天寧



(西内 天寧)




自分が西星高校への入学を決めた理由は勿論部活なのだが、それも昔から西星高校のソフトテニス部に憧れがあったのが理由だった。

西星というか、西星で活躍してた人に憧れて、のほうが正しいんだけど。



きっかけは、俺が小学5年生の時の9月の話。

土曜日の練習の後、大会前に星華コートで打ちたい、と同じ少年団だった君弥たちと話してたら、君弥のお母さんがわざわざ連れて行ってくれることになった。でもその当日は大会利用で星華コートが空いてなくて、翌日の午後だったら空いてる、ということで予約を取って貰ったのを覚えている。

当日は俺の母さんも付き添ってくれて、陽平など他の同期も一緒に、星華コートでテニスをした。
大体の大会は星華コートで行われるから、練習にはもってこいの場所なんだけど、何せ市営施設だから利用するのにお金がかかる。高校生の今じゃよく行ってるけど、小学生の時の俺には、100円でさえ大金だと思っていたからなかなか行こうとも言えず、そして結構距離もあるから、行こうと決めない限りあんまり行かない場所でもあった。



そんな感じで打っていた時に、

隣で打っていた高校生の男の人たちのところに俺たちのボールが飛んじゃって、俺が取りにいった。


その時に、

「小学生かな?どこのジュニアなの?」
と声をかけられた。

「南聖Jr…」
と、当時の俺は恥ずかしがりながらモゴモゴと答えていた記憶がある。


「お、南聖Jrの子か。俺も昔南聖Jrでやってたんだよー。頑張ってね」

そんな感じで話しかけられたけど、俺は何も言えず、とりあえず恥ずかしがることしか出来なかった。

そして、その人のテニスはとても上手すぎて、ガン見しちゃった。



その後、その高校生の人ともう一度会って、

「打ってるとこ見てたけど、すごい上手かったね。俺は西星高校のソフトテニス部に入ってるから、もうちょっと大きくなったら西星で待ってるからね。将来楽しみにしているよ」
と言ってくれた。

「あ、ありがとう…!」
ずっと照れていた俺も、この時は。嬉しくてにこやかになっていた。




でも、その時は名前を聞くのを忘れた。
南聖JrのOBで、西星高校の人っていうことしか分からなかった。
でも顔がかなりイケメンだった。



その1週間後、大会の時。
この日、18面ある星華コートでは、西側の8コートを小学生の大会で使用、東側の10コートを高校生の大会で使用していた日だった。

高校生、ということは、あの時の人がいるんじゃないか。
そう思った俺は、ついつい西星高校を目で追ってしまった。


「あ、あの人だ!!」
と俺は気づいた。

その高校生の大会は、団体戦の地区予選だったらしい。


俺たちの大会が終わるのが早かったので、終わってから数人で高校生の大会を見学していた。コーチも教え子が出てるから、って一緒になって見ていた。


「今試合出てる西星の後衛の人って、長島さんって言うの?」
と俺はコーチに聞いた。
ゼッケンに「長島」と書いてあったからね。

「そうだよ。それも南聖JrのOBでな、星華中でも活躍してたし、西星高校に上がってからも既に活躍してるんだよ」
「へー」
「どうしたの?天寧が他人に興味持つの珍しいね」

コーチにそう言われて、俺は正直に話した。

「いや、この間ここでテニスした時に、あの人がたまたま隣のコートにいて…。俺がボール飛ばしちゃったんだけど、あの人は怒らなかったどころか、俺の事見て上手いねって褒めてもらって、西星高校で待ってるからね、将来楽しみにしているよ、って言われたんだ」

