02
そういえばスプーンを持っているだけでまだドルチェを食べてないので食べようかとも思ったが、なまえの罵倒が怖いの自重しておこう。
『ったく、そろそろ逃亡癖止めないと部屋中に鍵着けられるぞ』
「はっはー、俺のピッキングの力も舐められたもんだぜ!俺にかかればどんな頑固なレディもあっという間にイチコロだっつーの!」
『そうなりゃ俺の言霊でお前を』
「ごめんなさいしないのでそれだけは」
『…はぁ』
咄嗟のことで早口で断りを入れると深いため息を漏れた。
飽きられてしまったに違いない、これで何度目か分からない仕事部屋からの脱走、こんなカポの下で部下をするこいつに苦労を掛けているのは分かっているが、実は止めらんない理由があったりする。
そのことを考えてふと彼へと目を向ければ視線が合い、思わずにやけてしまった。
『何笑ってやがんだ』
「別にー」
『…はぁ、もう脱走すんの止めろよー。探し回る俺の気持ちを察しやがれ』
「いやさー、だってー、俺がどこに逃げても、必ずお前が見付けてくれんじゃん?」
『?まぁ、そうだけど。それが?』
「幹部の奴らじゃなくて、恋人のお前が必ず一番に見付けてくれるのがさー…ちょっと嬉しくて、止めらんねぇんだよなー」
『………バッカじゃねぇの』
目元は前髪で隠れていてほとんど見えていないが、そんなこと言いながらもなまえが赤くなっているのはすぐに分かった。
「だから、またお前に見付けて欲しくて、脱走しちまうんだよなぁ」
『本当、みんなに迷惑だから止めろ』
「お前は?」
『あ?』
「お前は迷惑じゃねぇの?」
『…………別に』
ぼそっとだがちゃんと聞き逃さなかったぞ。
まだ赤いなまえの肩を抱き寄せて急接近すれば前髪が揺れて普段隠れている目が驚いたように見開かれる。
隙あり、と呟き触れるだけの口付けをしてやれば瞬く間に赤くなる。
クスクス笑えば襟元を掴まれて怒られたが、最初ほどの気迫はもうなかった。
(で、いつ仕事に戻るんだ?)
(このドルチェ食べ終わってからな。あ、なまえも食う?)
(…食う)
END.
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