short story | ナノ

 ※ その瞳に映るのは(音也)

※音也ンデレ注意






「ねぇ、どうして?」


壁を背にしながら立つ私の目の前には、大好きな彼――音也が笑顔で立っている。


「お、音……」

「だから……ねぇ名前、どうして?」

「は、離して、音也」


音也は私の両手首をぎりぎりと握り締めながら、私を壁に押し付けている。まるで、逃がさないようにしているかのように。
いや、実際そうなのだろう。


「だめ、離してあげない」

「……っ、なんで……」

「さっき、トキヤと話してたでしょ」

「!」


すっ、と自分の顔から血の気が引いていくのがわかった。
音也以外の男の人と話すときは、細心の注意をはらっているつもりだったのに。
思わず俯き、下唇を噛む。乾燥しきっているそこから血が滲んだ。


「俺以外と話さないで、って言ったでしょ?」

「……」

「どうして守れないの?」

「ごめん……なさい……」

「ねぇ、もう何回同じことしたか……わかってるの?」


そう、これは初めてのことではない。
今まで何度も他の男の人と話すところを見つかってしまい、その度に問い詰められている。


「で、でも……どうしても話さなきゃいけないときだって……」

「うるさい」


音也から笑顔が消えた。


「言い訳なんていらないよ」


そう言うと、私の手首から手を離し、そのまま私の首に手をかけた。


「……っ!や、やめ……て」


まだ痣の残るそこに、音也の指が食い込む。
何とか離そうとするけれど、先程まで握られていた手首が痛み、うまく手に力が入らない。


「いらない。他のやつと話す君なんて」


だんだんと遠くなる意識の中、淡々としながらも重さのある声が降ってくる。


「お……おと……」

「ねぇ、名前」


意識を手放す直前、私は確かにその声を聞いた。



「俺だけを見ろ」






その瞳に映るのは


(愛しの君だけ)






2013.01.04





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