だと思うのですが。
そういえば…。
ブルーベルお嬢様が泊まりにきて以来、お坊ちゃまは時折自分の左手を見て薄気味悪い笑みを浮かべるのです。
とくに侍女達がとても怖がっていて、悪魔に取りつかれたのではないかと噂になっております。
旦那様に相談をして、教会の神父様をお呼びしたほうがいいのでしょうか。
困りました。







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