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「ジャンさん」

食堂から出てしばらく歩いていると、向からジュリオがやって来ていた。

「ジュリオ、ちょうど良いトコに……少し話せる?」

「はい……俺が―……います」

突然ジュリオが声のトーンを落としたかと思うと、俺の背後を睨むようにしてそう言った。

「え…えーっと……」

「―……あ、そうだ…俺、面会の……呼び出し、行く途中で……」

「OK、終わるまで待つぜ?」

「いえ……向こうを、断ります」

至極当然のように告げたジュリオに身を強ばらせる。
"囚人仲間とダベるので、面会行けません"なんつったら、絶対勘繰られちまう。
それだけは避けねば……

「面会行ってこい、そっちが先だ」

「………」

「………」

おい、何でそこで黙るんだよ!頑固なのか!?
もうここは当たって砕けろ!俺の演技力、目ん玉ひんむいてトクと見やがれってんだっ!

「ふぁあ〜……最近寝不足でさ〜、ジュリオが面会に行ってくれたらその間、昼寝できるのになぁ〜……」

「では……昼寝を先に、俺が待ち、」

「行ってこい」

「……分かりました、くれぐれもお気を…つけて―………」

あぁ、何か妙に疲れちまったぜ……会話、変すぎる。
去っていく背を見送って大きく息を吐いて肩の力を抜いた。

"ナイフ使いのジュリオ"、"狂犬"ってのもあったっけ……"ラッキードッグ"なんて、カワイイ渾名だぜ……





フェンスを飛び越えて、ベンチへと身を横たえて瞼を閉じる。
ここに来るまでにアオイを探してみたが、結局みあたらなかった。
あんな目立つナリしてんのに、いったいどこに隠れちまったんだか……
考える事は多々あるが、今は少し身体を休めるために夢へと落ちる事にしよう―……




―………
……

ん……?

くすぐったさに目を醒ませば、ジュリオが俺の口元をハンカチで拭っていた。
どうやら涎を垂らしていたらしい。
どいてくれたジュリオは未だ俺に敬語で、崇拝でもされてるみたいで妙な気分だ。
訊けば俺とストリートですれ違った事があるらしいんだが―……生憎と、俺は覚えていない。
空いたスペースを叩いて座るよう促せば素直にそこへ腰を落ち着かせたジュリオ。
脱獄に関しては俺に従って欲しいと言えば不服も言わず、従ってくれるらしい。

「なぁ、ジュリオはアオイの事……どう思う?」

「アオイさん、ですか?そうですね……とても、正義感の強い人だと思います」

俺は尊敬出来る方だと思います、と続けたジュリオにホッとした。
今までの幹部では皆あまりアオイに良い印象を持っていないようだったから…

「そだ、武器とか道具とかあれば欲しいんだけど…」

「…何も……持ってないです……折見て何か、探してみます」

「お?おう、頼むわ―……っと、ムショ!初めてか?苦労すろだろ」

会話が膨らまないというか、今までに接したことのない人種だからか気持ち焦り気味で話し出す俺。

「はい…してます、ね」

「だよなー!食い物か?女か?」

「…いや…殺し……」

その言葉を耳にした瞬間、一気に冷や汗が吹き出すのが分かった。

「仕事で………殺せないのは……つまらない…」

「―……なら…やっぱり食らい込んだネタは、殺人罪……」

ドッドッと心拍数が上がっていく。
そうだ、ジュリオは生粋の戦闘員……その道のプロだ、殺しが好きでも不思議はない……

「あの日…組織にきた暗殺の依頼、受けて、ターゲット………いつもみたいに、殺して……でも、現場に警察が踏み込んできて……」

「……それ…罠だったろ?」

「…多分………ここの警備はぬるい…………もし殺ろうと思えば、看守が駆けつける前に他の囚人を十人は殺れるでしょう?」

訊ねられても困る。
無表情でそう話すジュリオが分からなくて、俺は眉根を寄せた。

「や、殺りたい奴でもいるワケ?」

「特には…」

「……殺人マニア?」

「殺しは……仕事です………死体」

その単語を口にしたジュリオの口角が一瞬上がり、それを目の当たりにした俺は条件反射で立ち上がる。
ディープだ…ディープ過ぎる!冗談としちゃ扱いづれぇ!!

「―……っと…ははっ…死体好き……じゃあ、死体安置室でも見に行けば……なんてな…」

その直後、俺はジュリオの口からとんでもない事を聞くことになる。

「行ったら全部、見られるんでしょうね…ココの保管棚………鍵かかってないそうですから」



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