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鳴子くんと天使すぎる女の子


ずぅーーーーん。
頭に漬物石でも置かれたんかっちゅうほどの重みを感じる。

うまくいかへん。全然うまくいかへん。

ワイは基本的に難しく考えんの苦手なんや。まー例外もあんで、例えば速よなるためならいくらでも頭絞れる。自転車のことなら昔からの付き合いやしアイデアも浮かばんこともない。

せやけど。

……恋愛ってどーすればうまくいくん? 女の子の気持ちってどーすれば分かるんや。「速くなるための方法」ならまだありそうなもんやけど、「好きな女の子の好きな男になるための方法」とか存在するんか? 少女漫画でも読めば書いてあるんか。

いや、そもそも。それ以前の問題として。自分の気持ちってどうコントロールすればええんや。まず自分の気持ちを自分でコントロールできへんっておかしないか。おかしいよな。どうする? ラジオにでも投稿するか。ラジオネーム赤い弾丸さんからのお便りですぅ、好きな女の子の前だと全然素直になれません、とゆーより仲良くしたいのにどーしてかぶっきらぼうな態度になってしまいますぅ、一体何がどうなってるんでしょーかぁ………、

……とかなんとか頭ん中でぼやきつつ、窓際にもたれかかって友達と喋っとる彼女を見つめる。季節は夏、本日は晴天。太陽の日差しが苗字さんの笑顔に差し込んでピカピカ輝いている。ついてに二の腕にも光が当たって眩しい。廊下側の一番隅っちょ、思いっきりの日陰でこんな風に苗字さんに視線を注いでるワイ、対照的すぎやせんか。あ、言うてももちろんガン見しとるわけちゃうで、そんなすぐにバレてまうよーなことせんわ。こう、机に腕組んで、居眠りするふりを装いつつチラーッとやな……


「――ってそれ一番不健康なヤツや!!!」


我に返った。机を押し倒す勢いでワイは起き上がった。危ない。これは危ないで。思考が変態臭くなってきてへんかこれ。スカシみたいに湿っぽくなってきてへんか。じめじめじめじめ生乾きのパンツみたいな、くっそ、こんなんワイに似つかわしくないわ。もう夏なんやぞ!! 梅雨終わったんやぞ!!


「鳴子くん? どうかしたの……?」

「っ、なななななんでもないわボケ!!! ワイは変態ちゃうわ!!!」

「……えっ?」

「……あ、」


きょとん、とする苗字さんの顔をみて、ワイも思わず口をぽかんと開けた。やってもうた、と思った時にはもう遅い。しまった、自分の世界に入ってたせいで条件反射で答えてしもた。


「わ、私変態なんて言ってないよね……?」


苗字さんの顔に戸惑いの色が生まれるのを見てワイはカチンと固まった。アホかなにやっとんねん……!! ん、待て? 苗字さんもしかしてワイのこと心配して来てくれた? うわメッチャええ子やんけ。なんやそれ普通に嬉しい……って舞い上がっとる場合ちゃうやろ!

「あ、あーー苗字さん、これは……えっと、ちゃうねん、今のは独り言や独り言」

「ひとりごと……?」

いや何が独り言や思いっきり苗字さんに向けて言うてたやんけ!! ……と、まあ、ワイが第三者なら、まずそうツッコんでるところや。

と、思ったところに、第三者がやってきた。

「ちょっと、なに苗字に突っかかってんのよ鳴子。今のどー考えても独り言じゃなかったでしょうが」

口を尖がらせてつかつかとこちらに寄ってきた、これは苗字さんのお友達さん。さっき窓際で一緒に喋ってた子や。せやなお友達さんその通りやで……! けどなそれちゃんとワイ自身分かっとるんや。やめてくれ、これ以上今の一言についてツッコみを入れんでくれ……!

「しかも変態がどうとかこうとか。なに? ドン引きなんですけど」

って、あーーー今のフラグやったァーーー迂闊にフラグ立てるからホラ! 早速ツッコまれてもうたやんけ! アホ! 鳴子章吉のアホ! けどフラグ立ててから回収すんの速いわお友達さん! スピードマン鳴子もちょっと惚れ惚れする速さや!

……て、いや関心しとる場合ちゃうやろ。このままでは苗字さんに悪い印象を抱かれてまう……!

「っ、ど、ドン引きは言い過ぎや!! っちゅーか最初に突っかかってきたんはそっちやろ!?」

「えっ……」

「オイちょっと鳴子ォ!! 苗字はあんたのこと心配してねぇ!!」

「!! い、いやいや、今のは、」

――今のはお友達さんに言うたつもりやったのに!! なんか苗字さんに向けて言うたみたいになっとるやないか!! 勝手に判断すなや!!

……あ、せやけどイチャモンつけてきたんはお友達さんやけど、いっちゃん最初声かけてきてくれたんは苗字さんやったっけ……。

お友達さんの妙な迫力もあって口ごもってまうワイ。せっかく苗字さんと話せる数少ないチャンスが、それも向こうから近づいてきてくれたっちゅうーのに、ダメダメや。しかも変態扱いとか、ゼツボー的やないかい。

と、心の中で嘆きを叫んだ時、苗字さんが「ちょっと、友美」とワイを威嚇するお友達さんを牽制するように声を出した。


「私は別に気にしてないから。ごめんね鳴子くん。それよりもさ、もしかして鳴子くん……何か悩んでたりするの、かな?」

「――へっ?」

「あ、私の勘違いならいいんだけどね!! 何かさっきからずーっと机に突っ伏してたし、かと思えば突然起き上がったり。今も様子がおかしいし……ちょっと、心配になっちゃって。あっ、でもね、触れられたくないことなら何も言わなくていいよ、うん!」

「…………」

「あれ!? 鳴子くん、なんだか顔がすごい勢いで赤くなってきたけど、もしかして調子悪い!? ね、熱でもあるんじゃないかな!?」

「………苗字さん、ワイの悩みに相談乗ってくれるん?」

「え、うん……私でよかったら」

「そうか……ほんなら、ワイと付き合うてください!!!!!」


『……………』


数秒後、顔をボンッと赤くさせて叫んだ苗字さんの「え、え、ええーーーーーっ!?」という声と、「どーしてそうなるんだっ、お前はいきなり何を言ってるんだ鳴子ォ!!」というお友達さんの激しいツッコみが教室中に響き渡り、そしてワイはそのツッコみという名の脳天へのチョップを受けたことで保健室にホンマに運ばれるはめになった。せやけどアレはしゃーない、だって苗字さん天使すぎるんやもん。苗字さんが天使すぎるからアカンねん。お友達さんが過保護になるんも分かるわ、アレは国家レベルで保護せなあかんぐらいの天使度や。

せやけど悪いなお友達さん。ワイはあの程度のチョップで諦めるよーな男ちゃうで! 苗字さんはワイが手に入れるんや!

と、たらたらと血を流し続ける鼻にティッシュを詰め込みながら、ワイは思った。……うん、とりあえずこれじゃカッコつかへんから、血が止まってから再度苗字さんにアタックしようか。


【リクエスト:ヒロインにデレデレなのに素直になれない鳴子】

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