Episode0


痛い痛い痛い痛い―――――


この痛みが続いて一体どのくらいが経っているのだろう。
半殺し程度にされてから、また医療用黒匣で回復させられ・・・を繰り返し行われている。
与えられ続けた痛みは段々身体を麻痺させていった。今では痛みがほとんど感じない。ただ今一つ思っているのは「早く殺して欲しい」ということだけだった。

ジュードを傷つけていた連中も、反応が無くなったことにつまらないと感じたのか「早く殺してしまおう」と騒いでいる。これでやっと開放されるとジュードは思った。
約束は守ったのだ。もう少し達成感に浸っていたかったが仕方ない。だけど最後に共に戦った仲間に会いたいと思った。

ミラ・・・君の約束はしっかり守ったよ・・・。

他のみんなは大丈夫かな・・・。会いたいな・・・。

エル・・・また君を一人にしてしまう・・・。

ルドガー・・・約束破ってごめんね・・・。

親友に託されたとでも言っていい少女を死ぬ最後までジュードは想った。そして彼の意識は途絶えた。






ハッと悪い夢を見たかのように、ジュードは飛び起きた。
さっきのは夢・・・?そう思いながらも辺りを見わたす。ここはどこだろうか。
しかしあれが夢だとすると実にリアル過ぎる。痛みも何もかも懸命に覚えている。ジュードにとってあれは少なからずトラウマになっていた。

もう一度辺りを見わたす。見慣れない場所だ。人もいない。身体を起こそうとしたが、何故だか力が入らなくてベッドに倒れこんでしまった。

(あれ・・・?なんで?)

もう一度身体を起こそうとしても結果は同じだった。一体自分はどうしたのだろう。

(もしさっきのが夢じゃないとしたら・・・ここは死後の世界?)

そう考えて首を横に振る。こんな生活感漂った場所が死後のはずがあるわけない。
すると先ほどまで閉まってあったドアがゆっくりと開いた。少し警戒しながらも、そのドアの先を見る。
入ってきたのは黒い長髪の青年だった。

「お。目ぇ覚めたみたいだな」
「あ、あの・・・」

ここは一体・・・?と問うと、青年は「悪い悪い」と軽く謝りながら何故ジュードがここにいるかという疑問に対して答えた。

「下町の路地裏で倒れてたのを保護したんだよ。んでここは騎士団が使っている部屋の一つだから、心配しなくていい」
「下町・・・?騎士団・・・?」

青年の話にジュードを首を傾げる。最後に自分がいたと思われる場所はトリグラフのはずだ。そこには下町っていうのも無かったし、ましてや騎士団もいなかった。
その前にここは何処なのだろうか。これ以上黙っているのもいけないと思い再び口を開く。

「あのここは何処の街ですか?」
「何処って・・・帝都ザーフィアスだけど。ここに来た理由もわからないのか?」
「ざーふぃあす・・・?」

聞いたこともない街にますます頭がこんがらがってきた。それに「帝都」というのはどういうことだろう。リーゼ・マクシアにもエレンピオスにもそのような街はない。
となると、まさかここは

(異世界・・・!?)

自分が知っている世界とはまた知らない世界。これが一番しっくり来るだろう。
しかし今度はまた別の問題が現れる。何故自分は異世界に飛ばされたのか。
リーゼ・マクシアでは死んだ人間は精霊に生まれ変わるという話だったはずだ。もし今回が例外だとしても、記憶があって身体も成長している状態で生まれ変わるのはどういうことなのだろう。そして普通だったらいるはずの親もいない。

一人で頭をめぐらせてハッと気づく。助けてくれた青年のことをすっかり忘れてた。
恐る恐るそちらを向くと、青年は欠伸をしながらもこっちが視線を向いたことに気づいたのかニカッと笑った。とても申し訳ない気持ちになってきた。

「考えはまとまったか?」
「あ、あのすいません・・・」
「気にすんな。まあ、あれだ。俺はユーリ・ローウェル。お前は?」
「僕はジュードです。ジュード・マティス。あの、ユーリさん助けてくれてありがとうございました」
「ユーリでいい。というかお前何であんなところで倒れてたんだ?見たところ強盗にあった感じでもないし」
「あの・・・」

「異世界から来ました」と言って信用してくれる人などいるわけがない。ジュード達のように「精霊の王に会いました」とか「世界を救った」などという超人間がいればまた別だろう。
再び黙りこんでしまったジュードを見て、ユーリはぽりぽりと頭をかく。さてどうしたものかねと考えていると、閉めたはずのドアが開き、ユーリにとって見覚えのある金髪の青年が入ってきた。

「よぉフレン」
「ユーリ!君はまた問題事を増やして・・・・・・そちらの子は?」
「ジュードだってさ。記憶喪失っぽいぜ」
「「えっ!?」」

フレンと同じように声を上げてしまうジュード。多分黙りこむジュードを見てユーリは記憶喪失という枠にしてしまったのだろう。ジュードとしては好都合だが、騙しているという感情のほうが強くて複雑だった。

「ジュード君だね?僕はフレン・シーフォ。君は何処まで覚えているか詳しく聞いていいかな?」
「え、えっと・・・この世界のこととか街のこと・・・名前くらいしか分からないんです」
「困ったな・・・」

フレンは気づいていないようだったがユーリはジュードの言葉に違和感を感じた。それが何かは分からないが、首を傾げる。すると、フレンはユーリのほうを見てこう言った。

「ユーリ。この子をどうするつもりだい?」
「どうするってこのまま放っておくわけには行かねーだろ」
「このまま騎士団で保護も厳しいしね・・・」
「そうなりゃひとつしかねぇ。ジュード、お前これから行く当てあるか?」
「・・・ない」
「んじゃ、俺の家来いよ。まぁ家と言っても借りてるだけだけどな」
「え?」
「ちょ、ユーリ!!」

一人満足気に頷いているユーリと、混乱しているジュード。そして最初は否定をしていたが、ユーリの頑固さに折れたフレン。

そんなジュードにまた新しい世界で新しい生活が始まった瞬間だった。






―あとがき―
なんという無理やり終わらせた感じの・・・。
補足ですが、源黒匣マクスウェルは研究所に置いてきて拉致されたのでジュードは持っていません。テルカ・リュミレースに来て持ってるのは、3万ガルドとちょっとしたグミ類の回復アイテム。そしてミラから貰ったガラス玉のペンダントと、エルとお揃いで買ったクルスニクの時計と似たような時計を持っています。

つまりほとんど異世界人の証拠になるものが一つもありません。初めの頃は文字が違うから本を読むのも一苦労ですが、一ヶ月で馴染んでしまいます。

あとフレンは本気でジュードのことを記憶喪失だと思ってますが、ユーリはそう思ってない。訳ありなんだろうなくらいしか思ってない(笑)

次で本編入るつもりですのでよろしくお願いします。




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