そう話した後、長島さんのプレーをガン見していた。


なんと言うかこう、とても綺麗で。

俺もこんな風に綺麗に打ちたいと思った。



「ちなみに長島は、この間の高校新人戦のシングルスで県大会で準優勝してるから、今は相当上手いよ」
とコーチは言ってて、俺はびっくりした。

「県大会で準優勝?!」
「そう。だからこれからもきっと活躍すると思うから、色々と見ておくのも勉強のうちだよ」


そうして俺は、その後高校生の大会に何度か連れてってもらったことも。



それに、この年は西星高校が高校選抜の出場を決め、初の団体全国出場を決めたという。それも、長島さんも立役者ということで。

長島さんと同じ高校の後輩に、俺のジュニアの後輩である長江和希のお兄ちゃんがいて、和希のお兄ちゃんも西星でレギュラーだったのもあり、和希も親と一緒にお兄ちゃんの応援をしに行っていたので、そちらからも話は聞いたし、県大会の時や、高校選抜の時の試合動画も、和希の親が撮っていたのでそれを俺まで見せてくれたし、なんならDVDに焼いてくれたので、俺はそれを何度も見返して、色々と参考にしていた。






そんな長島さんと再会したのは、中学3年生の春だった。


中学2年の冬に、晴太と共に中学の県大会で2位入賞した俺は、一般カテゴリの大きな大会への出場枠を貰っていた。これは春大会の話。夏大会は体調崩して出れなかったから…。

その時に当たった相手が、県内で1番ソフトテニス部の強い大学、緑陽大学の人だった。

緑陽大学は、長島さんが進学した大学でもある。残念ながら当たったのは長島さんではなかったのだが、姿は見かけた。

試合が終わったあと、


「西内くんって、南聖Jrだった子だよね?」
と声をかけられた。

振り返ると、長島さんだった。

「はい、南聖Jrでした」
「覚えてる…か分からないけど、俺、何年か前に星華で話しかけたことあるんだよね」

と言われて、俺もびっくりした。
あれから話す機会があった訳でもなかったから、覚えて貰っていたのもびっくりした。

「え、はい!俺、あの時の小学生です!!」
「お、俺の事覚えてた?」
「覚えてます!!あの時見た時から本当に上手すぎてずっとお手本にしてました」
「ほんと?それは嬉しいな」

この時中学3年生で、あの出来事が小学5年生の時だから、4年前の話だったのに。



「中学生でこの大会出てるってことは相当強いってことだし、冬に県大会で準優勝しているのも、なんなら小学生の時も全国出てたのは耳にしていたけど。あの時声掛けた子がここまでの選手になってて俺は嬉しいなーってずっと思ってたから。これからも頑張ってね」

長島さんはそう言ってくれて、俺は本当に嬉しかった。

「ありがとうございます!」
「高校は西星?」
「そのつもりです!!」
「おっ。頑張ってね」


正直星の里高校も良いなって思ってたけども、やっぱり俺の憧れは西星高校で、この人だ。そう思ったから、俺は西星高校に決めた。
流れるかのように玲衣や郁哉まで着いてきたのは笑ったけど。










そして、今は高校2年生の11月。

長島さんは今年大学卒業し、さくら市に戻ってきて一般のチームでソフトテニスを続けていて、地域の大会にも出ているようだが、中々出場する大会が被らず、見かけることはなかった。

だけども、会う機会があった。


SNSで長島さんのアカウントを見かけて、思い切ってフォローしてみたら、フォローを返してくれたどころか、メッセージまで送ってくれて。

「今度一緒に打ってみたいな」
と言ってくれたので、予定を合わせたのだ。



街中の中央体育センターという体育館でテニスをすることに。それも、2人で。

「そういえば下の名前って天寧くんだっけ?」
「はい、天寧です」
「じゃあ俺も天寧って呼ぼ。なんか弟子がいる気分かも」

そんな感じで、天寧って呼んで貰えたのも嬉しかった。

長島さんはガチでテニスをやっていたのは大学生までで、それ以降はゆるくしか出来てない、と仰っていたけど、そんなのも感じさせないくらいやっぱり上手くて。

それに、色々とアドバイスも貰えた。

やっぱり俺が1番尊敬する人って、この人だな。と改めて思った。




テニスの後は、ご飯を奢ってくれることになった。俺がラーメンをリクエストしたら、長島さんオススメのラーメン屋に連れてってくれることになった。


「天寧は最近の大会の成績とかどんな感じ?」
と聞かれたので、

「地区大会はベスト4に入ること多いんですけど、県大会が中々勝ててないです」
「新人戦は?」
「新人戦は…地区はダブルスで同期に負けて敗者復活戦でギリ勝って、シングルスはベスト4だったんですけど、県大会はダブルスはベスト32で、シングルスは2回戦で逆転ファイナル負けしました」

