「ましまし」
もしもし。なんてヒトモシの鳴き声によく似たような人の口癖を二度連続で使ってみる。なんか可愛いな、なんて思ってませんからね。
「ナマエ様…」
私の頭より幾分か高いノボリさんの顔を見るといつも無表情だけどなんだか顔に影があるような気がした。
「あ、ノボリさんこんばんは」
「こんばんはナマエ様。夜のライモンをお一人でいるのはいかがなるものかと」
「1人じゃないです!ちゃんとノボリさんのシャンデラがいます!」
「知っております!少し焦りましたが犯人がナマエ様だと思っておりました」
「えー、人を犯人扱いするだなんて」
「…実はクダリから聞きました」
「やっぱりクダリ君か」
ノボリさんにため息をつかれてちょっと拗ね気味だったわたしだったけど、もなくシャンデラの可愛い鳴き声をあげながらわたしの腕の中で暴れる。ちょ、ここホーム!
「おお、お、」
シャンデラはするりとわたしの腕のなかから抜け出してノボリさんのほうに飛んでいくけど、わたしはホームまっしぐら。これ以上入ってはいけないという警告の白いラインを踏んだときに、右腕を捕まれて元の位置に戻る
「バカですか!ちゃんと足元を確認してくださいと何度も!」
ばくばく、と心臓がなってるときにノボリさんらしからぬ声で怒られたのを聞くけど見事に何も入ってこない。さすがにホームに落ちたとしても電車はもう走らないだろうから跳ねられないだろうし、死にはしないと思うけど、受け身はできないからきっと怪我は免れなかっただろう。
「、あ、すみません。わたくしのシャンデラのせいでしたね。大丈夫ですか?」
ぎゅう、とノボリさんに抱き締められる。空色のネクタイがわたしの視界を埋める。
「ごめんなさい、ありがとうございました」
シャンデラの反省を表す声を聞いていいよ、怒ってないよと伝えるとまた可愛らしく鳴いた。わたしもヒトモシ捕まえてシャンデラにしようかなぁ。
「心配しました。気を付けてくださいまし。シャンデラもですよ」
「はぁい」
「では、行きますか」
白い手袋を外して素肌のノボリさんの手がわたしの手を包んだ。そのまま、自宅のある夜のライモンへと共に帰る。
きっとクダリ君が怒っているだろうから早く、帰らないと。
ホームに足掛け
(ノボリもナマエも遅いよ!)(ごめんね)(僕だけでご飯食べちゃうとこだった!)(やめてくださいまし)