ふわり、ver:柳




ぱらり、また図書館に響き渡る紙がすれる音。それが心地よく、なによりも自分が求めている平凡の音だからだ。

休み時間。部活のミーティングや執行部がない限り、俺はこの図書館に訪れては本を読む。
純文学は勿論、最近流行りの文庫本や小説、あらゆる分野の本を読むことは、やはり俺にとっての休息の時間である。
きっと赤也にとってこの行動は部活をやっている時と同じくらいの動力を使うのだろう。

ガラガラ、と音を立てて開くドア。誰が入ってきたか、それは俺のデータからして予測することは容易い。そしてそれが誰だとわかっているから、胸が高鳴る

「柳くん、こんにちは」
「ああ、こんにちは」

彼女自身もこの静かな部屋を好み、そして今彼女はこの部屋の管理者つまり図書委員だ。

彼女は挨拶をするといつもふわり、と笑う。それが俺の鼓動を激しくする。
初めて挨拶されたときは息ができなくなったものだ。(開眼、もした)


「今日はここの本でいいの?」
「いつもすまないな」


習慣とは怖いもので、俺は借りる本を自分の右側に積み上げる。
それを彼女は出会いの当初から気付いたのか「こんなに借りるんですか、」と驚いたように言ったことを今でも覚えている。その光景が今でも思い出されるのはきっと俺が彼女を意識しているからだろう。


「いつもありがとう」
また、ふわり、俺に微笑んだ。

頬を染めて笑うから、その笑顔が俺にだけ向けられていると思うから、自惚れてしまう。我ながら虚しいと思う。


「どうした、」
「だって、柳くんがいなきゃこの仕事面白くないな、って思っちゃったんだもん」
トクトクと鼓動は速いままで、このままだと自分が自分ではない気がして、名字の頭にぽん、と手を置く
「…ふっ、可愛いことをそう言ってくれるな」


自分の精一杯の照れ隠し、なのだと思う。名字の頭を撫でてやると幸せそうにまた笑うから、俺は今日も予鈴を恨むのだろう。


ふわり、


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