02

ホテルの厨房に直接声を掛ければ人の少ない裏側を通りちょっとしたキッチンを借りることが出来た。

「これ、豆です…」

『ありがと』

「…」

棚の上に置いてあった豆の入った瓶を手に取り手渡せば近くに置いてあった手動のミルの中に入れて挽いていく。

すると、二人だけのキッチンにほんのりとコーヒーに香りが漂い始める。

「…いつもこうして、ジャンさんに、淹れてる…んですか?」

『あ?まぁ…頼まれて時間あった時だけな。素人の俺が淹れたコーヒーのどこがおいしいんだかねぇ…』

「…」

そう言って、滅多に笑わない貴方が小さく笑顔を零すのを見逃さなかった。

あの笑顔が俺に向けられることはない。

そう、気付いてしまったのだ、俺はなまえが好きだ。

けど、なまえはジャンさんが好き…そして、ジャンさんもなまえが好き…俺の入る隙なんて、どこにもない。

それでも捨て切れないこの想いを抱えたまま、また俺は貴方のそばにいる。

『…うし、砂糖もミルクも準備したし、ジャンの所に戻るか』

「……」

『ジュリオ?』

「ぇ……、」

全てをトレイに乗せ、ジャンさんの待つ仕事部屋へ戻ろうとするなまえの服を無意識のうちに掴んでいた。





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