03

不思議そうにする彼は髪の隙間から丸くした瞳を覗かせていた。

「あっ…すみません……何でもない、です…」

『そうか?なら、いいけど』

疑うことをしない貴方はトレイを持ってキッチンから出ようと背中を向ける。

あぁ…貴方が欲しい、俺のものになればいいのに、俺のものに…。

気付けば手には使い慣れたナイフが握られている。

なまえはそのことに気付かすキッチンで出て行こうとする。

今ここに居るのは俺となまえだけ、他には誰もいない。

「…、」

ナイフを握った手に汗が染み出る。

今騒ぎを起こしても誰も気付かないだろう。

ナイフを持ち直し、力を込めて、狙いを定める。

「なまえ……」

貴方の名前を小さく呼び、音もなく駆け寄る。

誰にも渡したくない、ベルナルドにもルキーノにもイヴァンにも、俺の大好きなジャンさんにでさえ渡したくないと思う黒い感情は溢れて止まらない。

距離を縮めて脇腹を狙った。

不意に、たまにしか見れない彼の笑顔が脳裏を過ぎる。

『っと……危ねぇ、ありがとうジュリオ』

「い、え……」

……凶器を握っていた手とは反対の手で、バランスを崩したなまえの体を支えた。

体制を立て直した彼はまた歩き出す、愛しい人の元へ。

殺してしまおうと思った、本気でそう思った…が、それと同時に、貴方の笑顔を失うことが怖かった。

殺してしまえば、暖かい貴方の肌、優しい貴方の声、幸せそうに微笑む貴方の笑顔、全てを壊してしまうことになる。

欲しい、けれど怖い。

怖い、けれど欲しい。

矛盾が心の中で渦巻いて溜まって行く。

『ジュリオ、何してんだよ?置いてくぞ』

「今、行きます…」

今日も想いを隠し、悟られないよう作った表情で、地上から遠い貴方を求める。




END.




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