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麦畑を歩いていると森の方へと消えていく人影を捉えた5人は、少々興奮気味にその後を追うことにした。
「なぁオイ!男って可能性はねぇだろうなぁ!?」
地図を見つめていたイヴァンはハッとしたように顔を上げると他に聞こえない程度の声でそう切り出した。
前を歩く人物は小柄ではあるが服装はチェック柄のシャツにオーバーオール、麦藁帽子を目深に被っていてその表情は窺い知れない。
全員が遠目で目視しただけで女性だと認識したということは間違ってはいないはずだが、今の極限状態で果たしてそうだと言えるだろうか?
前を歩いていたジャンはゆっくりとイヴァンへと視線を向けてその表情を盗み見る。
眼球は心無しか血走り興奮しているのが見て取れた。
「まぁ脱獄してすぐだしな…けど、女だったらラッキージャン?」
にんまりと笑んだジャンにイヴァンはスラングを並べ立てようとしたがベルナルドに止められる。
「馬鹿か、気付かれる」
「……チッ」
「オイ、池が見えてきたぞ」
先頭を歩いていたルキーノの声に皆一斉にそちらへと駆け寄る。
唯一ジュリオだけは辺りを警戒しているらしく、キョロキョロと見渡した後、ジャンの後方へしゃがみ込んだ。
どうやらターゲットは水浴びをするようで、ゆっくりとその身に纏った衣服を脱いでいく。
「ワォワォ!いいねぇ亜麻色の髪!白い肌によく映える」
「……ジャン、さん…」
「……ん?何だよジュリオ」
誰が口説き落とすかの順番決めをしていると不意にジュリオが訝しげな表情でジャンに声をかけた。
ジャンは振り返るとにやついた顔でジュリオを見やる。
「罠、かもしれません」
「ハァ?」
真剣な表情で告げられた言葉にジャンは一気に頭が冷える。
自分たちが脱獄をしたのを村人が知り、自分たちを発見…罠にかけて捕まえ警察へ……確かに無いわけではないと考えに至ったジャンは意気揚々と池の方へと向かうルキーノを呼び止めようとしたが、既に遅かった―………
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