教科書、忘れてくれてありがとう



「…ない」

ない、ない、ない。
宿題明日までやのに、それに必要な教科書が、ない


「何がやねん」
「ないねん、教科書」
「教科書ぉ?」
「おん。宿題にいんねん」
「とりに行けや」

わざわざ学校から帰ってきたのにまた制服着て学校にとりにいくなんて面倒。

「兄ちゃーん!兄ちゃんの教科書貸してーや!」

兄ちゃんも四天宝寺やったから同じ教科書を使ってるはずやから持ってると思った、んやけど。

「名前、何年前の話やねん。オレはもう高校生やで?捨てたに決まっとるやろ」
「やくたたず!」


何ぬかしとんじゃボケ!なんて兄ちゃんが言ってたような気がするけど気にせえへん。
普通は中学生の時の教科書ぐらい残っとるやろ!私なんか小学1年生の教科書から残っとるわ!


しかたなく少し薄暗くなった通学路を今日二度目になるワンピース型の制服を着て通る。
学校に近くなったところで運動部がまだ活動をしているんやろう声が聞こえてくる。私が入ってる運動部はサブだから文化部のみの参加だから帰るのが早い。

運動部をメインにしんくてよかったと思う。そんなことを言うと運動部には失礼かもしれへんけど。

下駄箱から上履きをとって履き替える、この行為が面倒だと考えるのは私だけやろうかと上履きを履いた後にふと思った。


「ちわっす、おら名前」

誰もいないと確信していた。ガラリと音をたてて開いた扉の先にはミルクティー色の髪の持ち主、授業やらなんやらの隣の席である白石くんがぽかんと口を開けてこちらを見ていた。

なんて羞恥だ。ひそかに憧れてたのに、こんな昭和と中2病ただようセリフを日常で使っているかのようにスラッと口にしてしまった。いや、言ってへんで?こんなん日常ではまったく使わんねんけどな?その、な?わかってくれるやろ?


「ぷっ」
「わ、笑わんといてよ!誰もおらんと思って…!」


うあ、もう、めっちゃ体暑い。いや、もう顔を通り越して体全体が暑い。ほんまありえへん。会えたのは嬉しいけどさ、うあー!


「名前ちゃん」
「ぅあ!は、はい!」
「ぷっ」


ケラケラと再び笑い出す白石くん。あああ、私のあほ!


「そんなへこまんといてや、ほんまおもろいな」
「おもろないわ、めっちゃハズイ」
「おれも返せばよかったな。おっす、おら蔵ノ介!っくく」


自分で言って自分でウケとる。蔵ノ介って長いわ。とか言って笑っとる。


「ふふっ」
「お、笑ったな?」
「ん?」
「これでお互いさん、な?」

ととのった顔の筋肉を緩めて笑う白石くんはなんかカッコいいというより可愛かった。なんか、モテるのわかるわ。


「おん。」
「ん、で、名前さんは何かこの教室に用でもあんねんやろ?」
「あ、そうそう、教科書。ありがとー、さっきまで忘れとったわ」
「いえいえー」


白石くんが立っている場所が白石くんの席のところだったからそこまでいく。
隣の席から目当ての教科書をとる。


「ん?これ、白石くんの?」
「え?うわ、ごめん。おれの」
「どーぞ」
「おおきに。ほんま謙也やめてほしいわ」
「謙也くん?」
「あ、いや、なんでもないねん。うん、気にせんといて」


渡してから後悔しても意味ないやろうけど…めっちゃ気になる…!


「あ、せや名前ちゃん一緒に帰らへん?もう外暗くなってきたし送るわ」
「え、うそ、ホンマや。でも白石くん部活…」
「よぉ見て、制服やろ」
「終わってたん?」
「おん。おれもちょっと忘れもんあったから取りにきてん」
「そうなん?あ、でも疲れてるやろうし送らんでも…」
「…やっぱあかん。大阪は治安悪いからな、いつ襲われるかわからんし、しかも名前ちゃんは女の子や。送る」
「あ、え、じゃあ、お願いしま、す」
「おん」



白石くんは心配性や、私なんか襲われるはずないのに。

たわいもない話や先生の愚痴を言ったり部活はどうだとかを教室から下駄箱、下駄箱から校門まで話を続けた。

そして私は思った


「そういや白石くん家どっち方面なん?私はそこ左なんやけど」
「一緒やでー。意外と近かったと思うんやけど」
「え、うそ!?うちん家知ってんの?」
「おん。名前ちゃんの兄さんおれの先輩やし」
「え?兄さんテニス部ちゃうで?」
「ちゃうちゃう、文化部のほう。新聞部の部長してはったやろ?」


あ、そうだ。
兄さん新聞部の打ち上げとかでよくうちに人呼んでたわ。


「そっか、よかったわ。遠いのにわざわざ送って貰うなんて申し訳ないからなー」
「あほ、遠くても送るわ」
「っ」

少し低い声で私をじっと見て白石くんは言った。
思わずドキッとした。


教科書、忘れてくれてありがとう
(白石くんとの距離が縮まった気がする)(なんか言うた?)(なんも言うてない!)
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