6/6
蝉の鳴き声でより暑さが増す今日この頃。
「……」
「…………」
クーラーに換気は当たり前の私の部屋で可愛いお耳がピョコピョコ。
おまけに小さな尻尾も揺れている。
彼がウチに来てからもう2週間が過ぎた。
分かり難い事もしばしばあるけど、誰かと同棲したのが初めての私にしては上手くいってると思う。
液が固まるまで暇だなぁと首を回して解していた私の視界に、小さな彼の背が映り込んでしばし観察をしてみることにした。
ペタリと座り込んでソレに没頭しているらしく、こちらが見ている事に気付いていないようだ。
小さく苦笑して愛らしい背中を見続ける。
「…あ、ぅ」
しばらく経った頃、微かに聞こえた機械音の後、彼が悲しそうに声をもらした。
そしてくるりとこちらを振り返り、涙目で見つめてくる。
「…負けちゃい、ました」
そう呟く彼の小さい頭を優しく撫でてやって微笑む。
3日ほど前のことだったか、暇つぶしに取った音ゲーをしていた私を、彼が興味深げに見つめていたので試しにやってみるかと勧めたのだけれど、それが気に入ったようで、今日もピコピコと小さな手で操作している。
今日は制限時間つきのパズルゲームをプレイしていた模様。
「コレ、難しくて…」
「どれどれ?」
覗き込んで画面を見つめるとジュリオの小さなおててが“スタート”の文字をペチッとタッチする。
ピロリロリ〜ン♪っと軽快な音と同時に数字が減っていく。
目の前の頭が前後左右に動いて、ポチポチと枠の中へと様々な形のブロックを並べては、違うと枠外へと戻す。
それを繰り返しているとバックで流れていた穏やかな音楽が急に激しくなり、気持ちを焦りへと誘う。
案の定ゲームオーバーを迎え、長い耳が悲しげにへたり込んだ。
「ぁ…の、」
「ん?」
「一緒、に…一緒、やりましょ…?…アオイ、さん」
一瞬の間の後、私は激しく動揺した。
だって初めて彼が私の名前を呼んだんだよ!?
そりゃ動揺もするわよ!!
固まる私に小首を傾げた彼は不思議そうな顔をしていて、我に返った私は何でもないと笑って画面へと向き直る。
再びジュリオがスタートをタッチして二人で画面を見つめ、小さな手と私の指がブロックを選んでは枠へと入れていく。
それから何度もゲームオーバーして、私とジュリオは意地になってゲームをしていた。
そしてようやく……
「やったー!!」
「ク、クリア…しました…クリア、しました!アオイさん!」
満面の笑みでぴょんぴょんと跳ねるジュリオが可愛くて見ていると、不意に彼の手が私の腕に触れてきて驚く。
今まで彼から私に触れてくることなんてなかったから余計にだ。
それがよくなかったのか、元気よく立てられていた耳が後ろへと下がり、触れていた手も引っ込められてしまった。
「ジュリオ…?」
「ぁ…すみ、ません…俺…っ」
おどおどしだすジュリオに優しく触れて撫でてあげると、今度は逆にビックリされてしまった。
「二人でするの、楽しかったね」
そう私が言うと、ジュリオはぱぁっと花が咲いたように微笑み、はいと頬を染めて頷いてくれた。
それからというもの、ジュリオは私が暇そうにしていると駆け寄ってきてゲームに誘ってくるようになった。
今では一緒にRPGやカードゲーム対戦なんかもするようになったりと、小さなゲーマーへすくすくと育っています、まる
[ 6/6 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]