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結局今日の調査はお預け。
3人で仲良くホテルの一室で夜がくるまでダベる事になってしまった。
「………ハァ」
本日何度目かの溜め息をかました俺は運転中だったりする。
今日は俺がいるからと、ジュリオの部下は待機ということになり、運転すると聞かないジュリオを後部座席へ追いやって、今はターゲットがいるであろう目的地へ向かって車を走らせていた。
溜め息の理由―……それはホテルから始まっていた。
楽しそうな顔をしたジュリオの口から聞かされるのは、初めてのムショ暮らしアンドデイバンに戻るまでの脱獄中の出来事。
それはまぁいい、ジュリオがこんなお喋りなのも珍しいし、新しい一面を知れて嬉しくもある。
でもそれは全てジャンにまつわる事なのだ。
好きな奴から別の男の名前が出てくるだけでも面白くないのに、またそれが嬉しそうに頬なんか染めて語られるものだから、俺のためにと覚えてくれた日本語も、聞くに耐え難いものに感じられた。
そして現在、多少の緊張を持ったジャンはこの空気をどうにかしたいのか、ジュリオとお喋り中だ。
大好きなジャンから話し掛けられてるんだから、ジュリオが相手をしないワケもなく、二人は仲良くしている………ように俺には見える。
ミラー越しに見るジュリオの顔は俺が見たことない笑顔で、男の嫉妬だなんて見苦しいのは分かってるがどうしても胸がざわついてしまう。
「……ハァ…」
「何だよアオイ、運転疲れたのか?」
「俺、代わります…っ」
「…いや、疲れたワケじゃねぇよ。心配させて悪かったな、ちょっと考え事してただけだよ」
俺の溜め息を聞いてか、身を乗り出してきたジャンに慌てた様子で申し出るジュリオ。
ミラーに映る心配そうなジュリオに笑いかけてハンドルを握り直す。
ジャンは笑って未だ運転を代わろうとするジュリオを宥め、どうにか諦めさせてくれたみたいだ。
「…ココか?」
車を降りてジャンが辺りを見渡している。
デイバンの郊外、ここでCR:5を裏切ったヤツらが集まっているらしい。
今回は幹部が戻ってきたと知らしめるため、見せしめとして派手に暴れるのが目的だ。
これでGDの動きが変わるだろうと思ってるんだが……俺の調べてるモンがこれで隠れたら、って思うと何とも言い難い気分になる。
「いつも通り、ジュリオの好きなようにヤッていいよ。俺はジャンを守りながらその他雑魚を片すからさ」
「…分かり、ました」
久々の仕事にウズウズしてるといったところか、ジュリオの雰囲気が少しだけ変わった。
俺はジャンに声を掛け、俺の側を離れないようにと告げてから、ジュリオとは反対方向から回り込む。
「なぁ、アオイちゃんの武器ってソレなのけ?」
"ソレ"と指差されたのは腰に差した日本刀と脇差しだ。
「この子は武器じゃなくて俺の愛刀達だよ…彼女っていってもいい」
「…わぉ、アオイってそういう人だったノ…」
「何が言いたいんだよジャン……レディのように扱わないと錆びるし、刃こぼれする。大事にしねぇと」
鞘を優しく撫でながら笑んでみせるとジャンは呆れたような苦笑いをして小さく息を吐いた。
「そう…けどよ?それじゃ銃相手だとヤバくね?」
「まぁ見てろって、俺の鬼刀舞姫と紅時雨の活躍をさ」
脇差し、紅時雨に手を掛けて壁から顔を覗かせると丁度反対側でジュリオも同じようにしていた。
見える見張りは2人。
入り口の前に並んで立っている。
俺はジュリオに目配せをして同時に駆け出した。
さぁ、ショータイムの始まりだぜ?
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