と、正直に答えた。


正直、俺の大会成績はそこまで良くない。大悟とか玲衣とかのほうが大会成績良いって言われても否定できないくらいには。

1年の春から県大会はずっと出ていて、1年の新人戦はダブルスもシングルスもベスト32と1年にしてはそれなりに良かったと自分でも思った。けど、問題はそれから。
君弥とペア組んだのが昨年の冬からで、それからも地区大会優勝したり、団体戦出させて貰ったりしていたけど、インドアの県大会ではまさかの初戦敗退。
だから西支部大会はシングルスのみだったんだけど、シードからの2回戦でストレート負け。

その後1年生が入って、春は後輩の陽向とペア組んで最初の大会は優勝したけど、地区総体で南陵ペアに負けて個人戦の県総体出場を初めて逃してしまった。団体メンバーには入ったので、県大会自体は出たけども、それもそれで結構ギリギリの試合も多かった。

8月の県大会でも、その前の地区予選で再び優勝飾ったけど、県大会では白石工業ペアに初戦負け。

まあそんな感じで、俺の戦歴は結構ボロボロでさ。

「でも振り返ると大事な試合での俺の負け試合って、ほとんどファイナル負けが多くて。それも前半は俺たちがリードしていたのに逆転負け、っていう試合展開がほとんどなんですよね。だからそこを乗り越えるのが俺の課題だと思ってます」

これは、君弥も同じ課題を抱えていて。新人戦の県大会でダブルスもそうだし、シングルスもお互い同じような負け方してる。それに過去の西内芳賀ペアの負け試合も振り返ると、今後勝ちに行くために、技術向上もそうだけど、一番の改善すべき点はここにあるんじゃないか、と思っていた。

そう考えると、例えば宗司先輩のように、どの状況でも勝ちに行くことだけを考えてるような人を思い出しすと、俺にはこういうところが足りないんじゃないかなって思った。そういう場面にも強い大悟とかを見てると尚更な。
昔は何となくで勝ててたのも、今は中々通用しないから。


「まあ…正直メンタル勝負もあるからね。勿論技術向上もそうだけど、結構大事だからね」

長島さんはそう言ったあと、話を続けた。

「俺はさ、1年の時から県大会では割と上位に入っていたほうで、高校選抜とか色々出場したけど、最後の県総体で公立相手に2回戦負けしたんだよね。試合内容も内容だったし、あれが本当に悔しすぎて、人生で1番悔いの残ってる試合。それも高3の県総体だから尚更ね」

高3の県総体、つまりは最後のインターハイ予選。その大事な大会で、序盤で敗退したことを、長島さんは語った。


「天寧も今は苦しい時だと思うけど、今頑張ってるからこそ後々力になってくるから。苦しさに負けずに頑張って欲しい。俺は天寧のこと応援してるから」

そう言ってくれて、俺は心から嬉しかった。

「ありがとうございます!」

人としてもとても良い人で、やっぱり憧れの人だ。

長島さんの高校時代の活躍と今の俺を比べると、全然俺の方が劣ってるのが現実だけど。
だけど、目標はこの人だ。そう改めて思って、頑張ろうと思った。


「あ、きっと来月インドアだよね?いつ?」
「地区は25日です!」
「25日か。休み取れたら見に行こうかなー。てか今度部活遊びに行きたいな」
「是非!!!試合も部活も来てください!!!」




よく考えたら俺と長島さんって年は結構離れてる。俺が17歳、長島さんは23歳になる年だから、6つ離れてることになる。

だけど、ソフトテニスを通じて出来た縁は、大切にしていきたい。





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