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荒北ファンクラブを作ろう!


「東堂くんはファンクラブあるじゃん」

「ウン」

「新開くんもファンクラブあるじゃん」

「…ウン」

「福富くんはファンクラブこそないけど自転車競技部の部長で、皆応援してるしこの学園のヒーロー的存在じゃん」

「………そうだネ」

「荒北くんは?」

「…………」

「どうして荒北くんのファンクラブは無いの?」

「………いやどうしてって……」

「ということで、荒北くんのファンクラブを作ろうと思います」

「ウン。―――いやいやいや、ちょっと待て」


なんとなく、話が怪しい方向へ向かってるのはわかってたんだ。
それでもツッコまずに話を聞いていたのは、目の前にいる苗字チャンがあまりにも真剣な顔をしていたからで。
だがここまで来るとオレも口を挟まずにはいられなくなってくる。

「なによ」
「なによ、じゃねーよ…。ナァ苗字チャンひとつ聞いてもいい?」
「なによ」
「(二回目…)………苗字チャンって、オレの彼女だよネェ?」
「そうだよ。…………エッ違うの!?!?!」
「いやそうだヨォ!!?!?!?!?」

慌てる。その答えは慌てる。オレが急いでそう切り返すと、彼女は「もーびっくりさせないでよー」と頬を膨らませたが、正直びっくりしたのはこっちだ。
………やっぱり、オレの彼女は変わっている。抜けているというか、なんていうか…。

「で、荒北くんは何が言いたいわけ?」
「いや……なんか違くねーか? オレの彼女なら、こう…ファンもなにもねェと思うんだけどォ……」
「そんなことないよ。私、荒北くんの彼女であるとともに、荒北くんの一番のファンでもあるの。だから、皆に荒北くんのかっこよさを知ってもらいたいの。レース中荒北くんにも黄色い声援がいっぱい飛ぶようにしたいの」
「ウーン………」

なんだか嬉しいことを言われている気がするけどォ……

「…オレは別に。苗字チャンが応援してくれればそれでいいヨ」
「私がよくないの。だって悔しくない? 同じレースでも東堂くんとかはあんなに声援受けてるんだよ? ずるいよ」
「べっつにオレは悔しくもなんともねーけど…」
「……私は悔しい。東堂くん並びに東堂くんファンをぎゃふんと言わせたい」

どうやら苗字チャンの中で敵は東堂に絞られているらしい。それはちょっと愉快だ。
しかし、ぎゃふん、か…………死語だな。


「だめかな、荒北くん……」


うわ。
その顔はだめだろォ、苗字チャン。そんな子犬のようなつぶらな瞳でオレを見ないでくれ。全部許してあげたくなっちゃうからァ。くそ、これが惚れた弱みってヤツか…。
オレは無意識に首を縦にふっていた。まぁ、どーせファンクラブなんてできっこない。オレみたいのが好きなヤツ、苗字チャンぐれーしかいねェだろ。
「ありがとう!」とはしゃぐ苗字チャン。あーあ、やっぱコイツすっげ可愛いわ。食べたくなっちゃうなァ。

「―――で、まずなにするンだァ?」
「よくぞ聞いてくれた荒北氏。とりあえず、メンバーを確保しなくちゃ。頑張って勧誘する!」
「ハッ、ンな人が集まるとは思えねーけどォ……」
「…ぶっちゃけ、人数は問題じゃないのだよ荒北氏」

彼女はちっちっち、と人差し指を横に振る。
…………動作が古いな。

「どういうことだよ」
「とりあえずはファンクラブがあるという事実だけでいいの。早いうちに5、6人でいいからかき集めて、私が会長として設立しちゃいます。で、それを広める。すると、荒北くんに関心が集まる。あの人ファンクラブあるんだって、てな具合にね。そうなったらシメたもんよ、レース見て荒北くんの魅力に気づいた子達を一気に引きずり込む。とりあえず東堂ファンクラブと張り合えるぐらいまでにはいきたいね、インハイ前までに」
「…………」

つらつらと冷静にそう語る苗字チャンを見て、オレは少し不安になってきた。
あれ……コイツ、頭良くねーくせに案外したたかに考えてやがる………。
まさかホントに、現実になったりしねェよな……?





結論を言ってしまえば、ファンクラブはできなかった。
苗字チャンが言うには、必死の勧誘の成果で、結構な人数が集まったらしい。(これがまず驚きだよネ)だが、東堂ファンから引き抜こうとしたところ、東堂ファンクラブの上層部の連中からイチャモンをつけられ、結局確保していたメンバー全員それにびびっちまって、入ってくれる子がいなくなっちまったんだとか。彼女は憤慨しているが、オレが心から安堵したのは言うまでもねェ。

正直、オレを応援してくれる女の子なんて、苗字チャン1人だけでいい。他のヤツらの声で、彼女の声援が聞こえなくなっちまうのはいただけねーしな。
………なんて、苗字チャンの頭を撫でながら考える。そうだな、あとでゆっくり、なぐさめてあげるとするか。

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