名前変換
※高尾、ヒロイン中学生設定
「好き?誰が?」
首を傾げる私に友達は呆れたようにため息をつきながら詰め寄ってきた。
「だから、あんたが高尾くんのこと好きなのよ」
そう言ったの、聞こえなかった?友達は眉を寄せると少し不機嫌になって言い放つ。
「カズを好き…?普通に好きだけど」
「だから、そうじゃなくて…男の子としてよ!あんた高尾くんが他の女の子とずっといるようになったら平気なの?」
「やだ」
覗き込む顔に私は首を横に振る。だって、カズの隣を歩くのはいつだって私であってほしい。カズは大好きだし、私の大切な家族なんだから。他の子と一緒にいるのはいやだよ。
「それ、その気持ちよ」
私の気持ちを読み取ったかのように満足気に頷いてみせると友達は私の肩を叩いて窓の方を見る。
「いずれあんたにもわかる時がくるよ」
そう言った友達の顔がなんだか楽しそうに見えた。
***
ずっと一緒だった。
家族で兄妹で大事な相棒。
私とカズの昔から変わらない『幼なじみ』という立ち位置。
いつからか、それが当たり前になっていた。
いつまでもあのままじゃいられない。心のどこかでわかってはいたけれど、カズを男の子として見るのは無理みたい。
そう思っていたのに。
「なんか変」
「は?」
隣を歩くカズが不思議そうな顔をこちらに向ける。
「なんかモヤモヤする」
さっきカズとクラスの女の子が仲良さげにしゃべっているのを見てから、胸がモヤモヤして気持ちが悪い。
「モヤモヤ?何が?」
「胸が」
胸?と眉を寄せ私に顔を近づけてくるカズを近いと押し戻す。
「お前、恋でもしちゃったんじゃねーの?」
ケラケラと楽しそうに笑うカズの顔を思わずじっと見つめてしまう。
私が、恋?
まさか。
自分で自分に笑ってしまった。
「なに1人で笑ってんだよ」
カズの手が私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。カズのことは好き。だけどこれは恋じゃない。きっと、きっと。
***
「カズー、私にも一口〜」
教室でチョコバーをかじっていたカズに後ろから乗りかかる。ん、と差し出されたチョコバーに迷わずかじりついた。
「はは、間接ちゅーだな」
「えっ」
間接ちゅー、間接ちゅー。周りが騒ぎ立てるその言葉を頭の中で繰り返す。いつもならこんなこと気にしないのに。急に恥ずかしくなって、カズと距離をとった。
顔が、熱い。どうして。
「名前?」
「帰る!」
「ちょ、待っ、えっ!?」
踵を返して大股で歩き出す。
「名前!」
「っ」
肩を引かれ、視線がカズとかち合った。やだ、見ないで。今の私はきっと真っ赤になっているから。お願い、何も言わないで。
何かを言おうと口を開きかけているカズと驚いて何も言わない周りのみんな。
「じゃあ、ね!」
カズの手を振りほどいて走り出す。また後ろでカズが名前を呼んでいたけれど、気づかないフリをしてひたすら走った。
走りきった先にあったのは中庭で、その端っこにある小さなベンチに崩れ落ちる。
いつもならからかわれたって平気だったのに。
私、変だ。カズのこと考えると心臓が痛くなる。
苦しくなって、胸元にあるワイシャツを握りしめた。
きっと、これが好きってことなんだ。
カズのこと、好きでこんなに苦しいんだ。
握りしめた手に力がこもる。しばらくの間、気づいた事実にこれからのことを考えながら空を見つめていた。
あの日から、私はカズを避けるようになった。どんな顔をして会えばいいかわからなくて。
登校時間も、学校にいる時もなるべく姿を見ないように過ごしている。
唯一姿を見るとしたら部活の時だけ。ネットで区切られた体育館の反対側にカズがいる。目が合わないようにと、反対側を見ることはないけれど。
「お疲れさまでしたー!」
体育館に響く挨拶の音がカズのいる男バスと被ってしまった。急がなきゃ、カズと帰り道で会ってしまう。
今までにないくらい早く支度を終えた私は挨拶をして部室を飛び出した。
良かった。男バスはまだ騒いでいるのか、ガヤガヤとうるさい声が部室から響いている。
ほっと息を吐いて玄関へと続く廊下を歩き出す。
「名前」
曲がり角を曲がった時だった。
「カズ…」
予想外な人が目の前に立っている。反射的に後ろに下がった私は来た道をまた走り出す。
「待てって…!」
「っ…!」
カズの手が私の腕を掴んで離さなかった。振りほどこうとしても、振りほどけない力の差にカズは男の子なんだと嫌でも思い知らされる。
「何で最近俺のこと避けてんの?俺なんかした?」
「避けてない」
すぐばれるようなウソをつく。カズの顔が見れなかった。
「ウソつけ、お前この間からずっと俺のこと避けてる」
「ちがう」
「…じゃあ俺のこと見ろよ!」
カズが怒鳴って肩がビクリと上がる。泣きそうになって、こらえるように唇を噛み締めた。
「俺のこと、嫌いになった?」
「違っ…!」
思わず顔を上げるとすぐ傍にカズの顔があって、悲しそうな寂しそうな表情で私を見下ろしていた。
「違うのか?」
嫌いじゃない。嫌いになるはずがない。私は首を縦に振って訴える。
「じゃあ、何で」
「何で…って」
それは、言いかけてまた口を紡ぐ。この気持ちを言ってしまったら、もうカズと今までみたいに居られなくなるんじゃないか、そんな不安に襲われて視界が涙で霞む。
「それは、なに?」
カズの優しい声に私の瞳から涙が落ちる。言いたい。言ってしまいたい。
「カズ、っ嫌いにならない、で」
嗚咽混じりにお願いすれば、当たり前だろ。そんな言葉が返ってきて、さらに涙の量が増した。
「どうしよう、っカズが好きなんだ…!私、カズがっ」
「もう、いい」
途中で遮られた言葉と共にきつく抱き締められて、驚いた私の涙が止まる。
「カズ」
「やっと聞けた」
心底安心したような声でカズが話し出しす。それに耳を傾けてカズの腕の中でじっとしていた。
「俺は、名前が想ってくれるよりずっと前から好きで好きで仕方なかった」
「カズ…」
「好きなんだ、名前」
そう言ってカズが笑うから、私は嬉しくなってまた泣いた。
どうしよう、好きなんだ
「本当、昔からよく泣くよな」
「カズの、せいっ…だ」
「はいはい、もう泣かないの。ほら」
カズの腕の中にもう一度捕まった。
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企画参加楽しかったです!またの機会がありましたらよろしくお願いします(^^)
高尾くんと幼なじみのお話でした。
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