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あれからどのくらい経っただろうか。
ベルナルドは何杯目かの酒を一気に呷ってこちらに顔を向けると、柔らかく笑んでゆっくりと手を差し出してきた。
どうするのか、その行き先を把握する前にそれが頬をやんわりと撫ぜる。
その何気なく触れられた事に胸がトクンと高鳴った。
男にときめくなんて…そんなに飲んだ覚えはないのに

「サラ、その……今日はもう終いだろう?…もし予定がないなら、少し歩かないかい?今夜の月はとても綺麗なんだ」










その言葉につられたフリをして、彼の隣をゆっくりと歩く。
変わらず隣を歩いているのは、彼が俺に歩調を合わせてくれている証拠だろう。
紳士的なそれは見掛け倒しではないようだ。

ほんのり色付く頬を一眼して、真っ暗な空へと視線を向ける。
そこには不思議な赤い色をした月が浮かんでいた。

「こういう夜には人が居なくなるそうだよ」

「え…?」

「赤い月の夜、若く美しい人が一人夜道を歩いていると突然姿を消すそうだ」

「なぁに?それって、人攫いが出るって事なの?」

月を見つめていた俺は視線をベルナルドへと移して問い掛ける。
するとベルナルドはこちらを振り返ると妖しく笑んだ。

「いやいや、そうじゃない。赤い月の夜にはね、出るんだってさ」

「出るって…何が……?」

からかうように目を細めるベルナルドに少し臆しながら訊ねると、彼はピタリと足を止めて俺の前に立ちはだかる。
おかげで陰になり、ベルナルドの表情が分からなくなってしまう。
そんな中、彼はこう告げた。

「ヴァンパイアが、ね」

「な…ッ!?」

驚いたのはその言葉にじゃない。
不意に腕を掴まれてもつれた足はそのまま、薄暗い路地へと押しやられたからだ。

「何す…っ」

「知ってるかい、サラ…赤い満月の夜は………」

赤い月をバックにベルナルドは恍惚とした表情でゆっくりと俺の耳元へ唇を寄せてきて、熱い吐息を吹きかけるようにして舌を這わせてきた。

「……人を狂わせる魔の夜だって事をさ……」



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