short story | ナノ

 midnight call(林檎)

やばい……眠い。

時刻は既に午前0時を過ぎている。
目の前の課題と戦い始めて早数時間。
明日提出なのだから終わらせなければ、というのは重々承知しているのだけど、それでも睡魔はやって来るもので。
なんとか手を進めているものの、こうして時々ふっ、と意識を持って行かれる。

明日の授業中も絶対こんな感じだろうなぁ……と思っていると、


「こーら、そろそろ寝なさい」

「えっ、林檎ちゃん!?」


すぐ後ろから、聞き慣れた中性的な声が降ってきたことに驚いて振り返ると、そこには私のクラスの担任である林檎ちゃんがいた。


「何で私の部屋に……?」

「女子寮の見回りよ。しかも、もうこの部屋しか電気点いてないから気になっちゃって」


なんだって……!?もうみんな課題を終わらせてしまっただと……?
ほとんどの人たちが口を揃えて「今夜は徹夜だぁ」とか言ってたくせに……
くそう!!裏切り者っ……!!

……というか、あれ?
それ以前に、


「林檎ちゃん……ここは仮にも……乙女の部屋なのだけど」


そう、月宮林檎は今をときめく男の娘アイドル。
見た目は女の子だけど、紛れも無く男性なのである。


「あら、あんまり細かいことを気にしてもしょうがないわよ」

「いやいや、気にするところでしょう!!」

「え〜?どうして?じゃあ、」


と言うとすっ、と顔を寄せて、


「……こっちのほうがよかったの?」


と、林檎"くん"は私の耳元で囁いた。


「ちょっ……そっちのほうが更に危な……」

「え?俺に会いたくなかったの?」


笑顔でそう言われてしまったら、私が勝てるわけがない。
だって彼は、私の"恋人"なのだから。


「……会いたかったよ」

「素直でよろしい」

「……林檎くんは?」

「会いたかったに決まってるじゃん。……でもね、」


すっ、と私の頬に手がそえられ、アクアの綺麗な瞳が静かに私を見つめる。


「無理し過ぎちゃダメだよ。名前は徹夜すると次の日ぼーっとしてるからね。これ以上油断してるとこんな風に、」


と言うのを聞き終わると同時に、唇に温かくて柔らかい感触。


「ん……っ!?」


キスされた、と気づくのに数秒かかった。


「……簡単に食べられちゃうよ?」


予想外すぎる林檎くんの行動。
いつもなら対応できるのに、半分夢の中だった私にとっては不意打ちだ。


「あはっ、目が覚めたかしら?」

「……もうそりゃあ、バッチリと」


むしろこれで目が覚めていなかったら何されるかわかったものじゃない。


「さて、ちゃんと注意もしたし、アタシは帰るわね」


というとドアへ向かって歩いていき、途中で「あ、そうだ」と言って立ち止まった。


「名前ちゃん、もうひとつだけ言っておくわね」

「何?」


振り返った林檎くんは、普段見ることのない悪戯っ子の少年のような笑みを見せて、


「――俺、独占欲強いからね?」


と、静かに宣告をした。


「……肝に銘じておきます」


おずおずと言うと林檎ちゃんはくすっ、と笑い、「じゃあ、早く寝るのよー」と言って出ていった。

早く寝れるなら寝たい、と思いつつもさっきの林檎くんの行為を思い出してしまって目は冴えるし課題も手につかない。

……とりあえず明日、ぼーっとしないように気をつけなくては。






midnight call


(いつだって、油断禁物)






2013.01.03





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