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その後、俺はジュリオの肩を掴んで詳しく教えてくれと迫っていた。
「――……すみません、これくらいしか」
「オーケィ、よく覚えててくれた!上出来だ、ジュリオ」
思わぬ収穫だ、抜け道が見えてきた!お気楽ご機嫌なハッピールートであってくれよ……!
「何してんだ?その手」
息を吸ったジュリオが何やらおかしな手の動きをしていて覗き込めば、慌てた様子で謝ってきた。
「クセで、……ナイフ…持ってる時の」
「閉じたり開いたり?こう?」
真似るように手をグーパーさせていた俺は気づかず、GDのチンピラとぶつかった。
去り際にメンチ切ってきやがってムカついたが、失礼しますと言ってきたジュリオを見送るため、笑ってやる。
そこまで腹立てる事でもねーしな、っつか…ボンドーネっていやデイバンのイタリア系移民の中じゃ、かなりの家系だったなー……
「独特なテンポは育ちの差かしらね」
それからすぐのことだった。
看守たちの怒声に混じり、囚人たちのガヤが遠くから聞こえてきたのは。
自分の房で囚人たちと火とタバコの交換をしていた俺は、いつものケンカなら珍しくもないだろうと言ったが、誘われたならまぁ見物くらいはしようと向かった。
「!?」
そこにいたのは警官に取り押さえられているジュリオの姿。
俺は慌てて駆け寄ろうと思い人ごみを掻き分けようとしたが、肩を掴まれて制止させられた。
「ベルナルド…」
「Faccio io」
1人、欠ける―………
ジュリオが騒ぎを起こし、怪我人も出てる……
反則行為は懲罰房行きだ。
隔離され自由行動は無し、他の囚人との会話も禁止……そうなれば六人での脱獄は不可能になる―……
「こらぁ!囚人!!」
そんな事を考えていた俺に感に障る声が降ってくる。
「所長」
「駐車場への立ち入りは禁止だぞ!!なぜお前がいる!?」
「俺だし?」
ドカドカと大股で歩み寄ってきたブルックス所長は奇妙な唸り声を上げると、俺よりも目の前に停めてある車の心配をしだした。
「へぇ…ブルックス所長のアルファロメオ?新車?…ぃでっ!」
「見るな!触るな!汚れる!おいっ、誰か!!」
触れようと出した手を所長が警棒でバチンッと叩き、警官を呼んだ。
そんで三人仲良く行き着いた場所は―………
「お前は野放しにしておくと妙な真似をし出すからな……囚人!一人でシーツを全部取り込め!」
「はぁ!?」
連れて来られたのは干場で、所長はマフィアがギャングがどうのとか言って、連れ立って来た警官に見張りを頼むとさっさと行ってしまった。
その後は、まぁ残った警官にぶん殴られるは、身体検査ヨロシク持ってたタバコは没収されるはの散々なもんだった。
「邪魔するぜ」
シーツを畳む俺にイヴァンの声が聞こえ、そちらに顔を向けるとタバコを投げて寄越してきた。
土産だと言うイヴァンにありがたくいただき、シーツ越しに背中合わせになって早速タバコに火を点ける。
「―……さて、待たせたな」
背の重みが消え、俺もそこから身体を離すとシーツの合間からズイッと手が出てきた。
指の間に数枚の紙が挟まれていて、何だとソイツの顔を見やればニヤリと笑みを向けられる。
「よ―く、確かめやがれ」
受け取ったそれには看守の夜間見回りスケジュールがびっしりと書き出されたモノだった。
「どうした、これ……」
「一階に看守の巡回パターン把握してる長期囚人達が居てな、俺の顔で聞き出した」
「お前の顔で?」「弁護士通じて外の家族に便宜図る約束したんだよ!……数人にハナシつき合わせて矛盾は省いた…内容にまず、間違いはないぜ」
「へぇ……残りのシーツたたんでくれ、イヴァン」
「テメェが俺に指図すんなッ!!」
舌打ちが聞こえたが、俺はコレを暗記するのに集中する事にする。
先ほど没収を免れたシケモクを紙で巻いていると、慌てたように怒鳴るイヴァンの声に、全部頭に入れたから証拠隠滅だと告げてやった。
「すまん、お前のこと正直見くびってた……俺の中でお前の評価が凄い勢いで上昇したぞ、今まで馬鹿にしてて悪かったな」
字がメチャクチャ綺麗だったのにもすげー驚いたし、人は見かけによらないなと苦笑した。
「………〜っ、シット!」
そこからはシットファックのスラングの応酬。
まったく、何なんだよ…せっかく誉めてやったってのに……
俺は慌ててシーツを抱えながらその場を後にした―………
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