top


※裏ではないけど下ネタ連発
※夢主がサキュバスという特殊な設定
※××××には多種多様な効果音を入れてお楽しみください



「風邪ぢゃね?」

こけた金髪、盛りに盛ったメイク、ドンキとかで売ってそうな白衣。私らからすると「そういうプレイっすか?」みたいな格好に、酒焼けしたような掠れ声。
マジでありえねーだろと思うんだけど、これが天界の、いわゆる医者。

「え……いや、サキュバスって風邪引くんですか?」
「だってあんたらのボディって素体人間ぢゃん? ありうるっしょ〜」
「まあそーですけど、中身の臓器とかただのアクセサリーみたいなもんですよ。わかってますよね? 真面目に診断してくれません?」
「ダイジョーブだって、サキュバスなんて精子食ってりゃ何も要らないんだし」
「その精子食う食欲が最近無いって話なんですけど」
「そのうち治るっしょ」

医者ってなんのために存在してるんだっけ。
ふざけんなと掴みかかってやりたいところだけど、こんなんでも私らサキュバスよりもずっとずっとずーっと高位な悪魔様なので、口答えできないのだ。
お前らが使ってる薬は私達が調達してやってるんですけど〜。

「ぢゃそーゆーことでよろみ。はい次、エリザベス田中さ〜ん」

クソオブクソ。時間の無駄だった。
と思いながらも、私はいいとこのエリートなので、一応行儀よく「あざした」とだけ言って、その場をあとにする。

はーあ。
真夜中までなにしよ。三国志も純太の部屋のスポーツ漫画も読み終わっちゃったしな。

天界から人間界に降りてきた私は、最近のお気に入りの場所である東京タワーの天辺の辺りに腰を掛けて、青色のため息。

人間ってさ。なんつーか、不思議だよね。ぼんやりと風景を見下ろしながらそう思う。
単体では無力でちっぽけで愚かでくだらない生き物。空も飛べない。なのに寄り集まるとこーんな高い塔だって建てちゃうし、目の前に広がる東京の街並みだってなかなか壮観だ。あれのどこにそんな力があるんだか。

って、そんなことを考えるようになったのも割と最近。前までは人間なんてどーしよーもない有象無象だってずっと見下してたのにな。もしかしてこれって、……いやいやまさかね。
ふと思い浮かんだワカメを頭を振って追い出す。藻は海へ帰りなさい。

(あーーーーーーーつまんな……)

天界フォンを取り出して、親指を気怠くスクロールさせながら、同期のSNSの猫の動画なんかに星を付けてみるけど、退屈な気持ちは晴れない。
……今日は純太のとこ行けないから、作戦を練る必要も無いし。

『──そういえば、明日から合宿なんだ』

だから明日から3日間、この部屋空けるから。
二日前の晩、純太はそう言って、「名前さんと会えないのは寂しいけど」とからりと笑った。

合宿について純太から聞いたのを要約すると、「学校フケてイカしたメンバーと夜までチャリ漕ぎ倒すぜウェ〜イ☆」って感じ。
雑魚寝らしいし、さすがに他のメンバーがいるところじゃ×××はできないし。(私は別にいいんだけど、純太はアウトだろうし。)そもそもその宿の場所、私の管轄外だし。だから夜中に行くつもりとか、これっぽっちも無いんだけどさ。
つか、お泊まりとか、なんかやらしーよね。それも4日間とか、いかがわしいイベント発生しまくりでしょ。女の子がいるのか知らないけど。

…………。
…………見に行っちゃおっかな。することなくて、退屈だし。

どうやらこの合宿で純太がインターハイに出れるかが決まるらしいし。(っつかむしろ今まで決まってなかったのかよ! って感じだけど。)
別に、結果が気になるとかじゃない。でも………あいつが自転車に乗ってるとこって見たことないし、見たらもしかしたら、×××に繋がるヒントがあるかもしれないし。そう、これは情報収集。エリートだからね、私。

そうと決まれば、そのお泊まり施設にレッツゴーだ。天界フォンのアプリのGo〇gleEarthを開いて、そこに手嶋純太の名前を打ち込む。ヒットしたのは……シズオカケン、イズ。

ばさりと黒い艶やかな羽を広げて、私は東京タワーから飛び降りた。とりあえず、遥か先にうっすらと見えるフジヤマをロックオン。300kmぐらいあるっぽいけど、自慢の羽ならひとっ飛びだ。





と思ったんだけど、なんか電波繋がりにくくて来るの手間取っちゃった。シズオカ入った辺から見渡す限り山! って感じだったしな〜、そりゃwi-fiも萎えるよね。
そうこうしているうちにもうすっかり夜だ。今私がいる場所、天界フォンが指し示すには、「サイクルスポーツセンター」っていうらしい。
着いたはいいけど、純太の正確な位置までは特定できないので、とりあえず人を探すことにする。高いところから施設全体を見下ろせば……お、あそこに何人か固まってるぞ。

