◎ ※ その瞳に映るのは(音也)
※音也ンデレ注意
「ねぇ、どうして?」
壁を背にしながら立つ私の目の前には、大好きな彼――音也が笑顔で立っている。
「お、音……」
「だから……ねぇ名前、どうして?」
「は、離して、音也」
音也は私の両手首をぎりぎりと握り締めながら、私を壁に押し付けている。まるで、逃がさないようにしているかのように。
いや、実際そうなのだろう。
「だめ、離してあげない」
「……っ、なんで……」
「さっき、トキヤと話してたでしょ」
「!」
すっ、と自分の顔から血の気が引いていくのがわかった。
音也以外の男の人と話すときは、細心の注意をはらっているつもりだったのに。
思わず俯き、下唇を噛む。乾燥しきっているそこから血が滲んだ。
「俺以外と話さないで、って言ったでしょ?」
「……」
「どうして守れないの?」
「ごめん……なさい……」
「ねぇ、もう何回同じことしたか……わかってるの?」
そう、これは初めてのことではない。
今まで何度も他の男の人と話すところを見つかってしまい、その度に問い詰められている。
「で、でも……どうしても話さなきゃいけないときだって……」
「うるさい」
音也から笑顔が消えた。
「言い訳なんていらないよ」
そう言うと、私の手首から手を離し、そのまま私の首に手をかけた。
「……っ!や、やめ……て」
まだ痣の残るそこに、音也の指が食い込む。
何とか離そうとするけれど、先程まで握られていた手首が痛み、うまく手に力が入らない。
「いらない。他のやつと話す君なんて」
だんだんと遠くなる意識の中、淡々としながらも重さのある声が降ってくる。
「お……おと……」
「ねぇ、名前」
意識を手放す直前、私は確かにその声を聞いた。
「俺だけを見ろ」
その瞳に映るのは(愛しの君だけ)2013.01.04