9/4

―………



スクリーンの中では牙を生やしたベルナルドが、楽しそうに女装の俺の首筋へその牙を立てている。
そして今の俺はスクリーンから飛び出したように瓜二つ、“サラ”の衣装を身に纏っていた。

所謂試写会というヤツに出席中なワケだ。
隣には得意気な顔をしたドラキュラ様が自分の演技に惚れ惚れ、といった様子でスクリーンを見つめている。


エンドロールが流れ、拍手と歓声を浴びた俺達は軽く挨拶を済ませて会場を後にした。






「流石はマイスウィート、名演技だったね」

「変態の演技をさせたら、アンタの右に出るモンはいないんじゃねぇーの?」

「ふははっ、誉め言葉だと取っておくよ」

車を途中で降りて2人、どこかで酒でも飲もうかと歩いていた。
そんな中何気なく見上げた夜空には、映画の中にいると錯覚してしまいそうなほど鮮やかな赤い月。
ぼんやりとそれを見つめていると、先を歩いていたベルナルドが俺を振り返り、視線の先へと同様に見上げた。

「映画さながら、とでも言おうか…なんとも素敵な演出だね」

「とか言って、分かってて車降りたんじゃないのけ?」

「なんだい、ジャン。俺はそんなに打算的な男に見えるのかい?」

「アンタならやりかねない」

困ったなと言う割にはそうでもなさそうな表情をしたベルナルドは踵を返して俺の元へと戻ってくると、さり気ない仕草で手をとり、薄暗い路地へと誘導する。

オイオイ、これじゃマジで映画のワンシーンじゃねぇか。

ポケットに牙も仕込んでいるんじゃないかと思うと頭を抱えたくなる。
そうこうしているうちに背にひんやりとした感触がして我に返る。
壁とベルナルドに挟まれ、彼の背には映画よろしく真っ赤な満月。

映画と少し違うのは、その唇が触れたところが首筋ではなく口だということ。
甘く啄むような口付けを受けながら、その合間に囁かれる俺の名を聞く。
その熱っぽい声音に俺もなんだかその気になって、ベルナルドのスーツが皺になるのも気にせず腕を回して強請るよううっすらと口を開いた―……




[ 4/9 ]

[*prev] [next#]


[mokuji]
[しおりを挟む]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -