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キュッと唇を引き結んだ佐助が近付いてきたかと思うと、身体に微かな重みがかかりぎゅっと締め付けられた。

佐助に抱き締められてる

そう気付いたのはそれから数秒経ってからの事。
慌て離れようとしてもかなりの力を込めているのか、どれだけ身じろいでもびくともしない。

「泣くなアオイ」

「別に泣いてなんか…ッ」

「泣いてる」

「……!」

私を抱き締めたまま顔を覗き込んできた佐助は、指を私の目元へと触れさせると優しく滑らせる。

「アオイ悲しませる、許さない。相手誰…才蔵?」

「な、何で才蔵!?」

「違う?…なら、六郎?」

「いやいや、違うから!」

「……まさか、」

そこで言葉を区切った佐助に否定し続けた自分を呪った。
これじゃ“好きな人はアナタです”って言ってるようなものだ。
覚悟を決めて彼の言葉を待つ。

「……………幸村さ」

「何で私が幸村様好きになんなきゃならないのよ!ってかあんなエロオヤジ、仕えても好きになんて絶対ならない!それに何で自分省くのよ!私が好きなのはさす…っ」

有り得ない相手の名が出た事が頭にきて、怒鳴るように声を荒げてしまい失態を犯した。
みるみると表情が変わっていく佐助の様子に今度は私が顔を強ばらせる番。

「アオイ…?」

「…!!」

「アオイ好意寄せるは………我?」

訊ねられた事に冷や汗が出る。

やってしまった…
もう終いだ…

呆気にとられたのか緩んだ腕の拘束を私は見逃さず、瞬時に腕から逃れて森の方へと駆け出した。


これでも忍の端くれ、気配を消して隠れるなんて造作もない事だと森まで来たはよかったものの、それ以前の問題が発生した。
森に入ったと同時に、私は佐助に捕まってしまったのだ。

「離してよ…ッ」

「否…!」

後ろから羽交い締めにされ腕を解く事ができず、抵抗するのももう疲れて全身の力を抜いた。



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