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………






「……………ッ」

目の前の光景に絶句する。
押し込められた古いアパートの一室は悲惨なものだった。
むせかえるような血の臭いに手で口元を覆うが、目の前に飛び込む赤一色のせいであまり意味をなさない。
この現状に頭が警報を鳴らしていた。

早くここから出ろ、逃げろと脳は告げているのに身体が思うように動いてくれない。
それは分かってる。
だってあの日に似ているから…

昔の記憶とを勝手に照らし合わせる脳がイメージとして見せる。

「どうして……なんで…っ……俺は生きてるの……?」

違う、そうじゃない。
これはあの日とは違うと思っても、流れ込む過去と目の前に広がる光景とがダブり、頭と心がちぐはぐになる。

鳴り響くサイレンに気付き我に返る。

そうか、ハメられたんだ…

気付いてドアへと駆け寄りドアノブを回すがビクともせず、諦めて窓へ向かってみるがここは3階。
生きられたとしても骨が砕け、逃げ切る事はかなわないだろう。

「警察だ!居るのは分かっている、大人しく降参しろ!」

ドアの向こうから聞こえた声に振り返る。
煩くなる心臓を掴むかのように胸元をグッと握り締め、事の成り行きを窺うように目を凝らしていた。
何故だろうか、状況は不利でもう逃げ道すらなく、心臓はこんなにも早音で汗が滲んでいるというのに、やけに冷静な自分に驚かされる。

ドアを蹴破ろうとする音、扉一枚隔てたそこで交わされている会話が小さいながらも耳に入ってくる。

諦めてしまったのだろうか、俺の身体は

いや…諦めというよりも、解放を望んでいるんだ…
この現状全てから逃れる事が出来るのなら、捕まるのも…良いかもしれない

そんな風に思ってしまうほど、今の現状は耐えきれない場所であった。

ついにドアが蹴破られ、数人の警官がドタドタと部屋へと踏み入り、周りを囲んでいくのをどこか他人事のように見ていた。
正面にいる警官が何かを発しているが耳には入ってこず、後ろにいた警官が腕を拘束していくのを黙って受け入れる。

これであの部屋からも抜け出せる…一石二鳥じゃないか

どうなるかは分からないが、せめて……


「せめて最後に一目だけでも、逢いたいな……」

ぼそりと呟いた言葉は誰に届くこともなく、小さな空間へと霧散した。




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