星たちが眠っている間に
※社会人設定
「すき、だ」
真田がおかしい。
今は夜中の3時、ダボダボのトレーナーとズボン。仕事中につけているコンタクトのケアを終えて眼鏡をかけて明日、、というより今日はオフなのでゆっくりしようと目覚ましを消して寝ようとしたときにチャイムが鳴ったのだ。
チェーンと鍵を開けて、はい、と返事をするとトスッと肩に衝撃と重み。不意打ちだったので少しふらりとすると当の本人が私を抱き締めることによって倒れることは免れた。
そして冒頭に戻る。
「さな、だ?」
「ごめんね、名前ちゃん」
「幸村?柳も…?」
ふふ、と少し楽しそうに中高で仲がよかった幸村とその隣で苦笑をしている柳が目に入る。3人とも夜中なのに少し顔が赤い。ま、まさか…
「お酒…」
「いやー、まさか真田が赤也と飲み競べなんてするとは思わなかったからさ、、ごめん」
「俺は少し席を外していてな、すまない」
中高時代の3強ともあろう人の2人に謝れるとどうも抵抗できない。
問題はそんなことより私を抱き締めて離さない、真田だ
「名前…すきだ」
いつもは私のことを名前で呼ばないし、甘いセリフなんてものも言わない。
いつも以上に近い距離と熱い体温にドキドキする。
これ以上はだめだ。恥ずかしい。
「真田、家に帰らないと、ね?今日も仕事なんでしょう?」
「む…何をいっている、俺はお前から離れることはない、ぞ」
だめだ。話が通じない。
…さっきのセリフが嬉しかったのは言ってやらない。
「それなら大丈夫だ、今日俺達は休みを貰っているからな」
「真田は渋々了承したけど心では嬉しかったんじゃないかな」
「…で、私はどうすればいいの?」
にっこり、ぞくりとするような嫌な笑顔を2人が浮かべるから嫌な予感はしたんだ。
「苦労をかける」
「すまないな、俺達はもう一軒行くことになっている」
「え、まさか、」
「名前には苦労をかけるが、久しぶりに真田に会えたんだ嬉しく思ってよね」
「いやいや、幸村さん、そんな、ご冗談を」
「精市が言ったことが冗談の確率0%だ。」
「ば、ばかぁー!」
近所迷惑だぞ、ってあんたたちのせいでしょうが!
スタスタとエレベーターに向かう彼等がじゃあね、と言い残して行く。…彼等の意図がわからぬまま今もなお、私に抱きついている彼氏をどうすればいいか考える。
とりあえずもう3月とはいえ、夜中は冷える。家に入れるしかない、
「真田?中入れる?」
「むろんだ」
フラフラしながら私の部屋に入り私はチェーンと鍵を閉める。マンションの私にはこれが一番の防犯であり彼がこれをしないと激怒するのだ。癖が彼に染まっているといいのは少し気恥ずかしい。
部屋を把握している彼は私のベッドに腰掛けていた。今にも寝そうに目をしょぼしょぼさせている。
「水は、いる?」
「いただく」
辿々しく威厳がない彼のセリフには少し違和感を感じる。だけど、それが私だけが知っている彼だと思うと顔が緩んでしかたない。
一般家庭より少し小さい冷蔵庫からミネラルウォーターをとりだしてコップに入れる。
「はい。飲める?」
「うむ、」
コクコクと水を流し込みコップをシンクに入れようと立とうとする、こういう気遣いは今はいらないのに…と微笑ましくなる。
「いいよ、コップ貸して」
「む、しかし、」
「いいから、」
酔うと彼は素直になる。好きだ、なんていつもは言ってくれないのに何度も何度も言うし、スキンシップが激しくなる。そして何より嬉しいのはふにゃりと柔らかい笑みを浮かべてくれるのだ。
「ありがとう」
ほら、無防備に笑う。
これが好きでお酒はダメなんて言わない。自制はして、とは言うけど。だって頻繁にされたんじゃ私が持たないもの。
「いいよ。眠いの?」
「、すまん」
「寝てもいいけどスーツしわになるからこれに着替えて」
差し出したのは彼が酔うと基本的に私の家に連れてくる幸村が真田の家からもってきたスエット。テニスをしていたからかラフな服がすぐに見つかったのは幸いだったようだ。
ゆっくりとスーツを脱いでいく。ずっと見ているのもなんだったからさっきのコップを洗いにいく。
帰ってくる時にはもう着替えが終わっているだろう。
「終わった?」
「う、む」
脱いだスーツをハンガーにかけて私のスーツの隣に引っかける。こうやって並べると彼の大きさを実感する。
「真田はベッドで寝なよ。私ソファーで寝るから」
「それはだめだ」
「わっ、ちょ、」
ソファーに足を向けた瞬間腕を捕まれて引っ張られる。もちろんそれのせいで真田の膝にダイブしてしまう。
「ご、ごめん、重いから離して、ね?」
「共に寝るのだ」
「は?え、待って、さな、」
ゴロンと一緒にシングルのベッドに転がると同時にぎゅうぎゅうと力を込めて抱き締める。
「おやすみ、名前」
ふわり、と少し笑うとすうと寝息が聞こえる
「え、さ、真田!?」
腕を振りほどこうとするけど真田の力に勝てるはずなんてない。しかたなく膝にある薄めの布団をかけてやる。
「好きだよ、弦一郎」
もう3時半。さすがに眠さもピークに達する。明日この状況を見た彼の反応が楽しみだな、と思いながら目を閉じた。
星たちが眠っている間に
(ん、…な、な、)(すーすー)(…すまない、な)(ん、う、)(……愛している)
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