「──……”最後の…勝負”すか!?」
「さ、最後って……」
「…おそらく、純太がまだ決めてないって言った”最後の1枚”ここで決めるつもりだ。どちらがインハイに出るのか」

……ん!?
純太のチームメイトってこやつらか、さて×××査定してやろうか、ムフフ……と思ったら、そんな会話をキャッチしてしまって、私は狼狽える。
ちょっとちょっと、何の気なしに訪れたらいきなりそんな大事な局面に出くわすとか、ビビるんですけど。
ていうか、ロードレースってみんなこんなにピッチピチの衣装着て走るの……? えっち過ぎない? これ、”””アリ”””だな、今度純太を誘惑する時使わせてもらおーっと。

「ラストラインが見えた!!」

と、その声でハッとする。みんなの視線を追ってみれば、暗がりの向こうに小さな灯りが二つ。

「純太!!」

金髪の男子高校生が大きな声で叫んだ。え、純太? あれ純太なの?
その場から離れて、低空飛行でその灯りの方へ飛んでいけば、次第にはっきりしてくる人影。と同時に、息を呑むような緊迫感が私に押し寄せた。思わず固まってしまう私を、まずメガネをかけた大柄の男の子がすごいスピードですり抜けていって、その後、見慣れたワカメ頭が食らいつくようにそれに続いた。じゅんた、と名前を呟きかけるよりも速く、熱気をまとった青年は私を過ぎ去って、静寂と共に、ぽつんと一人路上に残された。

(……え……)

あれ、手が、震えてる。
なんで………

「──って、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

呆然としていた。慌てて身を翻し、羽をはためかせて彼らの後を追う。一瞬止まっていただけなのに、もうかなりの距離を引き離されてしまっていて、嘘でしょって思った。こんなに速い乗り物なんだ、ロードバイクって。
少し浮上して、羽を全速力で動かして、余裕を持って彼らを追い越したあと、体の向きを反転させる。
後ろ向きに全力で飛ぶとか、街中でやったら他の悪魔や天使と事故不可避って感じだけど、まあここだったらいいよね。

先程まであった、メガネの男の子と純太との差は、ほとんど無くなっていた。腰を浮かして、歯を食いしばって、純太は懸命に足を踏み込んでいる。ヘラヘラ笑ってるいつものアイツとは思えないほど、必死の形相で。
もの凄い勢いでこちらに迫ってくる2人を取り巻く空気は、今まで体感したことのないような生命のエネルギーが火花を散らしているようで、ごくりと息を飲み込む。ピリピリと背中が総毛立つような緊張感。
あれ、人間って、こんな生き物だっけ?

(……ん?)

その時、私は気がついた。

(この勝負、メガネくんが勝てば純太はインターハイ出れないんだから、イコール私と××××してくれるってことじゃない?)

そーだ、そうじゃん。
部長なのにインターハイに出れなくてしょぼくれてる純太、普段よりガード甘そうだし。よしよし頑張ったね♥って、慰めックスワンチャンあるよね。
となれば、純太には悪いけど、私はこのメガネくんを応援させて頂こう。
つっても生まれてこの方応援なんてしたことないから、どうすりゃいいのかよく分かんないんだけど。

「頑張れ♥頑張れ♥」

とりあえず口を開いてみたけど、違う、これはなんか違う気がするな。
でもたまにエッチの最中にこれやってって言われるんだけど、なんか人間界で流行ってるの?
っていうか……メガネくん、いい体格してんなと思ったら、×××もいいもの持ってるじゃない。ヨダレ出ちゃう。じゅるり。

「──古賀さんが立ったァァ!!」

…え!? 勃った!?
ってそっちの勃ったじゃないか。つかこの子コガさんって言うのね。

なんて、呑気に思ったその時だった。

「古賀さんの轟音ダンシング!!」

それまでとは空気の流れが変わった。
ゴオオという音と共に、コガさんのシルエットが大きくなって、あっという間に純太を抜き去ってしまった。
え、と声が漏れる。「純太ァ!」と誰かが叫ぶ悲痛な声が、鼓膜に突き刺さった。

(……あれ? なんだ、これ)

ドクンドクンと、紛い物の心臓が大きく音を立てて、何かを私に告げている。
視界が揺れて、なぜかその刹那、自転車やチームメイトのことを語る純太の顔が、脳裏に蘇った。
純太はいつも、辛そうで、キツそうで、楽しそうで、楽しそうで、でもやっぱり苦しそうで。年頃の男の子が浮かべるには複雑すぎる笑顔を浮かべていた。なにがこいつをそこまでさせるんだと、常々不思議だった。

