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アオイは勉強熱心だった。

孤児院にはよく絵本やら服、他にも色々と寄付されたものがある。
アオイは気になったモノを見つけると俺の服を摘んで指を差す事が多くなった。

「…ぅぁ……っ、…んっ」

「…えほん?」

裾を引かれて振り返ると絵本を抱えたアオイが口をパクパクさせながら何かを訴えてきていて、俺はそんなアオイに笑いかけると手を取って、教会へと向かった。


本を開くと始まる、アオイの質問攻め。
"う"とか"あ"しか発音出来ないアオイはいろいろなモノを目にしては指を指して訊ねてくるのだ。
神父様曰わく、俺と仲良くなりたくてしている行為で、俺の言ってる事を理解したいからなんじゃないか…という事らしい。
もしそれが本当なら、嬉しい。
だから俺は、俺の知ってる限りをアオイに教えてやりたいと、そう思った。

「これ?これは、"くつ"…で、こっちは"かいだん"」

最近気づいたが、アオイは俺の言葉を聞いた後、それを反芻するように口を数回動かしていた。
それを見ると俺は先生になった気分になってワクワクしていた。
そしていつも最後に俺は自分を指差して"じゃぁ、コレは?"と質問する。
するとアオイはいつも笑顔で口を"ジャン"とゆっくり動かしてくれるのだ。
それが嬉しくて、俺はいつも"アオイ大好き"と言って頬に口付けるのが定番になっていて、今日もそうなる…はずだった。

「アオイ!」

「…?」

「コレは…?」

いつもならここで笑ってくれるのに、アオイはいつにも増して真剣な表情をしながら口をパクパクとさせ、辛そうに眉を寄せたかと思うと唸るように声を発した。

「…アオイ?」

「…うぅ…っ、うぁ…」

「どうし…」

「…じゃ…ん…ッ」

その声は絞り出したように掠れていて、とても小さく聞き取るのがやっとだったけれど、確かに俺は受け取った。

「…っ、アオイ!」

「…じゃ、ん……っ、じゃん…!」

嬉しくなって思わず抱き締めていた俺の耳に、アオイの俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

初めて聴いたアオイの声、鈴の音のように透き通っていて、それはそれは綺麗な声だった。

「アオイ、大好き」

「じゃん、大、好き…じゃん…」

俺の言葉を繰り返すアオイに、マセた俺は愛しさを募らせていった―………

―…………
………





「何、ニヤケてんの?ジャン」

「ぃやぁ〜、昔の事思い出しててさ」

「ジャンには世話になりっぱなしだったね……感謝してる、ありがとう」

日差しの当たる運動場の片隅で、木陰に寄り添うようにしていた俺は隣にコイツが居ることに、絶賛浮かれ中だったりする。
未だニヤケる俺にアオイはあの頃と変わらない優しい笑みを向けてくれる。
見た目が変わったってアオイはアオイ、俺の惚れたあの笑顔は今も健在で、俺の胸の奥をおかしな感覚にさせている。


アオイの肩に寄りかかって、瞼を閉じると頭にかすかな重みが掛かってすり寄ってきた。
幸せの一時を甘受して、夢へと誘う波に飲まれた。


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