僕はある人を探している。かつて英雄と呼ばれた女性だ。といっても彼女は僕の幼なじみだが。
ジムリーダーになってからもずっと暇を見つけては彼女の情報を集めている。
今日もきっと手がかり無しで1日が終わるだろう。このまま、ある時は先生として、またはジムリーダーとしてジムに来る挑戦者とバトルする日々が続くのだろうか。
「おーい!ちぇーれーんー!!」
ジムの扉が大きく開かれ遠慮もなしに入ってくる。まだ準備中だというのに。
このどこか間の抜けた声を僕は知っている。
「大変だよお!早く来て来て〜!」
「ベル、朝からなんの用かな?研究用のポケモンを貸して欲しいのなら事前にライブキャスターで連絡を―」
「今すぐ研究所に来て欲しいの!!」
ベルの性格は幼い頃からの付き合いでわかっているつもりだが、せめて用件を言って欲しいと言いかけた時
「トウコがイッシュに帰って来たの!」
急いで身支度を整えジムの扉に[本日、臨時休業]の札を吊るし外に飛び出した。
こども達には悪いが僕だっていつも真面目に仕事をしているのだ。
1日ぐらい休んだって文句は言われないだろう。
久しぶりに感じた故郷の風。彼女に会ったらたくさん文句を言ってやろう。
僕はこの2年間でジムリーダーになることができた。これはトウコの影響が大きい。僕は彼女の強さに追いつこうと頑張ってきた。彼女は長い旅の間に何を得ることができたのだろうか。
ベルのように旅した頃と比べ大人びた姿になっているのだろうか。
「トウコったらね!すっごい美人になってるんだよお!」
「なっ!!ゲホッゲホッ」
「ちょっとチェレンどうしたの?」
「い、いや何でもないよ」
「顔まっかにしちゃってえvダルマッカみたい(ニヤニヤ)」
「うるさい!!」
そんな事言い合ってる間に研究所の前まできてしまった。
「じゃあドア開けるね」
扉が開かれる。そこにいたのは彼女だ。トウコだ。間違いない。
いつもの両手を腰にあてたポーズで僕たちの事を見た。
彼女は口を開いて
『よっチェレン!中二病は治ったか?』
「...開口一番言うことじゃないよねソレ」
「これって{感動の再会}って言うんだよねえ!イイハナシダナー」
ベルが両手で口元を押さえて頷いている。
「これが感動の再会と言えるんだったら眼科と耳鼻科にいったほうがいいよ?」
「まったく!僕たちがどれだけ心配したと思って―」
「ねぇトウコ!どうして他の地方に行ってたの?」
「ちょっとベル!まだ僕の話が、」
僕が言い終わる前にトウコが口を開いた。
『ちょっと腕試ししたくてねー。私はこのイッシュ地方に収まっていられる程小さい女じゃないの!!』
「やだ...かっこいい...!!」
『他の地方のトレーナーも大したこと無いわね!』
『あっという間に戦闘不能にしてやったわ!!あとバトルフロンティアってのがあってさ―』
「きゃー!トウコすごーい!握手してえ〜!!」
ベルは昔から彼女の話にすぐ乗っかる。まったくメンドーだな
「トウコ!何でライブキャスターの電源を切ってたんだよ!それに食事はちゃんと毎日食べていたのかい?道具は余裕を持って持ち歩いていたの?君はよく無茶するし女の子なんだから怪我でもしたら大変じゃないか!あと...」
『おめーは私のカーチャンか!!?』
「そーやって話を逸らして!まったくメンドーだな!!」
『何よ!チェレンのくせに私に文句言うなんて100万光年早いわ!このデコメガネ!!』
「メガネは外してコンタクトに変えたよ。それに光年は時間じゃなくて距離だ。そもそも光年というのは光が一年間に進む距離、すなわち約9兆4600億キロメートルのことで云々」
『キャー!チェレンのちょうおんぱ攻撃だわ!!』
僕たちのいる空間はまるであの頃にタイムスリップしたように感じた。
トウコは再びベルに自分の武勇伝を話している。
目を輝かせてトウコの話を聞くベル。自信満々の顔で振舞うトウコ。それをメンドーだと言いながら付き合ってあげる僕。自然と頬も緩んだ。自分がずっと探していた夢の光景が目の前にある。
でも、僕は知っているんだ。
彼女がイッシュを出て行った本当の理由を。
アイツ...Nだ。Nを探すために彼女は僕たちを置いていった。
それは彼女が選んだこと。あの時の僕たちに彼女を止める権利はなかった。
その事を突きつけられた瞬間、僕は現実に戻されはっと我に返る。
僕たちは幼なじみ。それはあの頃と変わらない。
でもあの頃と比べトウコと僕たちの距離が遠くなっていたような気がしたんだ。
追記。ホントはBW2が発売された頃に書きたかったものですが受験シーズン真っ只中だったので...我が家のトウコちゃんは男前(?)です