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“アダムとイヴを知ってるかい?”

昔、小さい頃伯父さんが言っていた。
俺たちが恋愛出来んのはソイツらが犯した罪のおかげだと。

そしてシスターは言った。

“男女が恋に落ちるのは運命で、生まれた時から結ばれる事は神がお決めになられたことなのよ”と。

けれど移民の親父はこう言った。

“男女が愛し合うのは普通だ。この世には男と女しかいないんだ。そんな世の中で男と女が結ばれんのは当然だろう?”

男女が愛し合い、結ばれ愛を営むのはごく当たり前で普通で至極必然なこと。
それはどんな幼い子供でも分かる。
そうじゃねぇと女は子を孕まねぇし、自分たちが生まれる理由がなくなる。
けれど俺が守りたい、傍にいて愛してやりたいと思うのは―………









ザシュッ

最近では聞き慣れた肉が裂ける音。
最初こそむせかえる血の臭いと悲惨な光景に吐き気で気が狂いそうになったがもう、慣れた。





10にも満たないガキの頃、両親が他界し親戚に預けられた俺はそこで親父たちがヤクザ者と交流があった事を知らされた。
子供に罪はない、とか綺麗事を並べるオバサンも俺を蔑んだ目で見るし、正直あまり良い思いはしなかった。
そんな時、俺は突然押し掛けてきたヤクザの下っ端に連れられて親分の前に……殺されるのかと思ったが違い、俺を育ててくれると言ったオッサンに数年程世話になった。
それからすぐだ。別の組とドンパチおっぱじめちまって親父や叔父貴、兄貴たちまで遣られちまったのは。

そこの若頭が傷だらけの俺を気に入って(顔が綺麗だとかで)、縛り上げられ連れて行かれたのが外国だ。

真っ暗闇から突如浴びせられる眩い光に目が眩みそうになった俺が見たのは、気味の悪い仮面を着けた奴ら。
今思えばあれは“競り”だ。
指輪やらの装飾品を身に着飾った老若男女が下品な笑みで俺をみて、ワケの分からない言葉が口々に飛び交う。
拍手喝采―……つまり俺は高値で買われた、と言うわけだ。

目隠しをされて車に乗せられ、縄と目隠し、猿轡を外されたのはとんでもなく豪華な一室でだった。

“何も怖がる事はない、安心しておくれジャポネーゼ”

そう拙い日本語で話した初老の男。
それが俺、九条アオイとトーニオ・カヴァッリの出会いだった―………





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