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そして本日もそれは変わらない……そう思っていたのに、どうやら違うみたいだ。
今日もいつものようにほんのりメイクに髪飾り、纏めた髪を指でいじりながら隣を少し盗み見る。
いつもとは違うバラの数。
一輪ではなく束で渡された事に驚いたが、それ以上に驚いたのがセリフだ。
普段ベルナルドは俺を“ディーヴァ”か“歌姫”としか呼ばない。
けれど今日に限って“サラ”と呼んだのだ。
“サラ”というのは俺のここでの名だ。
面倒事になるのは避けたくてそう名乗っているが、何故だかコイツに呼ばれて妙に胸がざわついた。
そっと視線を巡らせる。
整った顔にフレームの薄い黒縁メガネ、クセのあるグリーンの長い髪を緩く縛って、視線はグラスに注がれている。
それを辿ってグラスへと目を向けると、長くしなやかな指がグラスの縁にただ触れるように添えられ、それが揺れる度に氷がグラスにぶつかって何とも心地好い音色を立てた。
何て絵になる男だろうか。
ついつい惚けて見つめてしまう。
「…なぁ、サラ」
グラスを一口呷った後、決心がついたとでもいいたげな表情になったベルナルドが、視線をそのままに口を開いた。
「君はモテるだろう?口説かれるって事もよくあるだろうし」
「そんなつまらない事聞いてどうするの」
「そうだな…」
「それに、恋人はいるかだの、好みはどうかだの、そんなの聞き飽きたわ」
花弁を指先で弄びながらそう告げるとベルナルドは苦笑を浮かべてそれきり黙り込んでしまった。
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