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「何故逃げる…っ?アオイッ」

「振られるの分かってんのに、当たり前でしょ!?いい加減…離してよ」

緩められた腕にようやく解放してもらえるのだと思い、素早く動けるようにと足に力を入れたところで身体が不意に傾いて焦る。
何事だと思ってるうちに身体は回転していて、目の前には赤らんだ佐助の顔。
ビックリしている私をよそに、佐助は私を引き寄せると優しく壊れ物を扱うかのように抱き締めた。

「さす…」

「否」

「え…?」

耳元で囁かれた否定の言葉に疑問符が浮かぶ。
しばらく待っていると微かに息を吸い込む音がした。

「我、好きな人、いる…それ確か。けど否」

「……違うって、」

「アオイ」

言葉を遮られて呼ばれた事に少々不満を持ったけれどそれは飲み込んだ。

「何よ…」

「我好意寄せる、は…アオイ」

「!!」

同時にきつく抱き締められ、この行為は赤らんだ顔を見られたくないものなのではないかと思い至る。
肩口にかかる吐息が妙に気恥ずかしく、身動いでみたけれどより力が込められた腕に脱力して、そっと彼に身体を預けた。

「好きな人、いる。それ守る、力になる…アオイ我、守る」

だから無問題と告げられた言葉に頷き、佐助の背へと腕を回した。

ずっと憧れていた彼の腕の中にいる、佐助の匂いに包まれながらそんな幸せを噛みしめた、そんな真夜中のこと。


END

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