──お腹の底に、じわりと熱いものが漲る。
そして、気が付いた時には、それは私の口から転がり出ていた。


「っ、純太ぁっ!! なに負けそうになってんのよバカ!!」


コガさんを応援してることなんて忘れて、私は思い切りそう叫んでいた。慣れない行為に喉がびっくりして、声が思い切り裏返ってしまった。

こんなの、私の柄じゃない、エリートのすることじゃないって、頭では分かってるんだけど。

──じゃあ、頭じゃないなら、一体この声はどこから出てるんだろう。私の身体のどこが、こんなにどうしようもなく熱くなって、ねじ切れそうな苦しさを訴えているのだろう。


「インターハイ出るんだろ!! あんなに頑張ってたじゃんか!! 早く抜き返しなさいよっ!!」


大体、聞こえるわけない。
こんな風に力一杯叫んだって、聞こえるわけがないのに。

本当、わけわかんないな。
純太の部屋で、スポーツ漫画読み過ぎたのかもしれないな。


「うああ」


風に乗って、純太の咆哮が聞こえた。それは悲鳴のようにも聞こえたし、断末魔のようにも聞こえた。
なんでそんなに頑張るの、頑張れるの、って思ってた。今でも思う。でもきっと、その答えはここにあるんだ。悪魔なのに、生きてないのに燃えるような命の息吹を錯覚してしまうような、危ないまでの狂騒がキラキラしたこの一瞬。


「「純太、勝て!!」」


誰かの声と、重なったような気がした。

そしてその次の瞬間、ワッと歓声が上がった。競っていた二人が足を止めている。状況が掴めなかったけど、ぐちゃぐちゃにもつれる歓声の中から、なんとかその名前を捉えると、羽から力が抜けた。純太、勝ったんだ……。

(……よかった……)

ふらつきながら浮上して、健闘を讃え合っている二人に背を向ける。
もう勝負はついたというのに、名残りのように心臓がうるさくて、ダミーのくせにまるで生きてるように存在感を主張してるから、なんかウケた。

その日は何故かお腹が空かなくて、初めて誰のところにも行かない夜を過ごした。





「──ってワケで、インターハイ出場、決まりました」
「フーン」
「……それだけ?」
「他になにがあんのよ」
「いや、おめでとう、とかさ」
「なに? 純太褒められたいわけ? はぁいそんなあなたにオススメなのが、『よしよしエッチby縦セーター巨乳バブみお姉さんパック』! よく頑張りまちたね純太くん、ご褒美におねえさんのおっぱい好きなだけ吸っていいよ〜♥」

営業用のスマイルを浮かべて、「今なら特典として耳かきのサービスが付きます♥」と付け足せば、ベッドの上で壁にもたれかかった純太が「あーはい、もういいっす」と白けた声を出してうんざりと笑う。知ってた、そういう反応されるの。

「私に褒められたくて走ったわけじゃないでしょーが。報告を聞いてやってるだけありがたいと思いなさいな」

私はべつに、純太がインターハイに出ようが出まいがどうだっていいしね〜。と、爪を見ながらツンケンした声を出す。
まあ、まさかイズまで行ったあげく応援しちゃいました、とか口が裂けても言えないよね。エリートだし……ね。
純太は、そうだよな、と眉を下げて笑う。

「でも、オレさ……あの時」

そこまで言って、純太は、何かを思い出しているみたいに目を伏せた。「……なによ」と言葉の先を促す私に、再び視線を持ち上げた彼は「いや、やっぱ気のせいかな」と取りなすように明るい声を出した。

「なにそれ、気になるんですけど」
「うーん、でも」
「いいから言いなさいよ。はっきりしない男はポイント低いよ」
「……聞こえた気がしたんだ、一瞬」

名前さんの声。
急に真剣な顔をした純太と目が合って、ドキリとした。

「そ、そんなわけ……ないでしょ」

取り澄ました声を出しながら、内心めちゃくちゃビビる私。
いやいやいや、ありえない。確かに全力で叫んでましたけど、絶対に聞こえるわけがない。だって、起きている人間と私達では、世界のレイヤーがそもそも違うんだから。

「つか、なんで私がイズで純太の応援なんてしてんのよ、幻聴よ、幻聴!」
「……だよなー」

そう言って、純太がころんと寝転がった。特に引っかからず受け入れてくれたっぽくて、ホッと胸をなで下ろす。

「……アンタさー、そんな大事な瞬間に幻聴するとか、どんだけ私のこと好きなのよ……」
「……………」
「……純太?」

やべ、らしくないこと言っちゃったかな、と思いながら純太を見たら、ヤツはすやすやと気持ち良さそうな寝顔を晒していて。

「寝やがった……」

はぁ、とため息をひとつ。

「……お疲れ様、純太」

この際ついでだと思って、そんな優しい労いの言葉をかけてやるけど、言ってから無性に恥ずかしくなって、後悔した。
そのままなんとなく、じっと純太を観察する。
……やっぱり、自転車で走ってる時とはまるで別人だ。この、見れば見るほどフツーの男子高校生の一体どこに、あんな力が隠れていたんだろう。

(……純太、女を抱く時もあんな必死な顔するのかな……)

光る汗。苦しそうに刻まれた眉間の皺、何もかも、命すらも投げ打つみたいな狂気で揺ら揺らしていた瞳。

そんな顔で、自分の上に覆い被さっている純太を想像したら、腰の辺りがぞくりと疼いた気がした。

back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -