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「ジャン!ジャンカルロ・ブルボン・デル・モンテ!」
ブザーの喧しい音と、看守のジョシュアが俺を呼ぶ声で覚醒する。
嫌な目覚ましだぜ、まったく……これが愛しのダーリンだったら、そりゃ素晴らしい目覚めになったろうに
「起床時間だ、点呼が終わったら動いていいぞ」
「ん〜…女神のネーチャンが離してくんねぇ…」
「起きろ!ジャンカルロ・ブルボン・デル、ヴぉんッ」
「ぷっ…分かったよ、ジョシュア……チャオ!」
噛んだジョシュアに思わず吹き出してしまい、気怠いながらも起きてやることにした。
ジョシュアはどうも居心地悪そうな顔をすると格子をゆっくりと開けていく。
「お前の顔を見るとホッとするな…」
「へぇ〜、俺ってそんなに癒やし系?」
「バ―カ…昨夜の間に脱獄してなくてよかったってことだよ、もう四回だぞ?幸運な奴め」
苦笑混じりに言ってくるジョシュアにおどけてみればバカ呼ばわり。
まぁ妙な二つ名もらっちまうくらいだしな、そこはしょうがない。
「例のアレでお前も大変だろうが、今回は大人しくしててくれよ?」
ジョシュアはそれだけ言って隣の房へと向かっていった。
"例のアレ"とは、俺の所属しているイタリア系マフィア、"CR:5"
そこの幹部が連続逮捕され、この刑務所にうち3人が収監されている。
俺は下っ端の構成員だから、関係あるようで無いようなもんだ。
問題だって、特には―……………
あった……ッ!
「ふぁあ〜……」
「無視すんじゃねぇ!…わざとらしーんだよ、挨拶ぐらいしやがれ!…上の者に対する礼儀がなっちゃねぇぜ」
背伸びをして誤魔化してみたが、あんまり効果はなかったようだ。
只今俺にメンチ切ってんのはCR:5幹部第5位のイヴァン・フィオーレだ。
「オラ、"掟"!知らねぇとは言わせねぇぞ」
……"オメルタ"、ね…
―…服従と沈黙の掟…―
"自分より上位の構成員に逆らってはならない…逆らった者には壮絶な制裁を―……"
組織で"掟"が絶対なのは分かっちゃいるが―……新参で年下、去年幹部になったばっかのコイツを"叔父貴!!"なんて…呼びたくねぇ……
「ん……、ん―…耳鳴りが…」
「何ほざいてやがるジャン!……今日こそツラかせ、じっくり教育してやろうじゃねぇか」
よくもキャンキャンと、飽きもせずまぁ…
ハァ…無視してぇ、うるさいし…それに俺早くアオイちゃんとこに行きてぇんだよなぁ。
そんな事を思いながらガムを膨らませていると、怒鳴るイヴァンに襟首を掴まれてベッドから引きずり降ろされてしまった。
「ジャン?何してんの?」
「おはようジャン、朝飯行こうぜ?」
「あれ?アオイはともかく、早いな」
ぽやっとしたアオイがひょっこり顔を出し、その隣で格子に手をついたベルナルドが俺とイヴァンを見下ろしていた。
やっぱ寝起きのダーリンはぽやぽやしててかぁいいなぁ…。
「昨夜…隣の隣の房に越してきたんだ…お前の近くがいいな、って思ってね」
「イヤァ〜ン!…そんなに私の側にいたかったの?ダーリン」
「お前が浮気しないか気が気じゃなかったんだよ?ハニー」
ベルナルドは古参の幹部で、現在第2位の男だ。
俺とは古馴染みで、こういったフザけたジョークにも付き合ってくれる気楽なヤツ。
「んんっ、ゴホン!…お、俺はもう…行く、からなっ」
「……お邪魔しました」
冗談の通じねぇ男だと思っていたら、ここにも一人いた。
慌てて立ち上がり房を出てアオイへと駆け寄る。
「って、待てよアオイ!!勘違いしちゃヤーよ、私のダーリンは…アオイだけなんだから★」
「つれないな、ハニー……助けてやった俺は置いてきぼりかい?」
「っ、と…グラ〜ツェ」
アオイの腕に絡ませるように引っ付きながら見上げると、まだ寝ぼけた顔をしたまま俺の髪を優しく撫でてくる。
それを受けながらベルナルドへ礼を言うと苦笑されてしまった。
「相変わらずお前に絡んでるな、イヴァンの奴」
「ん―…妙にシツコイけど、俺に気でもあるのかしらねぇ」
「お前は顧問の爺様方や、何よりボスのお気に入り……新参のアイツにとっちゃ噛み付きたい相手なんだろ」
ベルナルドの言葉に少々首を傾げていると、ようやくアオイも覚醒したようでベルナルドに挨拶をしていた。
「新参って、さっきの人ですか?」
「あぁ、何かにつけてはジャンに絡んでてな…」
困ったように笑うベルナルドと組織の話をしていた俺、その間アオイはどこか遠くに視線を向けていた。
その様子を少し気しながら、俺たちは食堂へと向かった。
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