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食堂に着くとそこはガヤガヤと賑わっていた。
こんなマズい飯でも、腹に入れなきゃ飢えちまう。

ハァ〜……美味いパスタが食いてぇ……

「ようルキーノ、ご機嫌いかがだ?」

「麗しい訳がないだろう……何か新しい情報はないのか」

前を歩いていたベルナルドが声を掛けたのを見て、少しだけ身体をずらして覗いてみた。

「彼も…幹部?」

隣に立っていたアオイが俺へと耳打ちをしてきて、コクリと小さく頷いた。

「あのゴージャスな奴はルキーノ・グレゴレッティ……幹部第3位…」

「ん?誰だ、その男……うちの組にいたか?」

今までベルナルドと会話していたルキーノがアオイへと視線を向けていた。
…俺なんか目にも入ってないってか、まったく……

「あぁコイツはアオイっていって、俺の隣房だ」

「どうも、アオイ・九条っていいます…よろしく、グレゴレッティさん」

ベルナルドがさり気なくアオイの背に腕を回し、ズイッと前へと押し出しながらルキーノに紹介していた。
俺のアオイに…とかちょっとむくれたのは内緒だ。にっこり笑って手を差し出すアオイは、今もまだ人見知りがあり、挨拶は慣れないと言っていた。
でも見た感じでは人当たりよさげな笑顔で、自然に見える。
そういえば神父様が言ってた、アオイは人を見る目があるって……
それは自分に対して危害を加えるか、味方と見なしても良いかを瞬時に判断する、とか。
つまりドン・グレゴレッティは危害を加えないと見なしたのだろう。
俺はあの傲慢な態度が少々苦手、なのだが……

「ハハッ、気に入ったぞ!俺に臆する事なく握手を求めてきた奴なんざ久々だ…ルキーノでいい、俺もアオイって呼ばせてもらう」

豪快と言ったら正しいか、ルキーノはアオイの手を取ると笑ってそう言った。
その間、俺はかやの外。

……ってか、アオイちゃんたら挨拶終わったらサッサと"席は空きが少ないから別で……"とか言っていなくなっちまうしよ。
食事中はいつもどっか行っちゃうし、ちょっと寂しいわン……

「…ジュリオって幹部の……"ナイフ使いのジュリオ"?マジで幹部大集合だな」

「あぁ…だが、カヴァッリ爺様は除いて・だ……爺様が逮捕を免れたのは不幸中の幸いだった」

「へぇ…さすがタヌキの爺様」

席に着いてからの会話は先程ルキーノとベルナルドがしていた会話の登場人物、幹部第4位で現役のソルダート…ジュリオ・ディ・ボンドーネだ。
コイツもここの刑務所に移送されることになったらしい。
リンゴをシャクっとかじる。
ここにはいない…現在幹部筆頭、トーニオ・カヴァッリ以外刑務所にぶち込まれたということだ。

それからジュリオを紹介してやるというベルナルドに軽く遠慮して、食事を進める。

「――って、四回も脱獄に成功してる俺のこと…忘れてません?」

「その結果、空いてた警備の穴は塞がれた…と、保安局が判断したんだろう」

「なるほど」

確かに、同じルートは二度と使えねぇしな……

そう想っていると何も手をつける事無くベルナルドは席を立っていて、それを見送って物思いに耽っていた。
そんな俺にガシャンッと音耳に入り、気がそちらへと持っていかれて顔を上げると、どうやらGDの奴がCR:5の誰かにちょっかいを出しているようだった。

おいおい、ムショでまで荒れるのはよしてくれよ……って、アレ!?あのアメジスト色の隣に座ってるのって…アオイ!?

面倒毎は嫌いだが、愛しのダーリンが巻き添え喰らうなんてもっと嫌だ。
そう思い席を立った時だった。

「……謝ってくださいませんか?」

「あぁ!?…見ねぇツラだな、テメー」

隣の奴の肩を叩いて、アオイは下から睨み付けるようにGDの男を見据えている。

「俺を知らない?…そうですか、そんな事より謝って下さい。貴方のおかげでこの人の朝食が台無しです。それに…ケンカなら俺が買いますよ」

ぅえ!?な、何か雲行き怪しくなってってないかい!?

立ち上がったアオイと対峙する男が拳を握ったのを見て、俺の心臓は早音を打つ。
間に合ってくれと駆けだした俺に高い笛の音が届いた。

「そこまで」

「ジョシュアさん、タイミングばっちりです」

「爽やかな笑顔で言ってくれるな、アオイ…まったく、頼むから俺の勤務中に騒ぎは勘弁してくれよ……あんたもだ、懲罰房に入りたいか?嫌なら片付けろ」

「なっ…!!?アオイ、だと!?お前が…ッ」

二・三歩後ずさった男は青い顔をして、いそいそと片付けだした。
その様子が気になったものの、俺はアオイへと駆け寄り様子を窺う。

「俺の残りで悪いけど、良かったら食べて…少しでも腹に入れないと、昼まで保たないからさ」

「…ぁ」

何だかよく分からないが、俺のまったりムショライフはこれで安泰。
今日は格好いいアオイちゃんにドキドキさせられたし、見直した。
隣の男に食べ物を分け与えた優しいアオイが、俺を見付けて柔らかく笑んで行こうかと促してくる。
俺は喜んで、アオイの隣を寄り添うように並んで歩いた。

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