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「……アンタを見つけた時、誰かと話しててそれで…っ」
すぐに声を掛けようとしたけど、出来なかった
そう続けたアキラは下を向いてしまった。
一瞬何の事だか分からなかったが、思い当たる節が1つだけあった。
それはいわゆるナンパで、女性が2人遊ばないかと声を掛けてきたから軽く断ったのを思い出す。
あれを見られていたのかと苦笑していると、アキラは拗ねたような声で言葉を切り出した。
「俺の知らないヤツに、あんな風に笑いかけて…女と並んだアオイが自然に見えてそれで…ッ、俺は…」
自分の胸に手を当てて、ギュッと服を握りしめたアキラをみてフッと笑みが零れる。
それに気付いたアキラは訝しげに俺を見つめてきた。
「ごめんごめん、ただ安心したんだよ」
「安心…?」
「だってアキラは嫉妬してくれたんだろ?俺が他の子に優しくしたり笑いかけたりするのが嫌で、それで不機嫌になったって事だろ?」
指摘された事に理解出来なかったのか瞬きを数度繰り返した後ボッと一気に頬が朱色に染まった。
なんとも可愛い反応をしてくれる。
撫でていた手に力を込めて一度握ってやり、それから指を絡ませるようにして繋いだ。
もう冷めて美味しくないだろうパスタを一眼してアキラへと向き直る。
「でも悲しいなぁ…」
少し大袈裟に嘆くように言葉を漏らすと、アキラは小首を傾げて俺の様子を窺ってきた。
そんな彼に少しだけ意地悪をしてやりたくなってトーンを落とした声音で話す。
「“自然に見えた”って、つまりアキラは俺が女の子と一緒にいる方がいいって思ったって事だろ?」
「……ぁ」
「俺はアキラが好きで他なんか眼中にないってのに、アキラは俺を独占したいって思うより“他の奴が傍にいた方がいい”って思っちゃうんだ」
「違……ッ」
「何が、違うの?」
強情で頑固、それでいて自分の感情に疎くて無知。
口下手な彼だから出来るだけ理解して汲み取ってあげたい。
でもやっぱりさ、彼氏としては恋人から愛情表現してほしいんだよね。
態度はまずまず、だから次は……君の唇で愛を紡いでほしいんだ……
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